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近未来予言的小説 冒頭おためし (仮)大器晩成日本国 4677文字もあるのでごゆっくりどうぞ6分読

二〇二六年八月二八日、東海沖地震と富士山噴火、大津波発生の被害を被った御前崎原発の大爆発、および太平洋沿岸部の壊滅的被害。
死者十一万五千人以上、行方不明五万三千人以上、主要インフラの壊滅、食料物資等流通網の分断、家財等被害総額二百兆円。
放射能汚染と富士山からの火山灰の影響を避けるため、震災翌日に横田基地の作戦司令部の放棄及び、拠点を韓国に暫定移動した。厚木基地の飛行隊も三沢基地や韓国の基地へ暫定移動した。横須賀基地の第七艦隊も緊急避難のため北へ移動した。
地震の被害と火山灰の影響により、横田基地、厚木基地、羽田空港、成田空港、下総基地、入間基地、百里基地が稼働不可となる。
これで首都圏の防衛機能が事実上機能していない状態となる。

震災から約半年後、二〇二七年二月二六日午前〇四時、中国軍の台湾侵攻が開始される。
同時刻に、沖縄および佐世保基地、岩国基地の各米軍基地が中国軍のミサイル先制攻撃を受ける。沖縄は、ミサイルは八十%以上迎撃するが、中国軍は飽和攻撃を行い、数量で追いつかず、基地施設と四十%の作戦機に被害。自衛隊機も同程度の割合で被害を受ける。
佐世保基地と岩国基地も甚大な被害を被った。それでも飛行可能な航空機はある程度は生き残ったが、施設の破壊が酷く、特に燃料貯蔵庫への被害が迅速な初期対応をするべきところの足かせとなった。
震災と原発事故の影響により本土の自衛隊、米軍(横須賀、厚木、横田)は被害を受けたか、もしくは国民の救助・復興活動中のため軍事出動できない状態であった。

同日、〇一時、青函トンネルの排水ポンプをスペツナズが破壊、列車の通行が不可となる。
ほぼ同時刻、札幌、所沢、福岡、沖縄の航空交通管制部が急襲・占拠される。ここは日本全土の民間航空機の安全な運航を監視・誘導しているが、管制がロシア軍の手に渡り、全ての航空機に対して偽情報を流し、上空待機の指示を行った。大混乱の中、燃料が切れる寸前で自衛隊基地や米軍基地に強制的に着陸・誘導させ、軍用基地を麻痺させた。

〇八時、ロシアが公式的にNATOと日本、韓国に宣戦布告。
ロシアは二〇二二年から始まったウクライナ侵攻の決着がつかず、戦費の垂れ流し、軍隊の衰退が続いていた。NATO諸国からの援助によるウクライナの巻き返しがいよいよ本格化し、経済制裁がロシア経済を継続的に低迷させ、プーチン政権の維持が内外から脅かされていたことによる結果だった。
中国軍の作戦行動と同日に始まったのは密約があったことは明らかであるが、後日談として両国とも公式的には否定している。

石狩湾からロシア軍強襲揚陸部隊五個師団合計十三万人が上陸、橋頭保を築く。後に十五個師団三十万人が上陸する。その間に苫小牧空港、千歳基地を空てい部隊が占領。
戦爆連合作戦機、合計約五百機が三沢基地、百里基地、小松基地及び主要駐屯地を爆撃。
百八十七機を迎撃するが、各基地は大打撃を受ける。

三月三日、ロシア軍が札幌市庁舎を占領。

ロシア軍は制空権を完全に掌握しておらず、自衛隊の空からの攻撃が比較的効果があったが、本質的な侵攻を防ぐまでには至らず、北海道各地でロシア軍による虐殺、レイプ、強奪が行われた。

本土からの支援がない中で何とか自衛隊は奮闘していたが、物量にかなわず、後退しながら函館まで追い詰められていた。

ボロボロになりながらも、一進一退を繰り返している間に、ロシア本土でクーデターが発生。反プーチンの旗印の元、成功し、プーチンは裁判にかけられ処刑。暫定的なクーデター政権を樹立したものの、情報が錯そう。自衛隊もロシア軍も大混乱の極みの中、ロシア軍は撤退した。

