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マイストーリー 私の物語

林真理子著 朝日新聞出版 2015/9/7初版 2023/5/12読了

林真理子さんの自叙伝かと思って手に取ると、全く違ってびっくり。

私の物語を世の中に広めたい、
自分語りや自分の研究・芸術・信仰を後世に残したいという人々を支える、
自費出版社ユアーズで繰り広げられる人間模様の話。

読書需要が激減し、どんな本も売れない世の中で、
大手出版社も目をつけ始めるほど自費出版というのが話題になってきている。
ユアーズに勤める編集者の太田は、自分語りをしたい依頼者から要望を聞き取り、
文章校正から製本まで寄り添う。
依頼者の中には自信過剰で自分の本が自費出版でなくとも十分に売れると信じて疑わない変わり者もいる。
多くは謙虚で、家族に残したいとか世話になった人に捧げたいとか、
さまざまな理由を持っているものの、語り手の文章の上手さに関わらず、
人生が語られている部分は味があり世に残すに足るものに仕上がる。

自費出版業界では先駆けのユアーズ社でも売上が伸びず、
経営側から新たな方針が必要と言われていた時、ドラマチックな相談が持ちかかる。
地方で映画館を経営していた夫に先立たれた妻からの依頼で、
夫が情熱をかけて開催し続けた映画祭や地元商店街と協力して復活させた、
街の小さな映画館の経営について本を残したいというのだ。
感動的な看病物語であり、多少ながら芸能界にも通づるネタということもあり、
ユアーズ社一押しの案件となっていく。
担当の編集者として、未亡人である依頼者に対し顧客として多少の距離を置きつつも、
深く感情移入してしまう太田の行く末が見どころ。

戦争を経験した世代が高齢になる中、自費出版の需要が伸びているのには頷ける。
出版社というのがピンキリで、プロの作家と同じ過程で製本・出版・販売まで行うところもあれば、パンフレットのようなクオリティで仕上げるところもあるそう。
家族のつながりが薄れるこの頃、本に残すこと以上にその人の人生を振り返る作業自体が価値のあるものになりそう。

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