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河合隼雄 物語とたましい 心理学の極み

河合隼雄著 株式会社平凡社 2021/5/25出版 2023/4/3読了

ユング心理学に精通し、河合塾を開いた臨床心理学者でもある著者が、世に語りかけた言葉を集めたもの。

・日本神話にみる意思決定
日本人の意思決定のあり方は欧米人のそれと異なっているように感じられる。
神話はそれを有している文化や民族などにとって、その存在の根源に関わる。
自分という存在も含めて、この世界全体の事象を心の中にどう受け止めるか、ということが述べられている。

現在のように異文化間の交流が激しくなってくると、意識の表層における理解のみではなく、相互理解をより深くしていくためには、神話的なレベルにまで降りた理解が必要であると考えられる。
日本神話は中空構造である。
特徴としては、対立関係にある神が他方の神を完全に抹殺してしまわないことである。対立する神が適当なバランスをもって共存しており、ある神が強力となって中心の地位を占めようとしても、全体の動きによってそれを元に戻してしまう傾向が強い。

<一般的な西欧のシンボリズム:明確な分割>
男性ー太陽ー精神ー能動 ⇄  女性ー月ー肉体ー受動
*中心統合型=唯一至高の神が世界の全てを創造する。
中心にある絶対的な力によって統合されていく構造。

<日本の神話:カウンターバランス>
太陽ー女性ーアマテラスータカミムスヒ(父性原理の体現者) 
月ー男性ースサノオーカミムスヒ(母性原理の体現者)
*中空均衡型=中心を空としてそれをめぐる多くの神々が微妙なバランスをとりつつ、決定的な対立に至ることなく共存している。

日本人個人の心の在り方も西洋流の中心統合型ではなく、何かを決定する際に自分の心の「中心」が決定する、という感じになるよりは、自分の心を「空」にしてできるだけ他人の意見を入れ込ませようとする
あるいは自分の意見をある程度もっているにしろ、それを明確な形にして打ち出すのを躊躇する傾向がある。
集団の成員はその決定を行う時に、自分の意見や方向を持っているとしても、それを明確に打ち出して中心を侵す事は危険なので、曖昧な形で提示したり、一般的な考えとして提示したりする。
全体の均衡ということを常に考えていて、自らの考えによって全体をリードすることが少ないため、会議が長引くことが多い。

中心統合型の場合、中心になるものはその正しさ、力などにおいて他に優るものであければならず、その地位を獲得するためには必要な対決を行わなければならない。
集団で意思決定を行う際に、討論など正面からぶつかり合うことによって優劣を明らかにする。
「なんとなく」というのは、日本的な中空構造の顕れである。

我々はこのようなモデルを知ることによって、単純に他を非難したり、無批判に肯定したりせずに、もう少し他を真に理解できるだろう。

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