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プライベートブランド「ZOZO」の生産システムは、現時点では「完全オーダーメイド」ではない

かねてから話題となっていたスタートトゥデイのプライベートブランド「ゾゾ」の第1弾商品の概要が明らかになりました。衣料品として見た場合の感想ですが、当方は「ごく普通の商品」だと思いました。粗悪品でもありませんが、すごく良い商品でもありません。現時点ではあくまでも「普通」です。今後、商品がグレードアップする可能性はありますが、現時点では普通のTシャツとジーンズに過ぎません。値段もTシャツ1200円・ジーンズ3800円というのは相応ではないかと思います。もちろん、高すぎるとは思いませんが、破格の安さだとも思いません。

その一方で、売り方、伏線の貼り方、期待値の煽り方はすごく上手いと思います。今回は、プライベートブランド「ゾゾ」の長所と問題点の両方を見てみたいと思います。

長所は間違いなく、売り方・期待値の煽り方でこれができている日本のブランドはほとんどありません。スマホで瞬時に採寸というゾゾスーツの開発と配布によって期待値を上げた手法は見事というほかありません。前澤友作社長が現段階で発言しておられる「ファッションの数値化による黄金比の確立」という部分はまったく賛同しませんが、採寸データを大量に集めて、それをもとに洋服作りに生かすという基本コンセプトには賛同します。

なぜ「黄金比の確立」に賛同しないかというと、ファッションは時代に応じて流行り廃りがあります。「美しい」「カッコイイ」と言われるシルエットや形状も時代によって異なります。まあ、美人の基準が時代によって異なるのと似ています。直近のファッショントレンドを見ると、2003年ごろから10年以上続いたタイトシルエットのブームが過ぎ去り、ビッグシルエット、ドロップショルダーが最新トレンドとなっています。バブル景気直前80年代もビッグシルエットがブームとなり、それが90年代後半まで続いていたのです。

その前の70年代はタイトシルエットが全盛です。このようにシルエットは15年~20年周期で「カッコイイ」という基準が変化します。人間は飽きやすい動物ですから、長い間同じ服を着ていると飽きるのです。で、揺り戻しが起きるというわけです。70年代のドラマの再放送を見ると、タイトシルエット・ジャストサイズの服を登場人物が着ています。これを壊してビッグシルエット、ルーズシルエットを提案したのが80年代のジョルジオ・アルマーニでした。新しいトレンドとしてビッグシルエット、ルーズシルエットは瞬く間に広がりました。その当時の人々は70年代のタイトシルエットを見ると「時代遅れ」「かっこわるい」と感じたのです。

ビッグシルエットがすっかり標準となったのですが、90年代半ばから徐々にサイズはジャストへと戻り始めます。90年代半ばにはすでにバブル期のビッグシルエットに対して「ダサい」「かっこわるい」「バブルを引きずっている」という負のイメージが強烈になっていました。つい数年前まで「かっこいい」と思っていた服を「ダサい」と言い始めるのですから人間の心なんてどれほど信頼するに足りないかがよくわかります。

シルエットは急激にタイトになったのではなく、徐々に変わり始めたのです。例えば、90年代後半には女性に「チビTブーム」がありました。極端に小さいサイズのTシャツをピチピチで着るのです。当然、80年代のビッグシルエット服には合わなくなります。また、90年代後半からズボンのシルエットが変わり始まります。それまでのハイウエストに代わって、股上の浅いローライズになりました。ローライズで細身、これがトレンドになり2000年頃には大ブームとなりました。チビTにローライズで上下ともに細身になったのです。2003年に「ディオール・オム」でエディ・スリマンがタイトシルエットを提案したのはその総仕上げだったとも言えます。

今のビッグシルエットは、2000年ごろからの風潮に対してヴェトモンがアンチテーゼを提示したことから再評価が始まった結果で、これも揺り戻しの一例でしょう。

トレンドが変われば、美の評価基準も変わるのです。そういううつろいやすいファッションに「数値による黄金比」は確立できないというのが当方の意見です。ゾゾのジーンズは小さいサイズと大きいサイズで、カッコよく見えるように前ボタン(業界ではネオバという)の大きさも変えているそうです。小さいサイズには小さいボタンを、大きいサイズには大きいボタンを、という具合だそうです。

こういう部分も「数値による黄金比」に至る一例として挙げられていますが、それも疑問です。付属の大小の比率なんてどうとでもなるのです。通常のジーンズのネオバの大きさが「普通」だったことから、今はブランド自体が風前の灯と化していますが、トゥルーレリジョンはデカいボタン、デカいステッチで普通のジーンズと「差別化」したことから大人気となったのです。標準の比率をわざと狂わせてデザインポイントとして人気を得たのです。それこそ、ネオバの大きさの黄金比なんて確立できるわけもないのです。

