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髪切りたいけど美容院は怖い。ためらいの末に行ってみると…【緊急事態宣言から1ヶ月】


外出自粛、テレワーク。半径200メートルの生活も、かなり長引いてきた。

「いやー、そろそろまじで美容院行きたいよね」

「ねー。でもやっぱり怖い」

「在宅勤務でどうせ人にも会わないし、しばらく我慢だよね」

Zoomを介した高校の友だちとの飲み会でこんな会話が飛び出した時、とてもじゃないけど「わたし、明後日、美容院いくよ」とは言い出せなかった。


新型コロナが私たちの生活に忍び寄ってからというもの、美容院は常に「当落線上」にいたように思う。

髪を切ることは「不要不急」なのか?

国の緊急事態宣言を受けて、東京都が休業を要請する(そのかわり、休業協力金を申請できる)対象範囲からも、ギリギリのところで外れたり、

そうかと思えばGW直前になって急に、休業すれば給付金を支給すると発表されたり…。

美容院を翻弄するニュースは相次いだ。

上京したての頃から10年以上通う美容院のInstagramを毎日見ながら、「なぜこの人たちがこんなに苦しまなきゃいけないんだろう」と私まで頭をかかえることもあった。

そして、今日、私は美容院に行った。

緊急事態宣言から1ヶ月。

これ以上傍観していたくない。髪の毛も限界!!!!!

半径200メートルを超える外出にドキドキしながらいざ訪れてみると、いつも通りの笑顔が出迎えてくれた。絶望も希望も一旦脇に置いて、ただハサミを動かす姿があった。

そこで客の1人として見聞きしたこと、感じたことを、書き留めておきたい。

(わざわざこの時期に「外出」したことを公表するのは、不適切で無責任かも…、と悩み、さっきから公開ボタンを押しそびれているのだけれど…、やっぱりちゃんと記録に残しておきたかった)

「どこまでいっても、自己責任の国」

時を少し戻してみる。

キャットストリート沿いの一角にある美容院「ブルートマト」。お店のオーナーでありスタイリストの阪本夢大さん(ここからはスタイリストネームのMUDAIさん、と記す)が、長年私の髪の毛の面倒を見てくれているその人だ。成人式も、結婚式も。数えきれない挫折や失敗も。大袈裟ではなく、私の人生を常に見守ってくれたのがこの美容院だ。

例に漏れず、新型コロナの影響は3月の三連休の直後からやってきた。

予約の電話が激減。まるで「開店休業」状態が長く続く。

この頃、私の方はというと、完全に自宅勤務にシフトしきっていた。会社の同僚もみんな家から仕事をして、徹底的に三密を避ける自粛生活へ。

そんなある日、MUDAIさんにLINEを送る。

「お店、大丈夫?大丈夫じゃないですよね…早く髪を切りに行けるのを楽しみにしています」

何かお見舞いめいた言葉を送りたいが、何を言えばいいかわからない。何とも中身のないメッセージに対し、こんなLINEが返ってきた。

「ありがとう。ほんと、どうせなら、早く緊急事態宣言を出してほしい…。そしたら『はい、わかりました』って、店を閉められるのに。本当に、どこまでいっても自己責任の国だと思う」

「自己責任」の国がようやく重い腰をあげた4月8日。国が緊急事態宣言をだした直後に、ブルートマトは休業した。MUDAIさんの悔しさがInstagramの投稿からひしひし伝わった(何せいつもは相当おちゃらけた投稿ばかりなので)

▼投稿から一部を抜粋

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この度、政府の緊急事態宣言の決定を受けて4月8日より臨時休業する決定を致しました。

美容業は休業要請から除外されているのですが、この状況に対して、サービス業にできることを考えた上で、お客様と、スタッフの安全を最大限考慮しての休業の決断に至りました。

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「よく決めましたね。リスペクトします。がんばって乗り切りましょう!」

懲りずにこんなLINEを送ったが、自分の言葉のあまりの薄っぺらさに、長いため息が出た。

手作りのルールはなんだか生々しい

やばい、こんなしんみりした話をしたいのではなかった!

