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アートと子どもの創造性を取り入れて、遊び心ある組織文化を醸成する(メンバーインタビュー・臼井隆志)

本インタビュー企画では、ミミクリデザインのメンバーが持つ専門性やルーツに迫っていくとともに、弊社のコーポレートメッセージである「創造性の土壌を耕す」と普段の業務の結びつきについて、深掘りしていきます。

第6回は今月(2019年7月)よりミミクリデザインの一員となった臼井隆志( @TakashiUSUI )。これまでアーティストと子どもたちが共創するための場づくりに取り組んだり、企業内で赤ちゃん向けワークショップ実践したりと、ワークショップ実践者としても異色のキャリアを歩んできた臼井。今回のインタビューでは、アーティストや子どもとの交流を通じて得られた経験や、集団の創造性を文化的に耕していきたいと語る臼井の組織開発に対する思いを中心に、お話を伺いました。(聞き手:水波洸)

アートの観点から、集団の創造性を文化的に耕していく


ーよろしくお願いします。まず一点、気になっているところから訊いてしまうのですが、ミミクリデザインでの肩書きを、“Art Educator”としていますよね。なかなか営利企業では珍しい肩書きだと思うのですが、背景にある意図や思いについて聞かせてください。

臼井 そうですね。そもそも僕がミミクリデザインに入ろうと意を決した大きな理由のひとつは、「創造性の土壌を耕す」というコーポレートメッセージに強く共感したからです。このスローガンは、あえて対象を設定していない点が特徴的ですよね。つまり「クライアントの創造性の土壌を耕していきたい」というメッセージであると同時に、「自分たちミミクリデザインの創造性の土壌も常に耕し続けていきたい」というスタンスの表明でもあります。

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そうした前提の上で、「じゃあ僕はどうやってクライアントや自分たちの創造性の土壌を耕していこうか」と考えました。そして、ずっとアートに関係する仕事をしてきましたので、やはりアートの観点から企業の創造性開発やミミクリデザインという組織のブランディングに貢献していきたい。そうした思いから、この肩書きに決めました。

ーなるほど。臼井さんは現在ミミクリデザインの中でも組織開発・人材育成の案件を主に担当するチームに所属していますが、アートによる組織づくりというのは、確かにほかのメンバーにはない専門性ですよね。

臼井 ミミクリデザインのメンバーに限って言えば、アートに興味を持っている人や可能性を感じている人は何人もいます。しかし、実際に組織文化として定着して、言葉遣いや美意識に表れるほどにまで浸透させるとしたら、やはりまずは誰かが主導していく必要があると感じています。組織のクリエイティビティを支援したいという思いとともに、純粋に僕自身が、ミミクリデザインはそういった組織であってほしいと思っています。もっとオフィスにアート作品とか置きたいとか、よく言ってますね(笑)

ーいいですね(笑)先ほどこれまでのキャリアではアートを専門としたお仕事に就かれていたとお話されていましたが、具体的にどのようなことをされていたのでしょうか?

臼井 例えば、2008年から2014年まで、「アーティスト・イン・児童館」という文化事業を運営していました。もともとは「アーティスト・イン・レジデンス」という海外の取り組みに触発されて始めた活動で、アーティストを児童館に一定期間お招きして、児童館を創作活動の作業場として活用してもらうんです。アーティスト・イン・レジデンスでは、アーティストを地域に招聘して創作活動をしてもらうのですが、それを児童館でやりたかった。年間なり、半年なり、特定の期間の中で、アーティストが週一回児童館でワークショップをやったり、工作室をリノベーションしたり...。演劇公演に向かってがっつり制作したこともありました。

ーなぜ児童館という場所を選んだのでしょうか?