美の基準を確立するというのは、壮大な野望といえますが、それはどこかの一時代、数年間通用するのが関の山です。イギリスでメンズスーツの現在の着こなしの基礎を作ったといわれる一人にボー・ブランメルがいますが、彼の提案した着こなしが当時は「かっこいい」基準となったのですが、現在、すべてが通用しているわけではありません。時代遅れとなっている部分も多くあります。時代が変われば着こなしも変わりますから当たり前です。絵画や彫刻、美術品ならそれは可能かもしれませんが、ファッション、衣料品ではその効力はせいぜいが数年または十数年でしょう。数十年変わらないシルエット、デザイン、ディテールの服は存在しません。

できるとするなら、その時々のトレンドに応じた黄金比を当社基準として作成することくらいです。ただし、トレンドは移り変わりますし、誰かが定めた黄金比なんて他のブランドからの違う提案であっさりと崩れ去ることも決して珍しいことではありません。

さて、ゾゾの問題点ですが、さまざまあります。一番問題なのは、現時点ではオーダーメイドではないのに「完全オーダーメイド」と謳ってしまっているところです。ゾゾは受注から「即日~2週間で納品」とありますが、現時点で、いくらTシャツとはいえ、受注から即日で完成させられるオーダーメイドシステムは地球上には存在しません。この「即日」という文言を見ておかしいと思いました。以前、自分のブログで書きましたが、生地はどうするんだろうというのが第一の疑問でしたが、さらにいえば縫製、パターン作りはどうするのだろうと思いました。

生地は恐らく生地問屋か商社、生地工場か縫製工場、またはスタートトゥデイのいずれかが備蓄するのでしょう。それ以外に解決できる手法は存在しません。一から生地を作るとなると、何か月もの時間が必要になります。幾分か短縮する方法はありますが、即日完成させられるような手法は地上には存在しません。早くても何週間かはかかります。ですから、あらかじめ作り置いた生地をどこかが備蓄するしかないのです。

さらにパターン(型紙)作り、縫製も即日は不可能です。各部位のサイズを採寸して型紙を起こすのに少なくとも1日や2日使うでしょう。採寸したデータをもとに型紙を起こすことを「フルオーダー」と呼びますが、この際、型紙を作るのには相当に苦労があります。もととなる服の形がないのですから、一から手探りで服の形を構築しなくてはなりません。そこには多少の算数や計算も必要になります。芸術家よろしく、見た目だけの感性で形を構築できるわけではないのです。どちらかというと設計士とか技師に近い作業が必要となるのです。フルオーダーがなぜ高額になるかというとこの型紙作りもその一因になるのです。そもそも与えられた採寸データだけをもとにして、どういう形状がもっとも綺麗に見えて、もっとも動きやすいのか、を一から追求する作業ですから相当のノウハウと技術と美的感覚が必要となります。

これだけでも優に1日や2日は必要になります。となると、型紙作りの段階だけで即日納品は不可能になります。

また縫製だって一番簡単なTシャツといえど、作成する数量が何十枚になれば即日で縫製することは不可能です。

ここから導き出される結論はただ一つです。即日納品するためにはあらかじめ作り置きしていなくてはならないということです。あらかじめ決まった型紙でこしらえた標準品がなくては即日納品は不可能です。標準品があり、サイズに応じて型紙を修正するというパターンオーダーという作り方があります。これだとフルオーダーよりもずっと型紙作りの手間もかかりませんし、製造期間も圧縮できます。世の中に出回っている3万円前後のオーダースーツはほぼ例外なくパターンオーダーです。ですから、ゾゾもパターンオーダーだと考える人もいるでしょうが、いくらパターンオーダーでも即日納品は不可能なのです。パターンの修正にも何時間かはかかりますし、そこから縫製するとなると、縫製が一番簡単なTシャツという服でさえ、何時間かは必要となります。型紙修正・パーツの裁断、縫製の合計でも最低で5時間は必要でしょう。ここの部分だけで考えても即日納品は物理的に不可能です。

ですから、即日納品するためにはあらかじめ作り置いた商品を受注後すぐに発送する必要があります。それ故、即日納品分は間違いなく作り置きの商品だといえます。そして、作り置いた商品を売ることを「完全オーダーメイド」とは絶対にいいません。これは単なる既製服販売に過ぎません。

販促においては「物は言いよう」ではありますが、まったく違うものを言いつくろうことは果たして正しい手法といえるでしょうか?当方が、ゾゾに反発を覚えるのはこの点においてです。こういう売り方は好きではありません。

今回、ジーンズにおいて某製造業者からゾゾの発注内容が明らかになりましたので、それをお知らせしたいと思います。そのやり方は明らかに既製品販売で、イレギュラーサイズや裾上げなどのオーダー的修正となります。

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