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中国的模型生活。 上海で見たプラモデル群雄割拠の時代

※この記事は月刊「アーマーモデリング2019年10月号」に掲載したものから文章だけを抜き出したものです。実際にはカラーで写真付きでがっちり掲載されています。ぜひ自宅仕事や夜間の外出を控えている方達の作業の合間に読んでもらえたら……。今回はnote限定で誌面に乗せてない写真も載せちゃう豪華仕様! ちゃんとした画像やキャプションつきで読みたい人はぜひ下記商品をお買い求めください!


行ってきました真夏の上海。とにもかくにも暑い熱い。なんでこんなに上海の模型事情はアツいのか、上海の「大会」などを通してお届けします!

取材・文/佐藤ミナミ(アーマーモデリング編集部)

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▲一人で上海の浦東空港に降り立った私。とりあえず写真を撮った(数年ぶりの海外……)

中国のモデラーは褒めると怒る!?

 中国、上海の模型コンテスト、講評会での審査員の講評はとにかく激辛だ。

 曰く「考証がダメ」「もっとこうしたほうがいい」「ベースが雑」とか「構図がなってない!」云々。出るわ出るわ酷評のオンパレード。日本では「作品はまず褒めよう」みたいな空気があるが、上海は審査員も参加者も真剣そのもの。

 なかには安易に作品を褒めると「そんなことが聞きたいんじゃない! 悪いところを教えろ!」っていう人までいるみたい。

 今回は夏休みの開催ということもあって参加者の平均年齢は低め。20代から30代がメインだが、10代の参加者も珍しくない。とにかく「じょうずになりたい」という気持ち、向上心がすごく強く、超ストイック!

 そんななかなので今回、日本から招待された本誌の吉岡アドバイザーは大忙し。自分の作品を吉岡さんのところに持ってきて「コメントをくれ!」とせがむ人が列をなし、実演中も一生懸命メモを取ったり動画を撮ったり、とっても勉強熱心。そんな熱い、熱過ぎる姿を見て、自分自身、学生時代は強豪バレーボール部の選手だったことをほんのり思い出す。あの頃の夏、心も体も熱かった……。

 読者のみなさんのなかにも「かつては自分もそうだった……」と、遠い空を見上げて、そっと襟を正す人もいるんじゃないかと思う。

 と、いうことで、中国モデラーの作品は、そんな熱心な勉強と練習の賜物で、たしかにハイレベルなものが多かったのだ!

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冷房効いてても、上海の暑すぎる夏


 6月のある日、私、本誌編集部の佐藤ミナミは社長室に呼ばれ、いきなり「お前、上海に行ってこい」との指令が下った。「エーッ! なんで!?」と、思わず声が裏返っちゃいそうになり、その後はマジで涙。なにも中国が嫌いっていうわけじゃないんだけど、見知らぬ国に行く不安と、たったひとりで取材して来なくてはならない重圧感から出た涙だった。

 そして、夏らしくよく晴れた2019年8月2日、本誌の校了作業真っただなかにも関わらず、私と本誌の吉岡和哉アドバイザーは、上海の浦東空港に降り立った。なんと入社10年目にして初の海外出張。前日からの徹夜仕事で一睡もしていない状態での上海入りだ。

 なんでわざわざそんなタイミングで上海に来たのかというと、8月3日と4日の2日間にわたって行なわれる「第三回 上海夏季比例模型交流賽」というスケールモデルのコンテストを取材するため。ついでに、上海の模型事情も見せてもらっちゃおうという目論見。

 ちなみに吉岡アドバイザーは、中国の主催者から直々にお声がかかり、ゲストとして招待され、製作の実演や、作品審査をすることになっている。

 この上海の夏のコンテストは、今年で3回目。上海市のテクノスポーツ管理センター(元上海海軍事スポーツクラブ)という施設で開催されています。この施設の敷地はなんと8・2万平米、職員は300名以上というから驚きだ。

「上海夏季比例模型交流賽」は毎年、年始に行なわれる「上海新年模型交流賽」の夏バージョン。ちなみに年始のイベントのレポートは姉妹誌『スケールアヴィエーション』 2019年3月号(以下SA)に掲載されている。年始のイベントはもう累計13回も行なっており、前回は我らのミグ・ヒメネスや飛行機モデラーの林 周市さんやMAX渡辺さんも参加。上海でいちばん大規模な模型コンテストである。