臼井 この活動を始める前は子ども向けのワークショップに関わっていたのですが、子ども向けのワークショップでは、親が子どもを連れてくるケースがほとんどです。子どもが自分の意志でワークショップに来ていないことに強い違和感がありました。そこで「それなら、子どもが集まっている場所に僕たちが行けばいいんだ!」と思いついて、児童館という場所を拠点にしようと決めたんです。

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臼井 あともう一つ気になっていた点として、事前にプログラムが設計されたワークショップの場合、どうしても逸脱が許されない雰囲気ができてしまうのも気になっていました。もちろんファシリテーターは逸脱してもいいと言うでしょうし、実際そう思っていることも多いと思うのですが、参加者からするとなかなか難しいですよね。そこで、アーティスト・イン・児童館では、あえてプログラムを組みすぎないことを意識しました。

子どもたちが集まる児童館という空間は、異文化そのものです。アーティストが児童館へ入って、何が起こるかわからない空間で子どもたちと触れ合った時に、どういう化学反応が生まれるのか見てみたかった。アーティストのみなさんとは、この複雑な遊び場で、どうやって制作活動をしていくのがよいか、何度も話し合いました。一緒に遊んでもらう日もあれば、子どもが置いてけぼりになるような制作活動をする日もありましたね。アーティストが子どもに構わず真剣に制作をしていると、かえって子どもが興味をもつことも少なくなかったです。アーティストが子どもたちの意外な面を面白がったり、子どもたちがアーティストの身振りや眼差しに感化されていったり、異なる文化が交わっていく過程は面白かったですね。

ー資金的にはどのように運営されていたのでしょうか?

臼井 基本的に都の負担金と助成金でした。2009年当時は2020年の東京オリンピック招致レースが行なわれていて、東京都が新しい文化事業を立ち上げていました。そんな中で、アーティスト・イン・児童館が新聞に取り上げられて話題になったことがあって、そこから東京都の事業の候補になり、採択されました。2009年から5年間ほど、都と共催で運営していました。

ただ、都の負担金や助成金での運営を続けるうちに、運営の資金を自分で作れていないことに課題を感じはじめました。児童館は福祉施設なのでビジネスの場ではありませんし、ぼくが関わっていたアートもそうですが、そうした場に関わりたいと思っても、無償でやるか助成金に頼るしかないのか?と。

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臼井 その時に、ビジネスについて学ばなければならないと実感しました。ビジネスは雑にやってしまうと、クリエイターを「商品」として扱い、人からお金を吸い上げるよくない仕組みにもなってしまいます。しかし、丁寧につくっていけば必要な人に物・情報・サービスをなめらかに届ける仕組みにもなります。「アートが生まれる場に関わるきっかけを子どもたちに届けたい」という思いはそのままに、それを実現する場をサステナブルに続けていくための仕組みづくりを学びたい、と。

ーその時に組織開発に興味を持ったんですね。

臼井 そうですね。そしてそのタイミングで、某百貨店が小学生を対象とした探求型の教育事業をスタートさせるとあって、知り合いから「来てみない?」と誘われました。それで思い切ってアーティスト・イン・児童館を畳んで、企業内のファシリテーターとして活動しながら、企業やビジネス、組織というものについて学んでいきました。

赤ちゃん向けワークショップ実践を通して見えてきた、個人の衝動を環境から支援するワークショップ設計術


ー今でこそ臼井さんは赤ちゃん向けのワークショップのスペシャリストとして活躍されているイメージが強いのですが、最初は小学生が主な対象だったんですね。

臼井 はい。事業としては、最初は小学生が対象でした。児童館では小学生から中高生が主な対象でしたから、未就学児はほとんど経験がありませんでした。でもプログラムが始まってみたら幼児、しかも0~2歳の需要が圧倒的に高くて、びっくりしました(笑)

ーニーズに合わせて、対象を赤ちゃん向けに?

臼井 そうですね。新規事業立ち上げのエンジンのような役割を期待されて参加したので、とにかく僕がサービスを創り出さなきゃいけない。とはいえ内心では「赤ちゃんにワークショップなんてできないでしょ!」と思っていましたし、怖かったです(笑)

それでも、リサーチと試行錯誤の日々を過ごすうちに、赤ちゃんにも行動原理があることに気づきました。その行動原理に基づいてファシリテーションしていけば、言葉を使わなくても物の配置やレイアウトでファシリテーションできる。実践を通して少しずつ学んでいく中で、次第に「いけるぞ!」と思うことが増えていきました。

ーどんな赤ちゃんの行動原理を発見したのでしょうか?

