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柔らかなツワモノ コルクラボ編集専科 #4 編集者 小沢一郎さん

コルクラボ編集専科も折り返し。

「編集」は、学べばできるものなんだ!わたしにもきっとできる…!

と、希望を持って毎回ワクワク参加していましたが、近ごろ少し自信を失いかけていました。

前回の課題がなかなかうまくできなかったこともあり、もう編集専科の講義も残り少ないのに相変わらずパッとしない自分に焦るのもあり、いつもよりほんの少し重い足取りで宮益坂の上から道玄坂へと向かいました。

今回の講師は、講談社に長く勤められて定年されたという編集者の小沢一郎さん。『五体不満足』の編集をされた方なので、あまりにも有名な方です。

佐渡島さんが「講談社で最も尊敬する先輩だ」と熱く語り期待が高まったところで、小沢さんは「よく分かりませんが、つまりハードルを上げられたんですね」とお茶目にかわし、和やかに講義が始まりました。

自分の「好き」を突き詰める。

「あいみょんって知ってますか? 佐渡島さんたちが“あいみょん、あいみょん”いうから、なんだと思って試しに聴いてみたら、ハマりましてね。好きなんですよ」という雑談に、ああ、受講生に歩み寄って何か語ってくれるのか。ありがたいねぇ。となんとなく聞いていると、

「『マリーゴールド』いいですよねぇ。『君はロックを聴かない』これもいい。」

うんうん、そうですよね。

「それでね、『マリーゴールド』のMVなんですが、後ろを通るバスに上海××交通みたいにかいてあるので、あれ上海で撮ったんですよね。」

へ~そうだったっけ。

「だからね、クリスマスに行ってきたんです。上海。」

え!?!?!?

「あいみょんと同じところで写真を撮ってきました。」

はい!?!?!?

「しかし難しいんですよね、あいみょん。カラオケで全然うまく歌えないんですよ。」

・・・これは、すごい方だ・・・!

やわらかい口調で楽しそうに語るこのエピソードで、完全に小沢さんを好きになっていました。

講義の内容も、小沢さんの手掛けられた作品への愛や、ご自身のリスペクトされている先人たちの作り上げた本。そして「本」そのもののデザインや書体を作った方々への愛とリスペクトに満ちていました。

「『五体不満足』が500万部も売れてしまって、まだ23歳の乙武さんをメディアにさらしてしまったことに罪悪感があり、これからずっと彼を支えようと決めた」というお話にあるように、「人の成長に併走する」というご自身の仕事への覚悟と、熱意を垣間見ることができました。

新しいもの、違うものを否定しない。

何かを好きになるということは、何かを信じるということは、それ以外のものを否定することにつながりやすいものです。

しかし、小沢さんは「なにも否定しないで、応援する。」という、当たり前に見えてなかなかできないことをやってのけている方でした。おそらく、意識して、努力を積み重ねて習得した技だろうと思います。

装丁への愛を語り、印刷に携わる人へのリスペクトも語りながら、同時に電子書籍の時代の表現にも期待する。

花森安治さんや島本脩二さんといった先人たちへのリスペクトをしながら、佐渡島さんと箕輪さんが楽しそうに笑っている写真を見せて「直接お会いしたことはないけれど、箕輪さんは本をちゃんと届けるために、ああやって話題を作っているんですよ。すごい人です。彼が10人いれば、この業界は変わります」と、深い理解と心からの応援のメッセージがありました。

これは、一見するとすごさが分かりにくいけど、実はなかなかできないこと。小沢さんはリスペクトの達人です。

感想を言う。人を巻き込む。

小沢さんの手掛けられた作品のお話で、印象的だったのは、自力にこだわりすぎずに「人を上手に巻き込む」ということと、「人が人を呼んで仕事につながっていく」ということ。これは、小沢一郎さんがもともと人間的に素晴らしいというのも前提としてあるだろうけれど、意識的に起こす行動によってそうなるようにしているのでもあると感じられました。

