見出し画像

「ライフイズストレンジ ビフォアザストーム」のウソ当てゲームの真意

画像1

冒頭。クロエ・プライスは、ベッドでタバコを吸っている。
事故で父を亡くし、親友のマックスはシアトルに引っ越し、自分だけが退屈な田舎町から飛び立てないように、重しを乗せられたように、胸に「オレゴン」と書かれた灰皿がドンと乗っている。

窓からさす光にホコリが舞って光る。校庭でも小さな綿毛が白く光っている。
どんなつらい場面でも、常に画面にどこか光がさしていて、若さの輝きを感じる絵になっている。

「ライフイズストレンジ ビフォアザストーム(以後BTS)」の主人公は不良少女クロエ。
前作「ライフイズストレンジ」では特殊能力に目覚めた友人と事件に巻き込まれるんだけど、それより前の話。

偽造IDでライブ会場に入ろうとしたり、酒タバコマリファナをたしなむし、感情移入しづらい。

母がごはんに呼んでいる。その前に服を選ぼう。
ゲームでは省略されがちだけど、ちゃんと1日のはじめに服を選ぶ。バンドTシャツを着たら相手が気付き、バンドの話になったりする。
いつでも着がえられないし、特典で変な水着を着せられたりもしない。
テンポよく早送りやリトライをして全種類の会話パターンを見るような遊び方はできない。
たくさんの選択肢から一回きりのやりとりを選ぶ。人生と同じ。

部屋を調べると、結婚指輪を査定した形跡がある。家族写真が隠されている。ベッドが片付いている。
ヒゲオヤジ(新しいパパ)と寝るためか。家族写真を隠したのも、そのとき視界に入らないようにしたのかと想像できる。引き出しをうっかり調べてしまうと、中にあるコンドームを見てしまい、足でそーっと閉める。
新しいお父さんが別に悪者じゃないバランスがいい。悪者じゃなくても、ヒゲの濃さとか、ママの性的なことを想像してしまうのが無理!思春期的に無理!
「本当のパパが過去のことにされる」ことの始まりだから無理!

それまでの、ドラッグ売人とケンカ腰で話す感覚はわからなくても、
「あー、これいやだろうなー」
と、わかる部分が出てくる。
プレイヤーはクロエを移動させて、物を調べたり会話内容を選ぶだけ。
なのに、だんだんCGとは思えなくなってくる。

「ライフイズストレンジ」シリーズの醍醐味は、CGのキャラクターを動かしているのに、操作するほど人間にしか思えなくなってくるところ。

周囲に壁を作ってしまうクロエは、同じく家族に不信感を持つ優等生、レイチェルと心を許しあう。
ふたりきりで学校を抜け出して、乗り込んだ列車の中でふいにレイチェルがさそってくる遊び。
「ウソ当てゲーム」。

画像2

ルールは、お互いに自分のことを3つ話して、その中の1つのウソを当てるだけ。

演劇の練習で普段からそんなことをやってるのかなー、と、プレイヤーもクロエも思う。ちなみにレイチェルが始めに言うのは
「私は両利き」
で、これは本当。(みんなの憧れの優等生が両利きというのが、ちょっと神秘的でいい)

クロエも付き合って、
「子供のころに骨折した」とか、2つの事実とウソを選ぶ。
ルールを破ってウソばかり言うこともできるけど、大半のプレイヤーはレイチェルの観察力でウソを見破られた。
(世界のプレイヤーがどの選択をしたかわかるようになっている)

このウソ当てゲーム、結局何がしたかったのか。不思議な後味を残して次の場面に移動するんだけど、2周目プレイのときに
「あっ!あー!そういうことか!!」
と一気にわかった。

3つのうち1つウソを言うためには、2つは本当のことを話さないといけない。事前に「お互いが知らない自分のこと」に限定していたのは、他人に距離を置いてしまうクロエに、自分のことを話してほしかったんだ!

ウソを言って当てあうゲーム形式にしたのは、フェイクなんじゃないか。

僕の場合のクロエは「カントリーミュージックが嫌い」と真実を話す。
それは死んだパパを思い出させるから。
友達になったばかりのふたりが、パーソナルな部分を告白して一気に距離を縮める。それこそが狙いだった。そこを探るきっかけとしてゲーム形式を設定して、クロエも乗っかったんだ!

ふたりの関係はその次に提案されたゲームで急展開をむかえる。
BTSには、ゲーム内でゲームをしたり、タイムリミット付きで口論もするけど、負けたら負けたで話が進むし、全部相手との関係が変化するだけでゲームオーバーもない。

ストーリーは「前作の前のはなし」なので、ふたりの将来が、輝かしい人生に向けて街から旅立つ…的なことにならないことを多くのプレイヤーは知っちゃってる。
だからドラマがなくて物足りないって意見もわかるんだけど、ふたりが他愛のない遊びで笑っていたことが、その後を知っているプレイヤーにはより胸を締め付けて…

ああ、ほら、やっぱり、僕はゲームキャラがどんな目にあっても「とはいえしょせんは実在しないデータ」と思うのに、このシリーズに関してはいつのまにかちょっと過剰に、実在した人間のように思い入れちゃってる!

ずっと画面のどこかで光がさしていたけど、レイチェルの部屋が完全に暗闇に包まれる場面がある。
そこでクロエは、ちょっとしたアイデアとパパゆずりの器用さで光を部屋に持ち込む。

ハデなアクションゲームがよく「映画のような」と宣伝されてきたけど、
これは映画的なゲームだ。鑑賞後に余韻を楽しんだり、語ったりする楽しみをもたらしてくれた。

この記事が参加している募集

心に残ったゲーム

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。