臼井 例えば、赤ちゃんってこのくらいの高さの台の上に物が置いてあると、ハイハイで近づいていって、上にあるものを全部落としたがるんですよ。

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臼井 僕はそれを見て「なんで落すんだろう」と不思議だったんですけど、ものが上から下に落ちる様子は赤ちゃんにとってはとても新鮮な現象で、それを何度も繰り返して遊んでるんだと、ある日気がつきました。

重力を知らない赤ちゃんが、実際にものを上から下に落としながら因果関係を確かめている。それを見た時に、「赤ちゃんは世界を知りたいという衝動を持っているんだ」と思いました。そして同時に、ファシリテーターとしての仕事は、赤ちゃんのそのような衝動の存在を信じて、存分に満たせるように環境を設計することなんだとひらめきました。それからは、その仮説に基づいて思いついたことを赤ちゃんに働きかける実験を繰り返していましたし、それが許される環境だったから、すごく楽しかったです。noteで発表しているのは、こうした経験から学んだことに基づいています。赤ちゃんについての記事を書き、本も一冊書きました。

この案件は、いわば「赤ちゃんがクライアントだった」と言えると思います。なにせ相手は赤ちゃんなので、依頼内容も要件定義もはっきりしない(笑) でも、相手をよく観察し、「こういうことを求めているのかもしれない!」と共感できたときに、赤ちゃんの衝動をかたちにするワークショップを設計することができたんです。

ーなるほど。もともと念頭に置かれていた組織づくりに関しては、何か印象的なエピソードはありましたか?

臼井 前職では、赤ちゃん向けのワークショップの設計・運営と並行して、社員向けにファシリテーションスキルを養成する研修を設計・実施していました。僕はその手の研修は上司と部下が一緒に取り組んでこそ意味があると思っているのですが、マネージャー層はなかなか忙しくて研修を受ける時間を作れなかったんです。最終的に現場のスタッフだけに研修を受けてもらうことになりました。研修を終えて、しばらくすると、やはりマネージャーが研修の内容を理解しきれていないがために、様々なコミュニケーション上の問題が起こり始めたんですよね。

ーどんな問題ですか?

臼井 例えば、ぼくがファシリテーターのマインドとして大切なことを伝えて、スタッフがそれを実行したとしても、同じ研修を受けていない上司がスタッフの行動の意図を理解しきれず困惑してしまう、というような問題です。ファシリテーションという新しい概念を組織全体に浸透させることに難しさを知りました。そこで、人材開発と組織開発が不可分であることを痛感したんです。
 
つまり、企業の中でファシリテーターを育てようと思ったら、ファシリテーターを大事にする企業文化が必要不可欠です。そのため、そうではない企業の場合は、その企業の文化を変えていくつもりで研修を行なわなくてはいけません。なので、ミミクリデザインに入ってからは、依頼に対して、単にパッケージを作って提供するのではなく、その企業の新たな価値観や時代を作っていくつもりでやるとか、上司と部下のセットで取り組んでもらうとか、そういったベースとなる考え方や関係性にアプローチしていけるような取り組みをしていきたいですね。

アートと子どもがもたらす、クリエイティブで働きやすい環境づくり


ーここからは臼井さんとミミクリデザインとの関係について深堀りしていきたいと思います。まずは正式に一員となった現在、ミミクリデザインを組織をどのように捉えていますか?

臼井 みんな元気がいいですよね。楽しそうで、チームが若い。年齢的にも20代半ばのメンバーが多くて、すごいフレッシュな感じがします。そして、若い組織だからこそ、これから組織が拡大していく中で、マネジメントが特に重要になるだろうなと感じています。「個人の衝動を活かす」という風土と個人の特性がうまく釣り合っている一方で、衝動が解放されればそれだけマネジメントは大変になっていきますよね。僕が力になれるとしたら、前職でサービスを1から設計した経験をもとに、システムづくりの面で関わってみたいです。その取り組みを通じて僕自身も学んでいけたらいいですね。

ークライアント案件の印象はどうでしょうか?

臼井 直接関わっているのはまだ数件なのですが、総じてクライアントの人が楽しそうだなと思います。「今日打ち合わせ楽しかった!」といって帰っていく方が多いように感じています。それってすごいことだと思うんですよね。事業の課題だけでなく、個人が社会に対して思っている希望や不満もほどよく共有しつつ、「それを突破するためにはこういうことがしたいんだ」って言える環境を作っている感覚があって、クライアントと受発注だけの関係じゃない信頼関係を構築できているということなので。

ーなるほど。社内の組織開発を担当するチームの一員として、これからミミクリデザインをどんな組織にしていきたいですか?