 というわけで、空港の出口では本イベント主催メンバーで、日本語が堪能で、姉妹誌SAでモデラーやライターとして活躍中の毛 羽飛さんと、師 偉さんがお出迎え。聞けば、今回の作品応募総数は300点を超えているとか。まさに、35度を超える上海の気温よりも熱いコンテストなのだ。

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▲左から私、本誌アドバイザー吉岡和哉さん、主催メンバーで日本語が堪能なスケビのライター毛さん、師くん

中国発、モデリングはスポーツになる‼︎

 最初ちょっと不思議だったのが、通訳を担当してくれた毛さんや師さんが、このコンテストのことをたびたび「大会」や「試合」と呼ぶこと。さらに参加者を「選手」「スポーツマン」、主催メンバーの模型部屋のことを「オフィス」と呼んでいたこと。

 日本の模型コンテストで、主催者が「試合」なんていうのを聞いたことはないし、そもそも「モデラーとスポーツマンほど縁遠いものはない」と、いう印象だったので疑問に思っていた。

 なぜこのような言い回しをしているのかというと、この「大会」の主催者は「中国上海航海模型隊」の隊員たちだから。中国上海航海模型隊はラジコンやスケールモデルなどを中心に国家代表チームの育成と訓練を行なう、1980年9月に設立された、れっきとした中国政府体育局の組織なのだ。

 国をあげて模型を盛り上げる彼らには、きちんと国からお給料が出ているとのこと! ってことは、彼らは一種の公務員ともいえる(本職は別にあるけど)。そして体育局の組織である以上、模型のコンテストであっても「大会」「試合」という呼びかたになるのだ。

 政府をバックボーンとしたこういう文化活動のチームは昔からあったようで、サッカーやバレーボールの国家代表チームと同じような扱いと言ったらわかりやすいだろうか。

 そんなわけで、このイベントのことをこれからは「大会」と呼ぶことにする。

 で、この大会は、ジャンル別に作品が展示されていた。AFV、航空機、艦船、情景、フィギュア、SFなどに展示がこまかく分かれ、各ジャンルに1〜3位および特別賞が設定されていて、なんと賞をもらった人、全員に賞金が出る!

 1位の人で日本円にして3万円ほどという額だ。もちろん賞金目当てでがんばる人もいるだろうし、「趣味だし、お金なんていらないよ」という人でも、自分の作品がお金という誰でもかわりやすい単位に換算され、評価してもらえるというのは嬉しいことではないだろうか。中国らしくドライでシンプル、とてもわかりやすいシステムだと思う。

 ゲームなんてのも、模型に負けず劣らずスポーツとは縁遠いものだと思っていたが、ちまたにはeスポーツというのがあって、プロも続々と誕生、大金を稼いでいる。将来、もしかしたらpスポーツとか言って、モデラーがプロとして賞金を稼いで生活できるようになったりして。

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▲アーマー賞はこの作品!

模型が好きだから、メーカー作っちゃった

 大会では物販ブースもあり、そこには日本の模型店でもお馴染みのメーカーのキットがちらほらとあった。初日は忙しくてなかなか回れなかったのだが、ざっと見た感じでは、売り場にはラフなTシャツ姿の若者たちが多く、「アルバイトの子たちが、けっこうがんばっとるわい」と思っていた。

 で、少し余裕ができた2日目、吉岡さんとともに取材を実行するとびっくり。私が勝手にバイトだと思っていた、あの子もこの子も、なんとメーカーの社長さん(汗)!

 詳しい話は右ページ別枠で解説しているが、近年の中国メーカーが怒涛の勢いなのは、モデラーからメーカーのオーナーまで、みんなとても若いからなのかと思った。もちろん年齢がすべてだとは言わないが、私も30代になってから20代のころのフットワークの軽さやバイタリティってなくなってきたな……と感じることもたびたび。

 やっぱり若いって強い。

 ちなみに私がインタビューした社長たちは全員がモデラー。模型が好きだから会社作っちゃったという人たちだった。

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▲会場限定で色々売っていたんだよ。たしか私が行った時は1元が約16円だったはず。

上海の模型屋事情、一番人気はAFV!

