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漫才を観る前とあとで、すこし違う自分になる【M1グランプリ2022】

毎年、M1チャンピオンになった人を「最初から求めていた」みたいな空気になる。

マヂカルラブリーみたいな人を地下から発見して、趣味の沼に浸りたいと、一昨年彼らが優勝したときは思った。

去年は、錦鯉みたいなダメな自分にも、もしかしたら人生が一変するようなことがあるかもしれないと思えた。社会みんなが彼らのような人を求めていたように見えた。お笑いの賞レースひとつで、世の価値観がすこし動いて見えた。

2022年の王者はウエストランド。さえない男がユーチューバーや視聴者や、かっこつけてる同業者にまで悪口を言うネタ。
もしネットニュースに意地悪く切り取られたら、テレビを観ない人から石を投げられそうな、いわゆる「炎上」覚悟のネタで優勝した。

その4分の漫才を見ると、
「たしかに、最近はみんなSNSさまのご機嫌をうかがうばかりでつまんねえな!誰かにこの思いを代弁してもらいてえな!」
と、前から思っていたような気になる。

ウエストランドの優勝を見るまでそんなこと思ってなかったはずなのに。

芸人の単独ライブのフライヤーがセンスいいのも、ちょっとメッセージ性のあるコントもいいと思っていたのに。ユーチューバーへの偏見もなくなってるはずなのに、ウエストランドの思想に引っ張られる。
技術と時代と運をあわせもったパフォーマンスはそれだけの力がある。
4分間で思想をちょっと更新して、聞く前の自分とは違う自分にしてしまう。

他のコンビの感想

ロングコートダディが面白かったです。前に見たときより舞台の使い方が狭くて、小さい空間なのに世界を想像させる。
カベポスターは実力者なのに出順いちばんになったことで、会場でみんながやりやすいように整地したみたいになってしまった。
キュウがひそかな人気者になりそう。右の人はザコシショウがモノマネした誰かみたい。

ヨネダ2000が面白かった。THEWのときも思ったけど女子が好きなことを好きなようにやる嬉しさ。南海キャンディーズがM1で初めて世にでたとき、西川きよしさんが
「今まで見たことがない…男女コンビは、お前はブスやとかいうものだったのに(うろ覚え)」
と絶賛した。
コンプライアンスなんて言葉が出る10年以上前から、容姿いじりをやめて多様な笑いが生まれることを記録していた。相方の横山やすしは古い価値観の芸人の象徴みたいな人なのに。

さや香が前回出たときから試行錯誤していたらしい。何気ない年齢の会話から一気に「免許返納した」で引き込む。こっちが魚で、痛みを感じないままクイッと針をかけられて気づいたら彼らのフィールドにあげられていたみたいに鮮やか。最終決戦の「モヒカンは坊主か」の無茶さかげんよ。

真空ジェシカが優勝できないのは審査員が古いのか

真空ジェシカは年配の審査員にわからない、とYouTubeでたくさん書かれている。彼らのストイックさと風貌が一部でカリスマ化しているようだ。
日本語ラップが韻をぎちぎちに詰め込むみたいな、細かいワード詰め込み漫才。
聞き手を居心地よくさせず、逆に集中させるのが他と違う。
ネタ元が世代的にわかるかどうかの問題ではないと思う。
審査員はみんな新人アイドルとも共演するし、笑いに興味のない中高年の前でネタをやらされてきた百戦錬磨の達人たちだ。
ダウンタウンは自分たちの劇場がないころから、ぴくりとも頬をゆるめない年配のお客さん相手に、ず~~~っとゼロ笑いで自分流の漫才を続けていた。「帰れ、帰れ」とコールをあびたこともあるらしい。
年齢のせいでボケの元ネタわかんないから得点下げるようなレベルでは審査してない。

真空ジェシカが世間に馴染むにはどれくらいかかるだろう。ぼくは、話の展開から脱線しまくる展開に息苦しいと感じてしまった。歌謡曲を聞く耳でラップを聞いたみたいに。

最終決戦、絶対票が割れるだろうけどロングコートダディかなと思ったら、ほぼ圧倒。現場にいないとわからない爆発的なウケがあって、もうウエストランドにいれなきゃしょうがないぐらいの空気だったのか。

頭で考えてきたネタを、人生の重みがつまった叫びで圧倒する。そこは錦鯉といっしょ。

直後のくりいむしちゅーの番組で、M1っぽい、うまいコメントを競う番組があって、そっちに錦鯉が出たり、クールポコをパクったしょうもなすぎるネタがあって笑ったなあ。

M 1審査員をやらずに対抗側を盛り上げてシーン全体を活性化させるプロレス的思考のくりぃむしちゅー。

M1グランプリ終了直後の感想としてはこんな感じです。今年最後の賞レースと思ってませんか?
まだ「あらびき団」がいます。前の特番ではゴイゴイスーミュージカルとかいう、自分より荒いのを直前にぶつけられ。松本人志を前に全く持ち味を出せなかったあらびき団が、なんだかんだ生き残ってます。

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。