あんステで松田岳くんを発見してしまった

タイトル通りの話をする。
私がいつも書くような、あの場面が好きだったとかこの場面がこうだったとか好きに書き散らかす舞台感想ではない。
あんステの乱凪砂くんというキャラクターを通して、私はこの世界に松田岳くんという役者を発見してしまった。その震えるほどの感動を覚えておきたくて私が私のために書く、役者さんをひたすらに褒めながら綴った、虚空に投げるラブレターだ。

……と、ここで、普段から江中をご存知の方はもしかしたら、ちょっと待て、と思ったかもしれない。
私は普段から「仮面ライダー鎧武」好きを公言して憚らない。
ならば当然、「鎧武」に出演していた松田岳くんのことも知らないはずがない。知っているどころか、出演舞台も何度か観に行って、2013年からずっとゆるやかに追ってきた役者さんの一人ですらある。
なのに今さら「発見」はおかしいんじゃないか? と思われるかもしれない。
でも、これはまさに「発見」としか言い表しようのない感情なのだ。
そういう話をさせてほしい。


「あんさんぶるスターズ! THE STAGE ―Track to Miracle―」を観てきた。
最初に謝っておきたいのだが、申し訳ないことに、私は原作ゲームであるあんスタをやったことがない。どうぞその点は寛大なお心でお目こぼしいただきたい。
ただし、あんステのこれまでの公演を友人から借りた円盤でいくつか鑑賞したことがあったので、基本のキャラクターや世界観を何となくは把握している状態である。
キラキラ輝くアイドルを目指して、困難にもめげず、仲間と共に駆け抜ける青春。
個性的で魅力に溢れるキャラクター達の紡ぐストーリー。
アイドル育成ゲームを原作に持つだけあって、あんステのライブシーンは煌びやかで眩しくてひたすらに楽しい。あんステ初演の円盤をミリしら状態で見たとき、各ユニットの楽曲がめちゃくちゃ良いので驚いた。友人にあんスタを嗜んでいる人は何人かいるが、なるほどこれほど気合いの入った楽曲が提供されるなら楽しいだろう、と深く納得させられた。

これまでのステを円盤で観てきた中で、私のお気に入りはダントツで大神晃牙くんだ。
ステの中の人(赤澤遼太郎くん)への贔屓目のせいもあるのだが、何といってもあのキャラクターが良い。ロックな生き様を目指してつっぱるワルぶった子かと思いきや、荒々しい言動とは裏腹に素直で心根が優しくて案外面倒見が良くて、憧れを全力で追いかけて、ぶつかっていく情熱を持っている。こういうキャラクターに私は滅法弱い。
そんな晃牙くんをイチ押ししつつ、あんステへの興味を募らせていた私だが、先日、ついにあんステの現場に足を運ぶことに成功した。
お気に入りの晃牙くんはいないが、ミュージカル「憂国のモリアーティ」で知って好きになった山本一慶くんが座長だし(モリミュのルイス以外の役をまだ生で観たことがないのでとても楽しみにしていた)、何より、松田岳くんがいるのだ。

松田岳くんの魅力は、沢山ある。
すらりとした長身に、すんなり伸びた長い手足。
子犬のような無垢な輝きを湛えていたかと思ったら、一転、鋭くまっすぐな光で虚空を切り裂く力強い瞳は、また別の場所では限りなく深く優しい色に染まってみせる。
程よく鍛えられ筋張った、男性的な腕。大きな手。
さりげない所作が綺麗なところ。
柔らかい響きを持った声。笑顔の上品な明るさ。ここ数年でグッと増した色気。挙げていけばキリがない。
しかし、そんな彼の一番の魅力は何と言ってもダンスにあると私は思う。
あの長い手足が伸び伸びと、しかし狂いなく正確なリズムを刻み、躍動する。
緩急の付け方も、視線の誘導も思いのまま。そして指先に観客の視線を集めている間ですら、足の爪先まで隙がない美の角度を保ち続ける。
動きのひとつひとつが有機的に意味を持ち、無駄な動作は欠片もない。
ブレない体幹の強さ。バランス感覚。
人間とはこれほどまでに美しく動ける生き物だったのかと思わされる。
目も大切な表現手段の一つとして使いこなしているから、視線が無為に揺れることがない。
彼は自分の身体の動かし方をとても良く知っていて、頭のてっぺんからつま先まで余すところなく隅々を自分のコントロール下に置ける身体能力を持っている人だと私は思っていて、そういうところがとても好きだ。
彼の踊る姿は、本当に、本当に美しい。意思の下で完璧に統率されているのに機械的にならず、プリミティブな迫力を持つ力強いその姿は、いっそシャーマンのようですらある。
また、彼はどう振舞えば観客から自分が美しくかっこよく見えるのかをよく知っていて、そしてその姿を体現して観客の前に提示するのが上手い。観客が求めているものを与えるというより、自分が見せたいと思う自分の姿を見せる能力に長けている。
そんな人だと私は思う。

