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好きなことで生きている人が「ヤラセ番組に出た人でしょ?」 と言われるきっかけを作ってしまった罪深さ。

「クレイジージャーニー」は、危険地帯や秘境の祭り、職人など、ジャンルにしばられず、国境を無視して活躍する人を取り上げる番組だ。

クロックス派の松本人志にオーダーメイドで最高の革靴を作った職人。国宝の再現をこころみる焼き物の先生。リヤカーに荷物を積んで何十年も旅をする男。
スラム取材、虫だらけの下水道に住む浮浪者。彼らのメシを食い、寝床に入った。
廃人同様のドラッグ中毒者。こういう人がいるのは知識では知ってたけど、映すことは、こんなに強いのか。目の動きがおかしくなっている。息子には同じようになってほしくないと語るギャングたち。被害者。

「ヤラセ」があったとされるのは、爬虫類を愛する静岡大学の加藤先生という、すごくいいキャラが見つかったことから始まる。
この人で、ゴールデンの時間帯でスペシャルをやる。絶対に目当ての希少動物を獲る絵がほしい。
「だが先生のスケジュールは限られている。。。」
と、今思えば助けを求めるような言葉がナレーションであったと思う。

毒ヘビには大はしゃぎで向かっていくのにコウモリが苦手だったり、何が潜むかわからない穴に手を突っ込んだり、そういう「人」の面白さに松本人志のコメントが加われば、じゅうぶんじゃないか。

でも、ゴールデンでは結果が見えないとダメなのだ。
糸井重里が徳川埋蔵金を探す番組は、歴史の「もしも」を考えるおもしろさもあったのに、何年「結局見つからなかった」でいじられ続けたか。
途中のおもしろさなんか、くみ取ってくれない。
それが視聴者。

そして、用意していた爬虫類をあらかじめ放して、加藤先生を誘導するようにして、つかまえる絵を撮った、らしい。

加藤先生は、生き物の密猟や乱獲にふれて、現地で危険な目にあってまで、生き物を本来のすみかから動かすことに警鐘をならしていた。
なのに、同行したスタッフが、生き物を動かしていた。
先生のキャリアに傷をつけることにもなりかねないタイプのウソだった。

地道に働いて、仲間のために戦場を撮るカメラマン。
1日中アリを観察して、アリ飼育キットで成功した人。
なぜジャニーズが?と思ったけど、マグマ見物でのキラキラした目が印象的だった滝沢秀明。

たくさんの「好きなこと」で生きる道を見つけたひとに、
「なんか、観てないけど、ヤラセの番組でしょ?」
と言われるきっかけを作ってしまった。
命がけで対象に挑んで、忙しい中せっかくオファーを受けてくれたジャーナリストの顔に泥を塗った。

これがとってもとっても罪深い。
この番組きっかけで「池の水ぜんぶ抜く」シリーズにも呼ばれて、取った生き物を「外来種です」と判別する役割にもなっていた。それもおそらく、専門家が「侵入者が来ている!」と言い切るシーンがほしかったのだろう。

外来種と固有種で善悪のように分ける必要あるの?あの先生なんなの?とタイムラインに疑問が並ぶ。応えるように「あの先生の本当の姿をクレイジージャーニーで観てほしい」と多数のツイートがあった。

血ゲロやアヘン吸引を放送したほど攻めてるテレビ番組でも、結果を求められる時間帯だと
「今回は捕れませんでした!」
では許されなかった。とってもとっても哀しい。

番組のDVDは低価格でヒットしたし、多数の出演者が本を出して自分の活動を広げることができた(テレビよりもそっちが本当の目的だろう)。書店員はPOPを作って演出してくれていた。

ドキュメンタリー、映画、動画配信、Twitter、インスタ。
全部ウソと真実と演出がまぜこぜで作られている。嘘も事実もある。けど見てもない人が、にやついて言う。「ヤラセ」と。
いろんな要素が含まれている作品を、全部「ヤラセ」の一言で片づける人がいる。大ざっぱな人は、そのフレーズを使いたいのだ。
ヤラセとか八百長とか言って、断罪した気になりたいのだ。斬りたいのだ。彼らに笑われる日々が、われわれクレイジージャーニーファンを待っている。

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。