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皐月賞で負けたからこそ気づけた“大切なこと”

久々の大勝負

皐月賞で久々にまとまった額の馬券を買った。『自信のある時ほど控えめに賭けろよ』。いつかそんなことを誰かに忠告された気もするが、自信満々だった皐月賞前の私にはその言葉が届くことはなかった。

『俺の予想は絶対当たる。
皐月賞はジオグリフとイクイノックスで鉄板だ。俺の予想は3連単にも対応している。
上の2頭に、ダノンベルーガ。これでOKだ。
ドウデュースを買う奴は馬鹿…。』

そんな言葉を何度も復唱し、自信はいつしか過信に変わっていた……。

的中を確信した最後の直線

最後の直線。不利な進路をものともせず、私の相手本線・ダノンベルーガが最内から抜け出してきた。
『内枠が終わってるって?ならば俺はあえて内枠を通る。お前らへのハンデのようなもんだ。お前ら!ベルーガ様の実力をとくとご覧あれ!』……そんな声が聞こえてきそうな自信に満ちた表情でダノンベルーガが先頭に立つ。

すると『ベルーガよ、俺らにハンデを与えたことを後悔するなよ。こちとら半年休んで体力が有り余ってるんだ。時は来た。いくいく行くぜー!!』そう言わんばかりの勢いでイクイノックスが追い込んでくる。

さらに私の本命、5番人気ジオグリフがその2頭に勝る勢いだ。『どけどけどけ邪魔だ邪魔だどけどけ!ひきころされてぇのかバカヤロコノヤローオメェ!!!』そう言わんばかりの末脚だ。

私はこの3頭の争いを見て、馬券の大勝ちを確信する。

『久々だな、こんなに当たるの。でも毎週賭けてればいつかは当たるってもんだよ。まぁ今夜はパーティーだ、朝まで踊ろう』
そう言い残し、仲間と踊り狂うためのVIPルームを予約しようと席を立ったーー。

突如追い込んできたドウデュース

しかし……。
競馬は残酷だ。
ものすごい勢いで追い込んできたのは私が完全切りしたドウデュースだった。『もぅ、やめてーーーー』。思わず横山弁護士の名言をナチュラルに叫んでしまう。しかし結果3着に入ったのはドウデュースだった。

こうして私は◎ジオグリフ○イクノイックスで勝負したにも関わらず1円の配当も得られなかった……。

思わず叫んだ『死にたい』

ちょうど同じ頃、ロッテの佐々木朗希投手は2試合連続の完全試合に挑戦していた。一方私は競馬で大金を失った。予想は当たっていたのに……そのプライドがさらに自分を追い詰めた。

『死にたい!!!!』私は叫ばずにはいられなかった。
もし隣に坂本金八がいたら、『たかが競馬負けたくらいで死ぬなんて言葉を簡単に使うなよこのバカチンがっ!』『叫んだら飛沫が飛ぶでしょうがこの腐ったミカン野郎めがっ!』と確実に頬を張られていたことだろう。

しかし幸い坂本は不在。頬を張られることはなかった。

そして『死にたい』と叫んだ私には意外な心境の変化があった。
何かが吹っ切れ、『これだよこれ!これが足りなかったんだよ』と逆に“生への渇望”のようなものが湧き上がってきたのだ。これは収穫だった。

思えば競馬が支えだった

そういえば年始からしばらく馬券を買っていなかった。いろいろあって競馬を楽しむ余裕もなく、ただ時間が過ぎるのを待っているかのような日々の連続に心は疲れ切っていた。『進撃の巨人』をイッキ見することくらいしか楽しみのない毎日だった。

しかし競馬負けて『死にたい』と叫んだ瞬間、視界がパッとひらけた。白黒だった毎日に彩りが加わったような不思議な感覚だった。少ないけど赤黄色緑…と。

思えば長年競馬に支えられてきた。仕事でミスした時も、女性に振られた時も、いつだって週末の競馬を支えにしていたからこそ今まで生きてこれたのだった。
たとえ楽しみにしていたレースが予想外の結果に終わっても……。
『死にたい!!』そう叫ぶことによって今までの自分から解放され、翌週からまったく新しい自分として生きられるような気さえしていた。

『なんだか大切なことに改めて気付かされたな。こんな心境になるなら逆に皐月賞は負けてよかったかも……』

私は微塵もそうは思わなかったが、競馬に支えられて生きてきたことを思い出した。ありがとうJRA、ありがとうばんえい競馬。私にはたとえ負けたとしても馬券に魂を込めるという行為が必要不可欠だったのである。

予想の神様の言葉

予想の神様といわれたコマーキン・フトフェット氏はかつてこう言った。

『数多の死にたいの先に爆裂あり。若者よ爆負けせよ』と。

これから先も競馬と共に生きる限り、多くの損失からは逃れられないだろう。しかしそれと引き換えに得るものもあるのだ。競馬負けて『死にたい』と叫ぶことで得られる生への渇望、生への実感。

失うことばかりを恐れていては本当の人生の喜びは得られない。

来週も再来週もずっと馬券を買おう。
たかが金で生への実感が得られるならば安いものである。

写真は2012年皐月賞馬・ゴールドシップ(2017年撮影)


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