そんな松田岳くんが、生まれながらのアイドルである万能神・乱凪砂を演じて、似合わないわけがない。
キャラクターの設定を知ったときから似合うだろうと思ってはいたが、劇場で観て圧倒された。
凪砂の捉えどころのないふわっとした素の表情は、松田岳くんの人の好さやまっすぐさがピタッと嵌まるところであり、彼の品の良さが存分に活きている。
また「閣下」として威圧的に振舞うパートでは、松田岳くんの持つ目力の強さ、演劇に対して真剣に向き合う姿勢、真面目さ、役者としての華。そういったものに裏打ちされたオーラを全身から放っていて、触れれば切れるほどの鋭利さがあった。
何よりダンス。真緒にあれこれとダメ出しをする凪砂の実力の程やいかに、と思った真緒と観客を、一瞬にして圧倒し、平伏させる。
説得力がある、なんてものじゃない。「きっと凪砂はこうに違いない」「彼こそ凪砂本人だ」を地で行っているのだ。

舞台上に凪砂が現れると、スッ……と意識が惹き寄せられてしまう。
台詞や動きがない間でも、片時たりとも目が離せない。
絶対にこの人を見逃してはいけないと、直感がそう告げる。
まばたきの間すら惜しいほどに一瞬も隙がなく、どの瞬間を切り取っても完璧に美しい。
こんなにも綺麗な人だったのか。
こんなにも空間を支配できる人だったのか。
凪砂が出てくるシーンのたびにそう思い、今までで一番強く惹き付けられた。

そして、ここでようやく冒頭の話である。
凪砂に釘付けになっている間、私は圧倒されながら、意識の底でこう考えていた。
「私はあんステの乱凪砂を通して、この世界に松田岳くんを発見してしまった」と。
私が彼の名を知ったのは「鎧武」からなので、2013年から数えると、およそ8年半近く。
その間、先にも述べたように、出演舞台をいくつか観た。
彼が舞台に立って踊ったり歌ったり演じたりする姿を観るたびに、いつも私は新鮮な気持ちで魅了され、そしてその都度夢中になった。
その感動を上手く言葉で表す術を、私はこれまで持たなかった。だが今回、凪砂を演じている姿を観ながら浮かんだ「発見」という表現を以て、ようやくしっくりいく形で言語化できた気がする。
――松田岳くんは2016年に写真集を出している。その写真集には帯が付いており、こんな美しいコピーが添えられている。
  『24歳、めくるごとに色づく役者』
私は今回の凪砂役を観ながら、このコピーのことを思い出していた。
ページをめくるごとに色づくように、劇場での出会いを重ねるたびに深みを増した新しい顔を見せてくれる
こんなに凄い人だったのか。こんな顔も持っていたのか。こんな演技もできる人なのかと、毎回驚かせてくれる。
ああ、だから私は松田岳くんという役者が好きなのだ。
何度でも何度でも、彼を知ったばかりの頃のような新しい感動を与えてくれる。
観に行くたびに、この世界に彼を何度でも発見し直しているような気持ちにさせてくれる。
そういうところが大好きなのだと、今にして、ようやく言葉になった。

これまで上手く表せなかった「この世界に彼を何度でも発見させてくれる」役者さんだという感想を得られたのは、乱凪砂という役のおかげもあったと思う。凪砂はかつて「ゴッドファーザー」の手元にあって、ゴッドファーザーの死後「発見」された存在だからだ。
そういうキャラクターの特性も手伝って、乱凪砂くんを通じて、私はこれまで何度も観てきた松田岳くんという役者を、今回改めて「発見」してしまった。
困ったことに松田岳くんはどんな役を演じてもとても良く合ってしまうのだが、その中でも乱凪砂はかなりのはまり役と呼んで良いだろう。
今回、Edenやfineを演じるのは(そして当然Trickstarを演じる方々も、というか全員が)揃って人気の実力のある役者さんたちばかりだった。
しかしその中にあってなお、松田岳くんの乱凪砂は、圧倒的な存在感と実力を見せつけて輝いていたと、贔屓目ながらに思う。
あの扱いが難しそうな長いウィッグの毛先に至るまで徹頭徹尾美しく、観に行ってよかったと、これほど強く思わせてくれたことに感謝している。

