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アパレルの簡単な潰し方

先日、ずっとお会いしたかったメガネスーパーの星﨑尚彦社長のインタビューをする機会に恵まれました。

その記事をスタイルピックスドットコムに掲載しました。

星﨑社長に興味を持ったのは、メガネスーパーを経営再建されたからではありません。正直にいうとそれを知ったときには「なるほど」と感心しただけでした。俄然、興味を持ったのは、もうどこに掲載された記事だったか忘れましたが、メガネスーパーに来る前はアパレル企業のクレッジで再建に取り組んでいたと書かれていたのです。

で、クレッジをググってみると、新社名は「オルケス」と書かれているではありませんか。展開ブランドは「リップサービス」です。当方はアパレル業界の記事を書いていながら、あまりヤングレディースブランドは強くありません。クレッジはオルケスの前の社名だったというのを知ったのは2015年か2016年のことです。そしてそれに先立って「リップサービス」を展開していたオルケスは経営破綻していたのです。

これは2014年8月28日に掲載されている記事です。負債総額は60億円超というすさまじさです。

岐阜を拠点にしたボトムス専業メーカーのシンガポールが前身。11年6月に事業再生コンサルティング会社のMITコーポレート・アドバイザリー・サービスが債権を譲り受け、経営が改善し黒字化した。13年3月にはクレッジの株式をMITが設立したグループ会社MITパートナーズ2号合同会社がアドバンテッジパートナーズから買収。元コックス社長の池内清和・社長の下、オルケスに商号も変更し、新体制をスタートさせていた。14年1月期の売上高は約108億円だった。

と紹介されています。シンガポールというと2000年前後に経営破綻した岐阜の低価格ボトムスアパレルでした。岐阜という土地は量販店・スーパーマーケット向けの低価格衣料品アパレルの集積地として業界では知られています。

ジーンズメイトやライトオン、マックハウスなどのジーンズカジュアルチェーン店も随分と岐阜アパレルの低価格カジュアルを昔から扱っています。ジーンズカジュアルチェーン店でおなじみの岐阜アパレルといえば、美濃屋、岐阜武、水甚あたりで、レディースだとサンラリーグループが有名ですが、どれも知らない人は業界人でも知りません。イトキンも発祥は岐阜ですし、東京イギンやラブリークイーンも岐阜です。ですから、90年代後半の岐阜県知事はアパレル発信に力を入れ、90年代後半に「カジュアルフライデー」が流行ったころには、率先して取り入れていました。

岐阜アパレルの話は置いておいて。

それにしても14年1月末には108億円の年商を計上していたアパレルがたった7か月後には負債総額60億円超で経営破綻するというのは異例の事態と言わねばなりません。

しかし、その当時は当方にとってなじみのないヤングレディースブランドだったこともあり、そんなものかという感じで流していました。経営破綻時の社長の名前には注目しましたが。(笑)

で、2015年か2016年ごろに読んだ星﨑社長のインタビューでは、2年くらいでクレッジを再生させたと書かれてあり、2013年にクレッジから離れたと書かれてありました。

当方はここに注目したのです。オルケスの経営破綻は2014年8月ですから、星﨑社長が黒字化させたわずか1年半後に負債総額60億円超で経営破綻するということは一体何があったのでしょうか?これは時系列の流れを見れば誰でも興味を抱かざるを得ないのではないでしょうか?

星﨑社長がどれほどの黒字額に好転させたのかはわかりませんが、黒字転換した企業をたった1年半で60億円を越える負債を背負わせ、経営破綻させてしまうという「スピード破綻」はちょっと類を見ないといえます。もちろん、1年半ほどで経営破綻することはあるでしょうが、短期間で60億円以上の負債を作るということはちょっと普通の経営では考えられません。

ここで俄然興味を持ちました。星﨑時代と星﨑後は一体なにがどのように変わったのか。

ここをつぶさにすることで、不振といわれて久しいアパレル業界の経営に役立つ部分があるのではないか、そう思いました。

今回、幸いにも星﨑社長にクレッジ時代の話を聞けただけでなく、星﨑社長の著書「ゼロ秒経営」(KADOKAWA)にもクレッジ時代の話がふんだんに掲載されているため、おおよそどのような方針で立て直しが進められたのかを知ることができました。そして星﨑後はことごとくその方針が廃止されたということも。

星﨑社長がクレッジでやられたことは

1、不良在庫の徹底的な圧縮(投げ売りしてでも現金化する)

2、生産工程の簡略化による製造原価の引き下げ

3、コアな自ブランドファンへの回帰とそこに向けた強い訴求

4、徹底した合理化・理論化による低コストでの物作り(2と重複)

5、現場の士気を鼓舞する

と、大きく5つに分類できます。このうち2と4は重複するがあえて別に分けさせてもらいました。

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