知らないけれど
いつ撮ったのかはもうわからない
畑道と空き地の間に続く 草っ原
沼に続く 草っ原
芝生とのびると 知らない草がたくさん生える道の先
草っ原に寝転んで、頭をつけて横見れば
きっと名前があるけれど、わたしは知らない花たちが、遠くに咲いた桜を見ている
ふわふわした桜を見ている ピンク色の桜を見ている
あれは雲かな? あれは花かな?
名前のわからない花たちは、きっと桜の大きさを知らない
知らない話を名前のわからない花たちはコソコソ話しているだろう
草っ原に顔つけて わたしはどちらもずっと見ていた いつだったかはわからない…
あの頃の自分はきっと、今の自分なんて知らずにただ、名前のわからない花たちが可愛くて
ただ、桜がとても美しくて
ただ、草っ原の湿っぽいにおいがするのを春だなーと思っていたのだろう
あれから月日は流れた 桜はもう、いない
名前のわからない花たちはさくらが切られてしまったことをきっと知らない
どこかの知らない人間がチェーンソーで幹を切り、ショベルカーで根っこをほじくったことを知らない
だから今年も桜が見えないと背伸びをして育っているに違いない
いつだったかはわからない…
わたしはただ見ていた
チェーンソーで切られる幹を、ショベルカーでほじくられる根っこをただ見て、折れた枝を持ち帰って庭に挿した
これで桜は根をはると思っていた
毎日水をやっていた
これじゃ桜は生きていかれないことをわたしは知らなかった
春になると思い出す
どうしようもない記憶
読みに来てくださったり、お友達になっていただけると、とってもうれしいです。