ブルートマトは5月1日から再オープンした。コロナ禍でどうお店を運営するべきか、3週間半の休業の間にできる限りの準備をしたという。(いわく、国や都に期待しすぎるのもやめた)

「飛沫」と「接触」を避けるため、来店前には、こんなことをお願いされた。これだけのボリュームで、お互いの安全を守るための「約束事」を明示されたことは、大きな安心につながった。

●ご来店の際に必ずマスク着用の上ご来店下さるようにお願い致します。
●施術中にマスクが汚れることもございます。マスクの替えをこちらでも用意しておりますが、枚数に限りがございますので、替えのマスクをご持参頂けるとありがたいです。
●接触感染のリスクを避ける為、ご来店時、ご退店時のアルコール消毒をお願いしております。施術途中でもご希望の方にはアルコールスプレーをお渡しさせて頂きます。
●接触感染のリスクを避ける為、ドリンク、雑誌のお渡しなどのサービスを当面停止させて頂きます。
●37.5度の熱という基準がありますが、体調に少しでも不安のある場合は後日に変更をお願いしております。キャンセル対応致しますので、何卒ご協力をお願い致します。
●5/1時点で、1ヶ月以内に渡航履歴のあるお客様のご予約は誠に申し訳ありませんがご遠慮頂いております。
●店内は常時換気を行なっております。サーキュレーターなども設置し、空気が循環した環境を作っております。窓もずっと開けておりますので、少し肌寒く感じる場合もございます。少し暖かい装いでご来店下さい。
●飛沫感染防止のため、シャンプー台での会話は、確認のみにさせて頂きます。スタイリストには前髪を切るなどのお客様の正面で施術する際の会話をしないように徹底させて頂いておりますのでご了承ください

閑散としたキャットストリートを歩き、いざ2ヶ月ぶりのお店へ。

入り口には、アルコール消毒液があり、手指だけでなく、スマホなど店内で触る可能性のあるものを全て消毒するように言われた。

念入りにシュッシュをして、入店。

席に座ると、私の他にお客さんが2名いた。

再オープンに際しては、座席を大幅に減らし、マックスでフロアにお客さんが6人までになるように、予約を調整しているそうだ。4人いるアシスタントさんも交代で2人ずつの勤務。勉強盛りのアシスタントさんの顔を思い浮かべ、また胸が痛んだ。

座席にも、注意事項が置いてある。

全て、手作りのルール。POPに添えてある、いらすとやの女性が切ない。半年前には想像だにしなかった「ニュールール」は、所在ない表情でこちらを見つめてきて、生々しくもある。

「(お会計は)手指の接触を最小限にできるPayPay、LINE PayのQRコード決済をオススメしております」という文字を見て、本当にコロナを機にキャッシュレスがスタンダードになるのだろうと、こんなところで改めて思う。

「いつも通り」のありがたさが染み込んでくる

「さてと。なるべく滞在時間を短くしたほうがいいから、一色でバチッと染めちゃうね」というMUDAIさんからの声かけに応じると、あとは概ねいつものように、カラー、シャンプー、トリートメント、カット、ブローと進んだ。

いつもと違ったのは、シャンプー台での会話がないということ以外には、

・トリートメントの後にいつもサービスでやってもらっている(?)ヘッドマッサージがなくて、これは多分時間短縮のためなんだけどちょっと寂しい…

・カットの後、顔についた髪の毛をハケでハタハタしてくれる動作がない。これもちょっと寂しい…

それぐらいでしょうか。

とにかく馴染みのスタッフの皆さんが、いつものようにキビキビ、暖かくお客さんに接しているのを見るのが嬉しくて、日常のありがたさが心に染み入ってくる。

**「借りられる金は借りるんじゃ」⇒目が笑ってねぇ…!!! **

MUDAIさんに怒涛の1ヶ月について聞いてみると、「休業しないとここまで腰を据えて整えられなかったから、結果、休んで本当に良かった」と話してくれた。

衛生面のルールづくり、書面化、7人のスタッフへの教育…。いざやるとめちゃくちゃ時間がかかった。命にかかわることでもある。再オープンに際しては、何度もシミュレーションをして、お客さんへの説明を練習したという。