まずは、「感想を言う」ということ。編集者でも、隣の席の人の手掛けた作品の感想を言う人は少ないのだとか。そういえば、社内でも誰が何をやっているのかお互い知らないような…。佐渡島さんからは、「電車で会ったときに、喋る人と、気づいているのに喋らないで離れて座ったままの人がいるけど、売れてる編集者はみんな喋る側だ」というエピソードがありました。

そして、小沢さんが後輩の女性編集者の仕事の仕方に影響を受けて仕事の仕方を変えたエピソードが印象的でした。毎週金曜日飲んでいたのを辞めて、その時に手掛けている著者たちのことを思い浮かべて、穏やかなメールを送るようにしたと。

そのこと自体も素敵だと思うけれど、そういう仕事の仕方にしたのは後輩の女性に学んだことだとはっきり、嬉しそうに語れる姿に心動かされました。

人の成長に併走する。

小沢さんは、ご自身の原点となった『千軒岳』という本に出会ってから、「若者が成長する姿を本にしたい。」「ポジティブなメッセージを届けたい」「小さきものたちへの応援歌を歌いたい」と決めて、実践されています。

そして、現役の編集者や、編集者にあこがれる私のようなひと、そして編集の技を仕事に活かしたい参加者にも応援メッセージをたくさんくださいました。

「目の前の仕事を一生懸命やっていると、ブレイクスルーは訪れますよ」と。小沢さんのお話を聞いた今ならば、心から信じられます。やるぞ。

仕事を通じて、世の中を良くする。

編集者の原点のひとりとして、花森安治さんのお話がでて、暮らしの手帖の第一号を見せていただきました。第一号から、現在出ている最新号まで、変わることなくこのメッセージが表紙の裏に書いてあります。

これは あなたの手帖です
いろ いろのことがここには書きつけてある
この中のどれか一つ二つは
すぐ今日あな たの暮しに役立ち
せめてどれかもう一つ二つは
すぐには役に立たないように見 えても
やがてこころの底ふかく沈んで
いつかあなたの暮し方を変えてしまう
そんなふうな
これはあなたの暮しの手帖です
 ─暮らしの手帖より

衣食住の実用性を伝えるとともに、世の中をよくしたい、という花森氏の思いが刻まれています。

小沢さんの手掛けられた作品を見ても、そういう強い思いを感じられます。いいなぁ。そんな仕事を、わたしもしたい。コルクラボの申し込みの作文で書いた「世の中をよくしたと実感してから死にたい」の思いに火が付きました。

わたしがキャリアの入り口で「編集者」を諦めたのは、体力に自信がないからだと思っていました。徹夜が当たり前だとか、シャワーを浴びるために家に帰ってもすぐに出社するだとかいう話をきいて、とても無理だと思ったのです。わたしには、そういう情けないところがある。

だけど、20代の私は自分のことで精一杯で人間力がとんでもなく低かったから、それは結果的にはよかったのかもしれない。さて、これから。今からでもあきらめずにやってこう。


今回は、講義後に行われる懇親会にも初めて参加しました。今までは「子どもが小さくてまだ夜泣きがあるから」と、懇親会は毎回欠席していました。

もちろん子どものこともあるけど、講義を聴いている分には見逃してもらえるけど、いざこちらが口を開いたら、「つまらない」と失望されるんじゃないかという恐れと、ただでさえ自信喪失しているのに、「話す価値がない」と否定されたら怖いという思いでなかなか参加できなかった懇親会。

しかし、小沢さんの話を聞いてみて、あ、大丈夫だ、と思って参加してみました。小沢さんの正面に座り「あなたの仕事は?」と聞かれてしまい、正直に今の情けない状況と、今の思いをお話すると、

「あなたは、ポジティブですね!」

と大きな声で言いきってくださって、思わず笑ってしまいました。

一流の応援を受けました。またここから一歩一歩進んでいこう。


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