地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ

三越伊勢丹ホールディングスは新たに3店舗の地方百貨店を発表しました。

伊勢丹相模原店(神奈川県相模原市)、伊勢丹府中店(東京都府中市)、新潟三越(新潟県新潟市)の3店舗で相模原店と府中店は2019年9月末に、新潟三越は2020年3月下旬に閉鎖するとのことです。理由は不採算だからです。

3店舗とも売り上げのピークは20年以上前の1996年度で、それ以降は低迷状態が続いていた。
相模原店は1990年に開店後、1993年に売り場を増床。その後も店舗運営の効率化を進めたが、赤字脱却には至らなかった。府中店は1996年に開店。初年度をピークに売り上げが右肩下がりで、赤字が恒常化していた。新潟三越は1936年に小林百貨店として開業後、1980年に新潟三越へと社名変更して営業。組織のスリム化などを図ったが、黒字化はかなわなかった。

とのことで、この記事には売上高が書かれていませんが、3店舗とも現在の売上高はピーク時の半分強程度にまで落ち込んでいます。これでは閉店という決断を下しても当然といえます。相模原店はピーク時の96年度には売上高377 億円でしたが、2017 年度には195億円にまで落ち込んでいましたし、府中店は開店当時261億円あった売上高は17年度には148億円に縮小しています。新潟三越はピークの96年には売上高250億円まで拡大したが、2017年度は129億円とほぼ半減しています。

今回の3店舗閉鎖は結構極秘に進められたようで、社員も寝耳に水だったという報道が多く見受けられます。

ところで、2017年春に三越伊勢丹ホールディングスの前社長である大西洋氏が電撃解任されたのも、社員にとって寝耳に水だった三越千葉店と多摩センターの2店舗閉鎖を発表したことが引き金となりました。当時は一部関係者からは「大西社長の独断専行が過ぎた」との声も聞こえてきましたが、今回の措置も似たり寄ったりで、昨年とどう違うのか外野からはさっぱりわかりません。外野からすると昨年の大西・前社長はアウトで、今年の杉江・現社長はセーフという判断はどういう基準なのかまったく不明で、ダブルスタンダードにすら見えます。「仕事の進め方がー」というのは単なる口実にすぎず、社内には相当強固なアンチ大西が多くいたのだろうと考えられます。消費者や顧客のためというよりは社内の事情による電撃解任だったとしか思えません。

三越伊勢丹に限らず、地方百貨店・郊外型百貨店をどうするのかは、現在の百貨店各社にとって大きな課題だといえます。地方百貨店・郊外型百貨店の売上高が落ち込んでいる要因はさまざまありますが、思いつくままにいくつか挙げてみましょう。

1、売り場面積が小さいのでブランドを都心大型百貨店ほど集積できない

2、イオンモールなどの郊外型ショッピングセンターに客が流出

3、若者~中年層までの客層が離れた

などの理由が考えられます。例えば1についていえば、今回閉鎖が決定した相模原店は約2万9000平方メートル、府中店は売り場面積約3万2000平方メートルと、現在の都心大型百貨店に比べると売り場面積が小さいことがわかります。ルクアイーレに変えられたJR大阪三越伊勢丹は5万平方メートルありましたし、近鉄百貨店あべのハルカス本店は10万平方メートルあります。阪急百貨店うめだ本店は8万平方メートルあります。これらに比べるといかに地方・郊外店が小さいかはわかるでしょう。伊勢丹新宿本店は百貨店の中では抜群の坪効率を誇りますが、それは売上高が高いとともに売り場面積が狭いからで、4万6000平方メートルしかありません。都心店としては格段に小さいのですが、それでも相模原店・府中店などの地方・郊外店に比べると広いのです。