韓国も酷くやられた。
北朝鮮がロシアと中国の侵攻作戦に同調し、三十八度線を秘密トンネルから部隊を移動させ、空と陸から侵攻した。またカノン砲とミサイルの雨を降らせ、ソウルを焦土と化した。
在韓米軍基地も多くの被害を受け、自軍を守る事で精いっぱいだった。

中国の台湾侵攻に対しては各国の支援が十分に行き届かず、わずか一ヶ月で電撃的に台湾全土の占領・中国への併合完了宣言をする。

日本の大震災と紛争を合わせた損害
死者 二十二万八千人
行方不明者 十万三千人
被害金額 三百六十六兆円



大震災と紛争から十年後、政府はブロックチェーン技術を用いた、国家の分散統治政策計画を立ち上げる。重要な国政議案は全て国民の直接投票で決める。細かな地域性のある課題に関しては、例えば自治体ごとに直接投票で決める。
政治家はどうしてもゼロにはできないが、どちらかと言うと公務員の事務作業的な仕事のみを行う位置づけになった。
税金の管理や、年金、手当、補助金、国債などなどは全てブロックチェーンの中で安全に管理される。
あらゆる議題はアルゴリズムによって問題提起され、国民全体、あるいはある程度絞られた、人口一億二千万人に対して一万人程度の代表者による議論と投票で決議される。

国政に伴う莫大な税金や国庫の管理を、このブロックチェーンで行うため、祐樹の勤める電王株式会社が旗艦的存在となり、画期的なデジタル管理の仕組みを作るべく企業として、競争入札に参加し落札した。
政府はこれを国家の頭脳として位置づけ、まさに世界に先駆けた超民主主義、超合理的、超コストカット社会を実現しようと試みた。
大震災と紛争、少子高齢化で疲弊しきった日本経済を一発逆転で再び日出づる国とするべく、日本国民も政府も共に、恥も外聞も捨て去り、これまでの悪しき慣習や既得権益も切り捨てる大胆な方針だった。
力のある伝統的日本型企業などの反発は激しかったが、それでも時代の変革を求める国民の圧倒的な声には逆らえなかった。

それはアメリカの強い要望でもあった。
台湾が中国に併合され、中国にとって太平洋への入り口が大きく開いてしまった事は、アメリカの安全保障上無視できない大問題であった。
日本がアメリカに至る太平洋の蓋の働きをしていたことは、これまでも、そして今後もその義務を果たしてもらわねば困る。だからこそアメリカは日本に援助するし、当然自力でも復活してもらうことを強く望んでいた。

この国家方針は壮大な実験だ。
地球の歴史に何万年も先にも語り継がれ、記録される出来事だ。
アメリカは、表面上はこの決断を賞賛し支持していたが、同時にかなり高いレベルで警戒もしていた。
戦後から一貫してきた対米従属政策が瞬時に方針転換する危険性をはらんだ国家体制になるからだ。
アメリカの圧力は当然ありつつも、ただ、どさくさにまぎれ隙をついた中国の介入は当然防がなければならない。
大震災と紛争で疲弊しきった日本に軍事侵攻させないことは当然で、内政干渉や、中国の息のかかった国会議員や大物経済人を通じた政策転換はさせないようアメリカは警戒し実際に行動してきた。例えば中国の台湾占領直後から世界中に展開している空母打撃艦隊五群の内2つを日本海から東シナ海方面に展開し、ロシアと中国を牽制した。
それは十分な警告的活動としてロシアと中国にアメリカの力を改めて認識させることができた。もっとも中国には日本に侵攻する程の力は残っていなかった。それはロシアも同じであった。

