見出し画像

Newコタまり第10号「石ころ」

(以前に書き溜めたコタまりを加筆・修正してお送りしております。)

かなり前の話ですが、とある機会がありまして、山口の川棚温泉に行ってきました。

「川棚グランドホテル」の温泉に入ってきたのですが、
ここの「山頭火」と名づけられた温泉が非常に斬新なデザインで、脱衣場のそこかしこに、種田山頭火の俳句が書かれているんです。
まるでデザインのように。今も昔のままかなぁ…。

温泉も気持ちよかったんですが、壁とか天井に書かれている句が
ものすごく印象に残っています。その中に、こんな句がありました。

  うつむいて石ころばかり

ものすごく切ない感じの句ですが、
人生ふんだりけったり。
なんか私も、今はそんな気分です。

自分を売る商売だけに、「人」は命。
でも、人ほど不安定なものはないんですよね。
突然いなくなってしまう。
病気にもなるし、いやになればやめてしまうし、学生はどんなにがんばってくれても、せいぜい2~3年で卒業ですし。
うちの業界はとにかく人の出入りが激しくて、
気がついたら、いなくなっている人がたくさんいます。

ぽっかりと空いた穴を埋めることの大変なことといったら…。
何度こんなことを繰り返したことやら。
必死に新しい人間を育てています。
でも、この人もいつまでいてくれるんだろうか…?
常にそんな気持ちを持ちながら仕事をせざるを得ない、この辛さ。

でも、どこの業界に行っても同じ、日常の何気ないひとコマなんですよね。
普段当たり前のように繰り返している時は、そんなありがたみなんてこれっぽっちも感じなくて、でも、ある日突然なくなっちゃう。
なくなった時に、本当にその存在の大きさに気づく。

なんとも言えない、この喪失感。下向いたら、石ころばっかり。

もうひとつ、山頭火の句です。これは天井にほんとうに小さく小さく書いていました。

   捨てきれない荷物のおもさまへうしろ

そう。どんな辛いことがあったって、明日は来るんですよね。
たまには後ろに下がることがあるかもしれないけれど、前へ進むしかないんですよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

実はもともとこの文章を書いたのは10年前。
10年経っても結局変わってない(笑)
ということは、ずっと繰り返すんだろうな。
各地を転々として句を詠み続けた山頭火。温泉地を特に好んだそうです。
現代人から見れば、各地を転々としながら温泉に入って、いい人生だな…。
と思ってしまいがちですが、山頭火にだって、苦悩はあったはずです。
きっと現代の私たちのような苦しさを抱えながら、
句を詠んでいたんではないだろうかと思っています。

辛いときは、花見して、お酒飲んで、
ラーメン食べて、温泉入って、大笑いすりゃーいいんだよ。

こんなところでくじけてちゃいけないんだよ。
人は、弱い生き物だからこそ、強く生きれるんだと信じて。
下ばかり見ないで。
思い切って寝ころんでみな。
空を見てごらん。きっと何かが、見えるから。

   ころり寝ころべば青空   山頭火



この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?