松田岳くんが凪砂を演じるのは、前回の「ドラマティカ」公演に続き二度目だったが、ぜひ続投してほしいし、次の機会があるならば、絶対に絶対に観に行きたい。
そして私はそのたび何度でも彼をこの世界に「発見」し直し続け、きっと何度でも新しく好きになってしまうのだ。


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ところで、今これを読んでくださっている方の中には、凪砂くんから松田岳くんを知って興味を持った方もいると思う。
彼に興味を持ったなら、舞台でも、写真集でも、ぜひ気軽に手を出してみていただきたい。
松田岳くんは本当に素晴らしい役者さんです。

私は気になる演目があれば思い出したように舞台を観に行く程度の浅いファンなので、「彼と言えばこれ!」というおすすめは熱心なファンの方にお任せして(何なら私も熱心なファンの方からのおすすめを教えてほしい)、私がこれまで知っているごく一部の中から、おすすめをいくつか紹介したい。

まずは少年社中「モマの火星探検記」(2017年版)。

何度か再演されているが、松田岳くんがいるのは2017年版だ。
私も人におすすめいただいて円盤で観たのだが、松田岳くんの演じるガーシュウィンという役がとても良かった。
詳しいストーリーなどはぜひ実際にご覧いただけたらと思うのだが、明るい青年が傷つき苦悩しながらも前に進んでいこうとする姿を好演しており、ダンスするシーンもあって彼の魅力が十二分に引き出されている。

舞台なら、松田岳くんが座長を務める「ブルーシャトルプロデュース(BSP)」の演目も色々な表情を観られるので、気になる題材があるときはチェックしてみると面白いと思う。
私は2018年の「新選組 完結編(三部作)」を観に行って、松田岳くんの吉田稔麿に撃ち抜かれて帰ってきた。
松田岳くんで新撰組と言えば、私はまだ観る機会に恵まれていないのだが「ミュージカル薄桜鬼」での土方歳三役も良かったと聞いている。

そして写真集。
松田岳 初写真集『がく』 (TOKYO NEWS MOOK)

24歳(今から5年前)なので、今よりも表情がやや幼く見える写真があってかわいい。
大型犬と戯れるショットが微笑ましくてイチ押しだが、圧巻なのは表紙にもなっている墨降らしの写真だ。着物と袴の白装束を身に付けた上から墨を降らし、まさに「めくるごとに色づいて」いく様子が収められている。繊細かつ大胆な、踊るようなポーズひとつひとつが見飽きぬほどに美しい。
芸術性が高い写真集で、インタビューも適度に挟まれており、私はとても気に入っている。

また写真集ではないが、現在発売されていて手に入りやすい『関西ウォーカー 2022春』には、松田岳くんが関西の洋菓子や高校時代の思い出などについて6ページ使って語っている。

ビジュアルの良さもさることながら、何とチョコレートを食べている写真が載っている。
そう、凪砂くんが好きなチョコレートを、松田岳くんが食べている写真があるのである。
そういう意味でとても美味しい記事になっているから、凪砂くんから知った人にぜひおすすめしたい。

あと、恥ずかしいほどのポエムを綴った後に蛇足だと承知していてこんなおすすめを書いているのは、ほぼほぼこれを紹介したいためである。
「仮面ライダー鎧武/ガイム」。
ご存知、仮面ライダーシリーズ。
果物×鎧武者というポップでカラフルなアーマーと、虚淵玄氏の脚本で話題になった。
松田岳くんは、主人公と敵対するチームのナンバー2の「ザック」という役を演じた。
最初は正直いけ好かない奴だったのだが、話が進むにつれだんだんいい奴になっていき、終盤では少年マンガの主人公のような熱い戦いを見せたヒーローである。

松田岳くんもライダーに変身する。「仮面ライダーナックル」という、クルミをモチーフにしたアーマーのヒーローだ。
30分×全47話(プラス外伝など)があるため、些かとっつきにくくはあり、「気軽に観てほしい」とは言いづらいのだが、一年かけた成長を余すところなく見られる上に、彼の演じるザックはダンサー役なので、よく踊る。それはそれはかっこいいダンスを披露する。なので踊る松田岳くんを堪能したいなら観て損はない。
何より鎧武は面白いので、ぜひ知っていただけたらと、鎧武ファンは思う次第である。


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なお、普段から好きなものを好きと遠慮なく叫ぶ私だが、今回の内容はさすがに熱狂が過ぎており、愛が溢れすぎていて恥ずかしいので、冷静になったらいつかそっとこの記事を下げることもあるかもしれない。
乱凪砂を演じた松田岳くんの魅力があまりにも強烈であったための暴走と思ってどうか許されたい。

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