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三越伊勢丹とカルチュアコンビニエンスクラブの提携は何が目的だったのか?

 つい先日、Tポイントカードとの提携終了を三越伊勢丹ホールディングスが発表しました。

三越伊勢丹が「Tポイントサービス」終了
https://www.wwdjapan.com/457514

これについては様々な見方が出されています。中には、「Tポイントカードの会員層は下層だから、上流層を獲得したい三越伊勢丹とはマッチできないのは当然」というものもありました。これはこれで一つの意見でまるで外れているわけではありません。しかし、個人的には完全な正解でもないと考えています。

今年、3月上旬に三越伊勢丹HDの大西洋社長の電撃解任が発表されました。これによって、Tポイントカードを運営するカルチュアコンビニエンスクラブ(CCC)との提携は一気に方向が変わったといえます。大西・元社長がCCCとの提携の先導役でもあったからです。

ちょうど1年前、2016年夏に大西社長(当時)とCCCの増田宗昭社長の両方をインタビュー取材することがあり、両者から提携の狙いについて生の声を聴く機会に恵まれました。そのことを踏まえていろいろと考えてみたいと思います。

まず、CCCとは何屋さんでしょうか?レンタルビデオチェーンでしょうか?書店でしょうか?家電店でしょうか?増田社長はいずれも違うといいます。増田社長は自らを「企画屋」だと定義しておられます。そして、企画屋の観点から現在の小売り業についての持論を持っておられます。その持論を少し見ていきましょう。

小売業の変遷

まず、敗戦直後から高度経済成長時までは、物不足の時代でした。そのため、物は作れば売れる・並べたら売れる時代でした。何せ国民の多くが、窮乏しているのです。作れば作っただけ、並べれば並べただけ売れます。そして経済が復興してくると少しずつ購買力も高まりますから、さらに物は売れるようになります。

70年の高度経済成長時代になるとさらに所得は増え、購買力は増しています。まだ物不足は完全には解消されていません。とくに必需品ではなく、嗜好品はそれほど存在していませんから作れば売れます。当然洋服も売れに売れます。

そして80年代後半のバブル景気を迎えます。このころになると、作れば売れる時代から、「どこで買ったか?」「どの店で買ったか?」「どのブランドで買ったか?」ということが重視されるようになり、嗜好品への需要もさらに高まった結果としてDC(デザイナーキャラクター)ブランドが人気を博すことになりました。増田社長いわく「プラットフォームの時代」です。

ウェブ通販の台頭

2005年ごろからインターネットが普及して、ウェブ通販が台頭し始めます。日本はバブル崩壊からの不景気が続いています。これまでのように「作れば売れる」「店に並べたら売れる」時代ではありません。みんな物自体は腐るほど持っています。ブランド信仰もだいぶと薄まっています。 プラットフォーム競争も激化しており、プラットフォーム+品揃えの豊富さを追求するようになり、商業施設は巨大化の一途をたどります。たとえば、レイクタウン越谷や、8万平方メートルもある阪急百貨店うめだ本店、10万平方メートルもある近鉄百貨店あべのハルカス本店などが登場します。

しかし、ウェブ通販の隆盛はこの巨大商業施設を簡単に凌駕してしまいます。なぜなら、ウェブは陳列空間は無限にあり、利用者の不便さえ考慮しなければ1000ページでも商品陳列スペースを作ることができます。こうなると、広さや品ぞろえの豊富さでは実店舗はウェブ通販に勝てなくなります。とくにAmazonは「日本国内の物流倉庫の広さは東京都中野区と同じくらいある。東京都中野区と同じ広さの商業施設を作れるはずがない」(増田社長)という状態にまで極大化しています。こうなると、実店舗では太刀打ちできなくなります。

誰が選んだのかが重要になる

いよいよ、小売業は「プラットフォーム」から次のステージへ進むことになります。品揃えの豊富さでは実店舗はウェブ通販に勝てなくなりました。また、安さでも勝てません。これは実体験ですが、Amazonは商品を価格変動させますので、こまめに見ているとかなり安くなる瞬間があります。その時に買えば良いですし、また価格コムをチェックしていれば、同じ商品がAmazonよりも安く値下がりしている場合もあります。じゃあ、品揃えの豊富さでも安さでも勝てない実店舗がウェブ通販に対抗するためにはどうすればよいのかということになります。

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