人生初の修羅場に遭遇した話。
修羅場とは。
阿修羅と帝釈天が激しく争った場所。血なまぐさい争いの象徴である。
現代では、浮気、三角関係、略奪愛など...もっぱらドロドロした場面での争いを指す。俗に言う昼ドラ的なあれだ。
とは言え、大抵は画面の中の誇張されたもの。現実世界ではなかなかお目にかかれないものだ....と
高一の頃までの自分は思っていた。
あれは夏休み、8月の暑い日の事だった。
その日は高校の近くのマックで2年の先輩、同級生2人、僕の4人で夏休みの宿題に取り組んでいた。高校生×部活終わり×マック。全国区で有名な組み合わせだろう。ちなみに僕はえびフィレオが一番好きだ。
コーラを片手に数学のプリントを睨む(当時の僕は理系志望だった)。分からなければ先輩に聞けばいい。当時の部活は成績重視だった。赤点など以ての外で、部員全員の成績がホワイトボードに張り出される。結果次第で休部にさせられるということもあり、それなりに頑張ろうと思っていたのだ。
くだらない話をしながらだらだらと宿題を潰していく。無駄に長いポテトを咥えながら、「これが青春ってやつか」などと呑気なことを考えていた。
「わりぃ、俺そろそろ帰るわ」
先輩がいそいそと片付け始めた。この後用事があったらしい。いつも暇な(おい)先輩にしては珍しいなあと思うが、止める理由もない。
「宿題、ありがとうございました」
「おうおう、また頼れよ」
爽やかスマイル。部内では一二を争うイケメン、成績優秀、体育の成績もいいという中々の完璧星人である先輩。モテそうだ(本人いわく「弓道が恋人」らしい)。
3人になった僕達は勉強を続けた、が、当然グダる。勉強会のお約束だろう。1時間ほど無駄話をした後、解散する事になった。
普段僕は自転車で通学している。もちろん電車も通っているが、交通費も馬鹿にならないからだ。片道40分の道のりを入学祝いに買ってもらったロードバイクで通っていた。
しかしその日は違った。バスだった。
何故か。
「なんとなく」である
僕は十数年の人生で「なんとなく」物事を決めることが癖になっていた。そして大抵はそれで上手くいく。だがその日は失敗だった。
大失敗だったのである。
友達2人は歩きなのでバス停には僕一人だ。暑い。
バスが来た。あまり混んではいない。
Suicaをかざし、車内後方がいいなあと頭を上げた。
目を見開いた。
先輩...
そこには二人がけの席に座り、2年女子(同じ部活)と楽しそうに話していた先輩がいた。
車内後方へと踏み出していた右足を無理やり左へと持っていき、姿勢を低くしたまま1番近い一人がけの席へと滑り込む。
当時の部活は恋愛禁止であり、部内恋愛など以ての外である。バレたら...どうなるかさえも分からない。
ひとまずここはやり過ごそう。知らなければいいだけの話だ、触らぬ神に祟なしと言うではないか。ギリギリまで体を縮めて壁に寄りかかる。さながら戦地の傭兵に近しいものがそこにはあった。
ふっと息を抜き、息を整えた。思考が回る。
そもそもあの2人は付き合っているのか?そうだ、別に隣合って座っていたからって確定するには早いだろう。腕を組んでいるように見えたのは焦りから来る見間違いにちがいない。
存分に保身的な考えを巡らせば、余裕がでてきた。イヤホンをつけモンストを立ち上げる(縮めた姿勢はそのまま)。降りる時は真っ先に降りてしまおう、大丈夫、大丈夫だ。その時、
画面上部に通知が届く。
Holy shit....
簡潔かつ明瞭に書かれた先輩からのLINEは、僕の寿命を少なくとも5年は縮めた。そこにはいつもの優しい先輩の面影は残っていない。あるのは強い警戒と殺意とも呼べそうな鋭い何かだけであり、僕に「死」を連想させた。
バスに乗り込んでから10分は経っている。その時間先輩は何を考えていたのだろう?僕を消す手段だろうか。
だめだ、考えろ、まだ生き残れるはず。まだ既読は付けていない、が長考は出来ない。すぐ後ろにいるのだから。
ここで僕の思考に大きな変化が起きる。
なぜ僕がこんなにも焦っているのか、そもそも悪いことをしてるのは先輩ではないのか、ついさっきまで優しく数学を教えてくれていたではないか。
焦りが怒りへと形を変えたのだ、さあ反旗を翻せ、下克上だ。勢いのままLINEを開き、力強く「送信」をタップした。
ごめん、やっぱ無理だわ。
1度持ち上げた反旗を放り投げ、僕はしっかり「後輩」を成し遂げた。心做しか絵文字の笑顔が引きつっているように見える。
その後先輩からはきっちり既読無視を喰らい、精神と寿命をすり減らした僕は逃げるように家へ帰ったのでした。
その後僕は別件が理由で部活を辞めた。のでその後2人がどうなったのかは分からない、てか知りたくもない。2年以上の歳月が経った今、ふと思い出し書いた次第である。
今付き合ってる人がいる人、そうなるかもしれない人へ。
その人の存在を隠そうとすると、必ず誰かが痛い目見るよ。
その誰かは貴方かもしれないし全く関係ない人かもしれないけれど、とにかくおすすめはしない。
とまあいい話風にしたところで疲れたので終わります。ここまで読んでくれた人(いたらいいな)ありがとうございます〜。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?