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きっとこの世界の共通言語は

このCMをはじめて見た時、衝撃を受けた。

新垣結衣ちゃんの可愛さに、ではない。

それもまあ、認めるけど。

だって浴衣姿でこどもたちと縁日のヨーヨー釣りなんて、どう考えてもあざと可愛いすぎるでしょうが。私がもし20代男子だったら、このシチュエーションでデートの相手にガッキーが来たら…ってつい妄想しちゃうと思うけど。

そうじゃなくて。


バックに流れているこの曲の歌詞が耳に飛び込んできて、リフレインがとまらない。


きっとこの世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔だと思う


なんというキラーワード!!

この奇跡のフレーズを産み出したひとをもっと知りたい。そう強く思った。


この曲を唄っていたのは、高橋優という男性アーティストだった。

当時のキャッチコピーは『リアルタイム・シンガソングライター』というもので、「孤独や葛藤、焦燥といったリアルな感情や社会性のあるメッセージを、ヒリヒリとした切迫感に満ちた歌声で生々しく歌い上げる」のが彼の持ち味らしかった。

私には、はじめ彼の曲も声もそんなにずば抜けて魅力的には思えなかったし、一度聴いただけでは早口すぎてなんと唄っているのか聞き取れないことが多かったのだけれど、その歌詞をじっくり読んでみると、とにかく言葉の選び方が独特で、その組み合わせと感情をむき出しにするような印象的なフレーズの繰り出し方がすごいひとだと思った。


たとえば『BE RIGHT』で彼はこう唄う。

ともあれ外交や戦争の話題よりも 
外タレやアイドルが話題の中心をかっさらうこの国で
流れる汚染水の数値よりも
好きなアーティストのニコ生の閲覧数の方が気になるこの国で



こういうことをズバッと正面切って言える唄い手が、この国にどれだけいるだろう。

東日本大震災のあと、各地でチャリティーイベントや様々な取り組みが行われていたけど、いろんな大人の事情が絡んでくるのであろうメジャーシーンのど真ん中で、原発や政治や社会についての率直な気持ちを、こんなにリアルな言葉ではっきりと歌詞にしているアーティストは少なかったように思う。

アルバムに収められた曲たちをひとつひとつ、歌詞を読みながらちゃんと聴き込んでいけばいくほど、秋田県出身の彼はきっと同じ東北地方の被災地のことを心に留めながら、たくさんの想いを研ぎ澄まされた言葉に乗せて世に送り出しているのだろう、そう感じた。


高橋優というひとは、歌詞にただなんとなく耳障りがいいだけの言葉を並べたり、白々しく“前向きな明るさ“だけを唄ったりすることはしない。時には鋭く尖った、ぎょっとするような言葉を選んで、聴き手の心に問いかけてくる。

彼は独特の言葉で自らの負の感情を吐露しながらも、いつも闇の中に差し込む一筋の光に向かって唄っているような気がする。


サラリーマンの号泣必至ソング、『リーマンズロック』という名曲がある。

出勤してから5秒で怒鳴り散らされて 
何でかわかんないまんまに頭を下げてる
得意分野じゃないなんて言い訳はきかない 
腹が立つのを飲み込んで笑顔でいなくちゃ
だから仕事をしよう 生きていく自分のために
仕事をしよう 生きている証を刻むために

この曲をはじめて聴いた時、これが刺さらない“社会人“なんてこの世にいるのだろうか、と思った。

もうこの国でやりたいことなんて分からなくって、毎日惰性の繰り返しで生きている多くのひとにとって、この曲は決して希望にはなり得ないし、明るい未来を見せてくれるわけでもない。夜中にひとりで聴きながら涙して、またいつもの時間に目覚まし時計をセットして布団にもぐり込むしかない無力な自分に、ただそっと寄り添ってくれるような気がする、そんな歌だ。


こんな哀しい曲を作れてしまう彼がそれでも、『きっとこの世界の共通言語は笑顔だと思う』と唄うことに意味があるのだと私は思う。


誰にでも、悲しいことやどうしようもないことだけが大きく見えて、負の感情に飲み込まれてしまう夜はある。誰かが唄う、“明けない夜はない“みたいな使い古された歌詞にうんざりしてしまう日もきっとある。

けれど、どんなに現実から目を背けても生きている限り確実に次の朝はやって来るし、どんなに落ち込んでいても必ずいつかお腹は空いてくる。頭の中がどうであれ、ひとの身体は、いまそこにある命を維持することにしか向かわない。

失恋してひとしきり泣いた後、たまたまついていてぼんやり眺めていただけのテレビから動物のハプニング映像が流れてきたらやっぱりクスッと笑ってしまうし、腫れた目をなんとかメイクでごまかして無理やり乗り込んだ満員電車で、ベビーカーに乗った赤ちゃんがふいにスカートの裾をつかんで全力で笑ってきたら、どうしたって微笑んでしまうものだと思う。


人間は、そう簡単には絶望しきれない。


とことん落ち込んで、なにもかもに疲弊して、それでも無理やりにでも歩いていくしかない時にこそ、この曲を聴いてみてほしい。

誰かの笑顔につられるように こっちまで笑顔がうつる魔法のように
理屈ではないところで僕ら 通じ合える力を持ってるハズ
あなたがいつも笑えていますように 心から幸せでありますように
それだけがこの世界の全てで どこかで同じように願う 人の全て


『福笑い』 高橋優


☆☆☆あとがき☆☆☆

『福笑い』には、実はMVがもうひとつあります。

別バージョンのMVはこちら↓↓↓

私は、たくさんのひとの笑顔が満載の、2015年ver.が好きです。

もし良かったら比べて観てください。


☆☆☆つぶやき☆☆☆

誰かが見たときについつられてしまうような、素敵な笑顔が自分にもできていたらいいなと思う。

いつも笑顔でいるなんてキレイ事だとか、プラス志向も行き過ぎると嘘くさいとか、影でいろいろ言わずにいられないひと、までもを否応なく巻き込んでしまうくらいの。もう圧倒的な。

そんな顔で笑えるくらい全力で楽しいことをこれからも見つけていきたいと思っているし、きっとそうあれると信じている。



サポートというかたちの愛が嬉しいです。素直に受け取って、大切なひとや届けたい気持ちのために、循環させてもらいますね。読んでくださったあなたに、幸ありますよう。