4月頭の休業、5月からの営業再開。

ブルートマトのある原宿・渋谷エリアでは、似たような対応をしているお店が多いそう。

店舗の家賃が毎月、否応無しに固定費として出ていく。

「示し合わせたわけじゃないけど、みんな同じような思考回路をたどってるんだと思う」とMUDAIさん。

「最初は緊急事態宣言にあわせて休業を決めたけど、これは長引きそうだなって途中から思い始めた。国や都を待ってられない、自分たちでどうにかするしかないっていう感じ」。

会社員の私には到底分かり得ないリアルがある。

「今はとにかく、やれることやるしかない。大丈夫って保証もない。この先、どこかでダメになるかもしれない。でも従業員がいるから。やれるとこまで納得してやるしかない」

諦めと希望のちょうどまんなかで「潔さ」が滲む。

私は耐えきれず、「マジでやばくなったら私の貯金あげる!」と人生最大級の申し出をしてみたが、

「いや、貯金全然ないの知ってるから…!」と突っ込まれた。

あああ、無力。

しかし、本当に、目先のお金が大変なのだ。

「平時の時みたいに、壮大なビジョンも、文化を創りたいっていう気概も正直今はない。とにかく借りられる金は借りとこうって思ってるんだ〜」と笑うMUDAIさんの目は、マジだった…。

約2時間半のフルコースの最後、1分だけマスクを外す。私の顔の輪郭に合わせて、超高速でカットの最終調整をしてくれた。

会計を済ませてお店をあとにする。

最後にもう一度、お店をぐるりと見回すと、鏡台もシャンプー台もスタッフの皆さんの顔もいつもと変わらず朗らかなのに、決してこれまでと同じには見えない。

このサービスを享受できる喜びを、これまでになく強く感じていた。そして、不安もあったけどやっぱ来て良かった。髪を切る、染めるという「機能的な価値」だけでなく、自分の人生を定点観測してくれる「居場所」としての価値を感じていたことを再確認したのだと思う。

(最後の最後までシュッシュッシュッシュ。出口でも念入りにアルコール消毒していただきました)

行くか行かないか。問いは二択ではない

今、この瞬間も美容院に行かない/行けない友だちが沢山いる。

自分のせいで感染拡大してしまったら…そんな恐れと倫理観を持ち、徹底してミニマルに暮らす一人一人の努力が続く。

冒頭にも書いたが、“StayHome”の生活で、美容院ほど「当落線上」の存在はない。

「行く」フォルダに振り分けるか、「行かない」フォルダに振り分けるか。究極は、自分が決めるしかない。

でもそれは「自己責任」という言葉に集約されるものではないし、そうあるべきでもないと私は思う。

「行く」と「行かない」の境界は曖昧でコロコロ変わる。その選択をより確からしくしてくれるのは「取材」じゃないかと思う。

もし今、馴染みの美容院に行きたいけれど不安で迷っている人がいたら、お店に電話するなりお店のSNSを見るなりして、「取材」をしてみるといいのかもしれない。

馴染みの美容師さんは今、何を思うのか。

馴染みのサロンは今、自分が安心して、納得して、行ける状態になっているか。

不安だなと思ったらもう少し時間を置いてもいいし、何か要望を伝えてもいいと思う。

「貸切にしてもらえませんか?」

「シャンプーブローなしでカットだけ急ぎでやってくれませんか?」

「電車には乗りたくないので、自宅の近くでオススメのサロンを教えてもらえませんか?」

などなど…。

取材をして、「私」が一歩、お店に踏み込む。

行くか行かないか決めてもないのに、お店に電話をするのは気が引けるかもしれないけど、めぐりめぐってそういう行為が、経済とか、希望とか、そういうのを前向きに回していくんじゃないだろうか。

行ったお前の責任だ!

店をあけた、あなたの責任だ!

などと、選択の責任をどちらか一方につきつけるのではなく、「取材」を通してお互いの不安や問題をシェアしあいたい。

何もかもを「自己責任」と切り捨てられる「こわい世界」ではなく、みんなでちょっとずつ責任を分け合って、コロナ時代を生きていきたい。

……ということでまずは、一昨日Zoom飲みしていた友人に、そんなことをLINEしてみようと思う。

StayHomeで、アクション、アクション。


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