売り場面積が狭ければ並べられる商品量・ブランド数も少なくなります。おのずと都心大型店に比べると品ぞろえが見劣りしてしまうのは物理的に仕方がありません。逆に言うと4万6000平方メートルしかないのに売上高が全国1位を維持し続ける伊勢丹新宿本店はすごいと言わねばなりませんが、あのブランドラインナップを他地方で実現するのは不可能ですし、実現したところであれを買うような客は東京23区以外にはそれほど存在しません。ですから新宿本店と同じブランド政策は他店では採れないのです。

2と3の問題は言わずもがなです。価格が高く、品ぞろえも少ない地方百貨店よりも売り場も広くてブランドも集積されていて価格が低いショッピングセンターにどうしても客は流出しますし、若者から中年くらいまではそちらに流れてしまいます。地方・郊外の百貨店を愛用しているのは、ほぼ老人層しかいないと言っても過言ではないでしょう。

近年高齢化が一段と進んだといわれますから、たくさん増えた老人層が支持すれば百貨店は維持できそうなものです。しかも老人層は若年層よりも富裕である割合が高いのです。しかし、老人になると、あまり服を買わなくなります。とくに70代も半ばを過ぎるとそれが顕著です。理由は寿命が残り少ないからたくさん買っても着られなくてもったいないし、あまり高額な物を買ってももったいないからです。消耗品や食品、贈答品などは買い続ける必要性がありますが、服は一度買うと、特殊な事例の破損を除いては少なくとも5年くらいは傷みません。日本人の平均寿命は男性80歳、女性88歳ですから、例えば75歳の男性だと残り寿命は5年ということになります。もちろんそれ以上生きられる可能性もありますが、今年服を買ってもあと5年間くらいしか着られないということになりますから、買う量も控えますし、あまり高額な物は買わないでおこうということになります。

シルバー女性向けの高額ブランドを展開する某メーカーは、「平均寿命は確実に伸びてますが、75歳を越えたお客は本当に服を買わなくなりますよ。当社が卸す専門店やブティックの売上高はどんどん縮小しており、倒産・廃業が増えています。もちろん当社の売上高も減り続けています」といいます。これが老人層の洋服消費のリアルな実態だといえます。

ですから、ファッション衣料品を主体としている百貨店という業種は、いくら老人層から支持されたとしても売上高を伸ばしにくく、回復させられないのです。老人層から支持を受けているのなら、もっと老人層に向けた品ぞろえ(要は主力商品を洋服以外に変える)に変えない限りは地方・郊外百貨店の売上高は下がることはあっても増えることはないのです。おわかりでしょうか。もしかしたら、食品、化粧品、贈答品とともに下着、肌着、などの中価格帯以上の実用衣料を格段に強化するとともにファッション衣料品を縮小すれば地方・郊外百貨店の売上高は回復するのかもしれません。

そして、地方・郊外型百貨店の不振というのは何も今年になって始まった問題でもないのです。

これまでからも徐々に倒産したり閉鎖されたりしてきましたし、三越伊勢丹HDの大西洋・前社長もすでに2015年にはその課題を認識していました。ちょうど2016年に数度にわたってインタビュー取材する機会に恵まれましたが、電撃解任とともにその記事はお蔵入りになってしまったので、地方百貨店についての大西・前社長の認識と個人として構想段階にあったその解決策をご紹介したいと思います。その解決策が完全なる正解かどうかは今となってはわかりませんが、考える材料になる部分があるのではないかと思います。

2016年のインタビューでは、当たり前ですがその前年の2015年の環境を下敷きにしています。3年経った今でも外国人観光客によるインバウンド需要は活発ですが、ご記憶の方も多いと思いますが、2015年の秋口から半年間くらい、にわかにインバウンド消費が冷え込みました。このままインバウンド需要は失速するという予想もありましたが、2016年後半くらいから再び復調して現在に至っています。人間の予想なんてどれほどあてにならないかがよくくわかりますね。(笑)

2016年の6月のことです。大西・前社長は次のようにインタビューで答えておられます。

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地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ

南充浩

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南充浩

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