臼井 二つあります。一つ目はミミクリデザインが若い組織だということにも繋がる話ですが、ワークライフバランスというか、働きやすい企業にしていきたい。僕は一歳の娘がいて、前職で育児休業を取得しました。安斎さんにも同い年の娘さんがいます。そして、今20代半ばのメンバーたちも、徐々にそういうライフステージに進んでいく人もいるかと思います。そうなった時に、育児休業を取りやすくしたり、在宅勤務を活用したり、柔軟な働き方ができる文化が必要ですよね。

そういった制度や風土をつくることからはじめて、最終的には子どもが普通に遊びに来てもいいオフィスにできたらいいなと思ってます。まぁ実際来るとうるさかったり不都合なこともあるかもしれませんが、ともあれ、子どもたちと企業との関係を作りつつ、子どもたちから創造性とか遊び心を学んでいける環境を構築したいですね。

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臼井 子どもから良いインスピレーションを受けることってやっぱりあるんですよ。ファンタジーが半分身体の中に入っているし、世界を探索的に把握していくし。遊び方が直観的で、石を見ても楽しいって思える。そういう気持ちに自分たち大人が触発されていく企業文化を作りたいです。その風土を目指すことで、結果的に育休を取りやすくなるとか、働き方の改善にも繋がってくると思います。

ー子どもと共存できる企業文化をつくりたいということですね。もう一つは何でしょうか?

臼井 もう一つは、やはりアートと仕事との距離を近づけたいと思っています。業務委託でもいいから、アーティストにミミクリデザインの仕事に関わってもらいたいと思っています。

ーどういったかたちの関わり方になるのでしょうか?

臼井 まずはアイデア出しの場にいてもらうとか、フィードバックしてもらうとかでしょうか。ワークショップに入ってもらって、演出や振り付けをしてもらってもいいかもしれませんし、もちろん何か作っててもらっても良いと思います。いろんな関わり方があると思いますが、大事なのはロゴス的な世界で仕事をしている僕たちが、違うモードで物事を見ているアーティストたちと触れあうことで、そのモードに感化されることが組織の創造性の土壌を耕すことに繋がっていくと考えています。

ーアーティスト・イン・児童館の時のように、ですよね。“アーティスト・イン・ミミクリ”というか。

臼井 そうです、そうです。ミミクリデザインが子どもとアーティストを受け入れられる組織になってくれたら超嬉しいですね。そういう職場で働けるのは僕にとって夢のひとつです。そしてミミクリデザインは、フェーズ的にも、組織の風土的にも、その夢を一緒に叶えてくれそうな企業だと感じたから一緒に働きたいと思ったんです。

ーとても共感しますし、実現する日が楽しみです。本日はありがとうございました!

臼井 ありがとうございました!

▼プロフィール
臼井 隆志/ Takashi USui(ミミクリデザイン アートエデュケーター)
Twitter: @TakashiUSUI
note: https://note.mu/uss_un

慶應義塾大学総合政策学部卒業。ワークショップデザインの手法を用い、乳幼児から中高生、ビジネスパーソンを対象とした創造性教育の場に携わっている。児童館をアーティストの「工房」として活用するプログラム「アーティスト・イン・児童館」(2008~2015)、ワークショップを通して服を作るファッションブランド「FORM ON WORDS」(2011~2015)、伊勢丹新宿店の親子教室「ここちの森」(2016~2018)の企画・運営を担当。主な著書に『意外と知らない赤ちゃんのきもち』(スマート新書)がある。

ミミクリデザインホームページでは、過去のクライアント案件の事例が多数公開されているほか、「ワークショップデザイン・ファシリテーション実践ガイド」を無料配布中。ワークショップの基本から活用する意義、プログラムデザインやファシリテーションのテクニック、企業や地域の課題解決に導入するためのポイントや注意点について、最新の活用事例と研究知見に基づいて解説しています。

また、現在ミミクリデザインでは、以下の記事から新たなメンバーを募集しています。興味のある方は詳細をご確認のうえ、お気軽にお申し込みください。

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 文・水波 洸
写真・猫田 耳子

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