 最終日、上海の最大手の模型屋さんで、開業13年目となる「3Gモデル」を訪れた。上海市街地から車でおよそ30分、出迎えてくれたのはお店のオーナーで張 毅さん。

 張さんによると、上海でいちばん人気の高いジャンルはAFV。通常のキットに加え、スナップフィットのキットもよく売れるそうだ。ちなみに香港や広東省では車やバイクのキットがよく売れるんだって。トランペッター、モンモデルなど中国メーカーはもちろん、中国国内に代理店があって作りやすいタミヤも安定の人気っぷり。

 そして驚いたのはその値段! ヤスリはだいたい16円、ニッパーだって400円、キットも工具もお安い……。来客年代層も30代がいちばん多く、張さんも「このぐらいの金額だと若い人もはじめやすいでしょ」とニコニコ笑顔。1200平米もある広い店内ですが、やっぱり最近の主流はWebでの通信販売だそうで、そのへんは日本と似ているな〜と思った。

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▲上海deモケイ爆買い……!

ぜひ皆さん、上海の「大会」に行ってみて欲しい!

 

 批判を覚悟で申し上げますと、私、ぶっちゃけ海外には全然いいイメージがなかった。スリにあうんじゃないか? 治安は? 国際線の飛行機に一人で乗れるの? いきなり変な場所に連れて行かれない? などなど。

 この出張が決まったときも「行きたくない……」気持ち一色だった。

 でも終わってみたら「めちゃくちゃおもしろくて、楽しかった……」っていう感想しか出てこない。私が単純な人間っていうこともあるし、模型が安くて逆爆買いしたっていうのもあるし、上海のご飯やお酒が最高に口に合ったっていうのもあるけど、何より出会った人たちが本当にすばらしかったからだ。

 本誌に載ったことがある中国の大学生モデラーが一緒に来ていた彼女に(上海の大会は彼女や奥様ご同行が多かった!)「オレ、日本の模型雑誌に載っているんだぜ!」みたいに嬉しそうに自慢をしている姿を見たり、吉岡さんの作品や書籍を目をキラキラさせながら見ている子たちを目にしたり。言葉が通じなくても「模型」というキーワードや作品で身振り手振りのコミュニケーションが取れて、すぐ友達になれる。あぁこういうのってやっぱりいいなぁ。って実感した。好きなものが一緒って、それだけでうれしい。

 それにいまはSNSが発達していているので、翻訳サイトと併用すればすぐに連絡を取ることだってできちゃう。恵まれた時代に生きているんだから、食わず嫌いで交流を避けるのはもったいないよね、っと思う。

 それに上海の有志の皆さんは「上海新年模型交流賽(SNYMC)」という名前で静岡ホビーショー同時開催のプラモデルクラブ合同作品展にも出場している!

 というわけで、次の上海新年模型交流賽は2020年1月1日開催。上海での大会に、我々日本の選手たちも、勇んで参加しようではありませんか! 大歓迎されますよ。

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▲楽しい飲み会。オラザクチャンピオンのRayくんもいる!飲み会が楽しいのは万国共通です。w


(オマケ)模型以外ではこんな感じで楽しんでいました。

上海は、ご飯もお酒も美味しいことこの上ない。そして安い。いま流行りのタピオカミルクティーも日本じゃ飲んだこともないのに、上海では飲みだす始末。足つぼマッサージに行けなかったのだけが心残りだけど、初めて耳掃除に行ってみたり。あとアジアでいちばん大きいという上海ディズニーホテルでディナーもしちゃいました。ちなみに私はロマンチストではないので「夜景? それっておいしいの?」という人種なのですが、32年間、人間をやっていてはじめて夜景に感動しました……。それぐらい上海の夜景は素晴らしかったです。吉岡さんはずっと「ブレードランナーや!」と言って写真を撮りまくっていましたよ。あれ、なんかこれだけ見ると、遊びに行ったみたい……?

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▲講演中の吉岡さん

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▲こんな感じで記事になってます!しかも記事では各メーカーにしたインタビューも読めちゃうよ!

最後に……

最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました! ぜひ本誌で読みたい!というかたは、下のリンクをポチッとどうぞ。




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