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「防空頭巾をかぶった女の幽霊に足を引っ張られ」36人の中学生が溺死した怪談の真相「死の海」ネタバレ有

昭和30年に起こった「中河原海岸水難事故」。
水泳の授業で海に来た中学生たちが突然おぼれて、36人もの女子生徒が死亡する大惨事になった。この事故がきっかけで、水泳の授業のため学校ごとにプールを作る動きが広まった。
悲惨さもさるこながら、この事件が特異なのは、生き残った生徒が
「防空頭巾をかぶった女の幽霊に足をひっぱられた」と証言したことで、現在でも、事故よりは怪談、都市伝説として知られている点である。

この本の帯では「幽霊事件の真実」とある。
本当に謳い文句に違わず、真実を書いている。


この本を買う人が減っちゃうんじゃないかと心配になるけど、結論を言っちゃうと、
幽霊なんかいねえよってことである。

事故が起こり、責任をおわされた教師たちは石を投げられ、漁師たちは事件に関する話を墓まで持っていった。地元の人がふれることすら避けてきた悲惨な事故なのに、空襲の話と結びつき、いつの間にか「防空頭巾の幽霊話」だけがひとり歩きしていく。

周囲が空襲で焼け野原になったこと、はじめて幽霊の話が出てくる記事など、
ここが怪談の起点か!と思える話が出てきたところまでは、怖がりながらもおもしろい話として読めるけど、読み進めるごとに、怪談話の装飾がはがれ、つらい真実だけが残っていく。

生き残った女性が、つらい記憶を振り返って証言しても、週刊誌もテレビ番組も、「幽霊話」に着地するように編集されてしまう。
それは、おもしろいからだ。
真実はおもしろいものじゃないのに、人はおもしろい話しか聞きたがらない。

事件のことを付近の住人に聞いたら、作者は「だれがその話をした!」と怒られたという。
ネットで都市伝説としてメチャクチャ知れ渡っているのを知らず、地元の人は自分たちの胸にしまっていたつもりなのだ。

「事故でした」では人は興味を示さない。

どれだけ悲惨だったか、被害者が美男美女だったか、子供だったか、無軌道な若者だったか、珍しい職種だったか、印象に残る言葉があったか・・・
事件を飾る「なにか」で人はひっかかり、事件を知って、広まっていく。

読者だって、悲惨な事故を知って女子生徒たちに祈りを捧げようと思って本を手に取ったのではない。
「幽霊話の真相」があると聞いて食いついたのだ。
作者だって「幽霊」のおかげで本を出せた。そのことにみんなで罪悪感を抱えて読み終わる。ちゃんと後味が悪い一冊だ。

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読書感想文

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。