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乳房のくにで 家族を持つ前に読みたい本

深沢潮著 双葉社 2020/9/20出版 2023/3/20読了

貧困で電気もガスも水道すらも止められたシングルマザーの福美。
成り行きで産んだ娘の沙羅に新しい乳児服を買ってやる余裕もなく、途方に暮れている。
恵まれていた頃に訪れた思い出のデパートで、このまま娘を置き去りにしようかという思考すら浮かぶ。
出の良過ぎる母乳を持て余しているところ、授乳室でネットワーク・ナニィを運営する廣瀬という女性に出会う。
母乳の出ない母親と出る母親とを繋いでおり、福美にそこで働くよう声をかけたのである。
父親の借金も背負っていた福美には、他に職のあてもなく願ったり叶ったりであった。

福美の派遣先に選ばれたのが小学校時代の幼なじみ夫婦であり、その妻にいじめられた惨めな苦い過去があった。
政治家となった夫に好感を持っていたことも手伝い、福美は母乳という武器を使って復習を試みる。
それとは裏腹に姑である千代の腹黒さ、狡猾さを始めとして、政治家一家で世間離れした男尊女卑の固定概念の押し付けによる悪影響を受ける。

母乳育児や自然分娩の信仰を危険視すると共に、シングルマザーの抱える経済的・精神的問題点を挙げている。
乳母というの役割の限界や母親としての母性、父親としての父性の形成については、子どもの一生を経てようやく因果に気づくことがある程度である。
生育環境というのは一概には論じられないほど複雑な要因を孕んでいる。

世代間の夫婦観、男女間の育児に関する理解度の差など、現代日本が直面する社会問題を登場人物の人間関係を通して描いている。

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