ロシアはウクライナからの撤退を決めた。
2022年から始まった一連の軍事侵攻は、あくまでもプーチン元大統領の独裁によるものであり、今やクーデターによって政権を奪取した新生ロシアは、平和を強く求め、世界中との交流を積極的に行う意思があると高らかに宣言した。よって無意味にこの上ない苦痛を与えているウクライナからは即時撤退しかありえない。
こういった新政権の方針は世界から賞賛されたが、言ってみればウクライナに対して、そして日本に対しての侵略賠償責任をうまいことすり抜ける方便にもなりえた。

いずれにしても、東アジア地域にようやく平和が戻ってきたが、それは台湾の犠牲と引き換えにしたものだった。

しかしながら、相対的にアメリカの国力が徐々に落ちてきていることは事実であり、世界のパワーバランスを変化させ、各国の意志決定に大いに影響力を与えていた。そしてアメリカ世論が内政に向いている傾向も年々大きくなっていることが、これまでの日本に対するあからさまな内政干渉には至らないことも背景にある。

日本国は大いに悩んだ。
まさに分断された。
これまで通りアメリカにつくのか?
中国やロシアに懐柔した政策を選択するのか?

アメリカの機嫌を伺い、アメリカの利益を考慮した政策が日本にとっての利益を最大化するという、主体性があるようなないような政策がまさに、安全と平和を日本国にもたらしてくれていたのは結果としてある。

日本は災害国家だ。
地震や台風による河川の氾濫、山崩れなど常に大きな犠牲を払いながらも、自然を敬い、愛し、共存してきた。
災害は耐えられる。今までどんな犠牲を経験しても受け入れ何度も何度も立ち上がってきた。
だが、人間が作り出す外部からの脅威に対しては、日本人はしばしば失敗している。得意ではない分野のようだ。

日本国は天変地異とも言える外圧があって初めて、大方針転換を歴史的に繰り返してきた。

この大方針転換はあくまでも、アメリカにとってアメリカが地球上で最強国家であり続けることが条件の政策だった。日本国が世界第何位のGDPやら軍事力やらであっても全く意に介さないが、アメリカは一番でないとダメだ。二番以下はありえない。
そういったアメリカの傲慢な世界戦略上、資本主義と民主主義が大国としての必要条件である世界基準が、日本の挑戦的な人類史上初めての取り組みに対して最大限警戒している。
それは日本に対してというより、国内の世論に対しての恐れであると言う方が正しいかもしれない。

日本には世界中が注目している。

これまでの日本は既得権益を延々と守り続け、出る杭は打ち、革新的技術の可能性をことごとく潰してきた結果、確実に自らの首を締め続けていた。つまり日本の没落は必然であった。
それは日本独特の文化的、慣習的なもので、アメリカの外圧はあったがそれとはまったく別物による結果だった。

今回のプロジェクトの仕組みは純国産で行く方針だ。
当然ながら安全保障上、外資は排除し、技術を含め全て日本国メーカーで手掛けることを入札の条件とした。
新興企業の筆頭ともいえる電王株式会社は、日本国のあらゆる政策の事実上独占的な下請けであった大手広告代理店の山通株式会社を初めて退け、落札したのだ。

多くの国民はこの茶番ともいえる、出来レースのような談合のような旧来の仕組みをよく知らなかったので電王が落札した意味を理解するものは少なかったが、政府関係者や大手経済界にとっては超が付くほど画期的なことであった。
電王は全て一次受けとして自力でこのプロジェクトを完成させるつもりでいた。青写真を主体的に設計し、日本が日本にとって最も適したものを作る覚悟だった。忖度や外部圧力を一切考慮しない、本当の意味でのオリジナルを、世界を同時並行で見ながらもその一員としての日本をまた輝かしく復活させるものとして、本質的に日本にふさわしい日本にマッチした仕組みを作る強い覚悟でいた。

本当に新しい試みだ。
これまでの悪しき習慣を批判する声は腐るほどあったし、代替案や改善のアイディアも膨大にあった。提案もされつくしていた。だけれどもことごとく潰され、流され、無視され続けた。諦め、呆れ、白けた時代の雰囲気はとうてい覆されないという空気で包まれていた。
だからこそ革命的と言っても言い過ぎでないことなのだ。




つづく

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