一夜を共にしたあなたへ

2年ぶりの東京ひとり旅。

4年ぶりのあなたとの再会。

どんなきっかけで会うことになったのかすら、今は思い出せないけれども。田舎育ちの私は大都会新宿で浮かないように、さも新宿なんて毎日来てますとでも言うようにイヤホンをして周りの人波から外れないようにぱたぱたと歩いていました。

『いまどこ?』そんなあなたからの連絡に『新宿駅』と答えました。

『新宿駅にも色々あるんだけど。笑

 俺らの地元じゃないんだからさ笑』

いつの間にあなたは都会の人になったのでしょうね。都会の人になったあなたは、都会の人らしく私を色んなところに連れて行ってくれました。

行き着くはもちろん新宿歌舞伎町。行ってみたいと私が駄々をこねたのです。するとあなたは、「美味しい焼き鳥屋さん連れてってあげる」と言って慣れた様子で歌舞伎町へと入っていきました。

何時から飲んでいたのか予想がつかない酔っ払い、エプロンをした客引き、真っ黒スーツに金髪のホスト、露出度高めなドレスを着たキャバ嬢、学校帰りの制服を着た高校生、スーツを着たサラリーマン、たくさんの人が行き交う都会で私達はどんな関係に見えていたのでしょうね。もっとも、私達を見て気に留める人なんて、誰もいなかったとは思うけれども。

その後も、「好きそうな所、連れてってあげる」そう言って連れて行ってくれたバーは確かに素敵でした。床に直接座る事の出来るタイプの個室で、たくさんのクッションがおいてありました。ひとしきり飲んだ頃あなたは「あ、終電ねえや」と時計を見て呟きました。

時計なんて全く気にしていなかった私は、自分の時計を見て驚きました。午前2時4分。終電なんて何時間前の話でしょう。「しゃーねぇ、ラブホでいい?」あっけらかんとしたあなたの提案に私は思わず吹き出しました。

「仮にも女の子ホテルに誘うのにしゃーねぇはないでしょう、ムードがない。」

そう文句をつけるとあなたは、

「俺ん家のがおしゃれなんだもん、でも今から1時間も歩きたくない。」

そんなこんなでラブホテルへ。ベッドが丸い、お風呂がおしゃれ、泡風呂がある、そんな事でひとりでわいわいやっている私を見て、あなたは「もう、ほんとにイナカモン。一緒にお風呂はいる?」と笑いながら聞いてきて。

「絶対入らん」私の全力拒否にまた笑いだし。

「俺も風呂入りたいから早く入ってきて」


なんやかんやで丸い安っぽいベッドの上にふたり。少しだけいやらしく私の身体を触りながら、誤魔化すように頭を撫でるあなた。

「私ね、昔、あなたのことが好きだったんだよ」

そう伝えたら何か変わっていたでしょうか。

「俺だって大人だからね、理性くらいあるわ」

そう言って笑った素直じゃないあなたの素直な部分が、熱を持っていることに気づかないふりをした私は臆病者でしょうか。

ただそっと、ふたり抱き合って夜を過ごしました。

「ねえ、あの時、どんな気持ちだった?」

いつかまたあなたに会ってそんな質問をしたいな、と今でも思うのです。

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