僕はコンサートスタッフのアルバイトをしている。

アーティストが行うライブの舞台の設営や会場の案内係をする仕事だ。

基本的にその日一緒に働くことになったアルバイトのスタッフとはその後顔を合わせることはない。

そんなその日限りの付き合いと、そこで行われる会話が僕は嫌いじゃない。

つい先日、僕はコンサートスタッフのアルバイトに行った。

集合場所の〇〇駅には、集合時間の20分前に着いた。

僕より先に来ていたのは、チーフと呼ばれる社員の人間1人とアルバイトスタッフ1人。

チーフに名前の確認をした後、僕はスマホをいじっていた。

すると、アルバイトスタッフの男が声をかけてきた。

アルバイトスタッフの男は「駅集合って嫌じゃないですか？」と言った。

僕は「嫌ですね。駅のどこに行けばいいかわからないですもん」と言った。

アルバイトスタッフの男は「そうですよね。絶対迷う人いますよね。今日はまだいいですけど、〇〇駅とかだと、デカすぎてどこ行けばいいかマジわかんないですもん」と言った。

僕は「結構このバイト来てるんですか？」と言った。

アルバイトスタッフの男は「2年くらいやってますね。初めてですか？」と言った。

僕は「いや、2回目ですね」と言った。

アルバイトスタッフの男は「そうなんですね。結構嫌な現場多いっすよ。〇〇とか」と言った。

僕は「なんでですか？」と言った。

アルバイトスタッフは「あそこって近くに老人ホーム建ってるんですよ。で、音がうるさいってクレーム言ってくるらしくて、搬入搬出する時、窓とか全部閉めて作業しないとダメなんですよ。だから暑くて。マジクソでしたね。老人ホームが先にできてたらわかるんですよ。でも老人ホームが後にできたらしいんですよ。なのに文句言ってくるんすよ。ヤバくないですか」と言った。

僕は「ヤバいっすね〜」と言って笑った。

集合場所にアルバイトスタッフが集まり、僕らは、駅から会場に向かって歩いた。

僕は、歩く道中もアルバイトスタッフの男と会話していた。

アルバイトスタッフの男は「今から16時間働かなきゃダメって思うと辛いっすよね」と言った。

僕は「辛いっすよね。早めに終わってほしいな今日」と言った。

アルバイトスタッフの男は「開園中セット壊したら早く終わりますよ」と言った。

僕は「もっと別のもん終わるでしょそれ」と言った。

アルバイトスタッフの男は「ポイントは音響系を狙うことですね」と言った。

僕は「なるべく大きくて高そうなやついくのがいいですね」と言った。

アルバイトスタッフの男は「そうそう」と言った。

僕は「いいんじゃないですか。出演するアーティストより目立てますよ」と言った。

アルバイトスタッフの男は「壊そうかな。これがロックですとか言って」と言った。

僕は「演歌見に来てる客にそれ言うのがいいですよね、逆に」と言った。

アルバイトスタッフの男は「そうそう。逆に」　と言った。

僕は「タイトルは「clash」に変えたほうがいいですね」と言った。

アルバイトスタッフの男は「「keep calm」の方がいいんじゃないですか？逆に」と言った。

僕は「いいですね。逆に。誰が言ってんねん的な。life is beautifulとかもいいんじゃないですか？逆に」と言った。

アルバイトスタッフの男は「いや何の逆ですかそれは。中学生の着てるTシャツに入ってる謎の英文でしょ」と言った。

僕は「そういえばこの前、ワンピースのチョッパーのイラストがプリントされてるTシャツ来てる子供がナルト走りしてるの見たんですよ」と言った。

アルバイトスタッフの男は「人間は矛盾を孕む生き物ってことですね」と言った。

僕は「ですね」と言った。

そんなどうでもいい会話をしていると、会場に着いた。