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サウンドノベルの精神をかろうじて受け継いだ失敗作「WILL:素晴らしき世界」

はじめて知った「読むゲーム」はスーファミの「かまいたちの夜」だった。
といっても買ったわけじゃない。
中学1年だったか、ソフトを持っていた友達がわざわざ「このゲームの、ガラスが割れる音がリアルなんや」と、学校帰りにソフトを持って来たのだ。(先生にばれたら没収なのに)

それまで知っていたRPGなんかと違い、小さなメッセージウインドウではなく、画面いっぱいに文章が出る。

雪に閉ざされたロッジで連続殺人が起きる定番シチュエーションのミステリーだが、本格的に話が動き出す前の、ガラスが割れるシーンまでいっしょに読みすすめた。

「パリーン!」

「……な?」と確認して、友人は帰っていった。
「な?」じゃないだろ。「な?」じゃ。本編の面白さとあんまり関係ないとこじゃないか。今思えば、あいつ夜中に遊んでいてあのシーンでビクッってなって、怖くなったからいっしょに進めてほしかったとか?

「かまいたちの夜」は、子供から見た大人向けミステリー入門的な存在だった。(あと「金田一少年の事件簿」)
ストーリーだけだと他にも凄いミステリーはいくつもあるが、今思えば、メッセージ欄じゃなくて画面いっぱいに文字が出る大胆さに引き付けられた気がする。「小説を意識した」じゃなくゲームに「小説を持ってきた」。

その後、チュンソフトのサウンドノベルシリーズは、実写映像と複数主人公の「街」
10年後には、同じ渋谷を舞台に、各主人公の話がひとつに収束するようになった「428」と続く。

画面全体に文章を出す「かまいたち」フォロワーは山ほどいて、どれだけ怖い話かを競っていたけど、本家はゲームにしかできないアプローチで、どう小説を「遊ぶ」かを考えていた。
香川出身の中村光一率いるチュンソフトの「田舎の少年がプログラミングと職人魂だけで成り上がった」感。かっこよかった。

そして「428」のさらに10年後。
それらの影響を受けて中国の女性クリエイターが作ったPS4ダウンロードソフト「WILL:素晴らしき世界」が配信された。
あのころ好きだったシリーズがまさかの凱旋!これだけでどんな出来でも賞賛したくなる。

主人公は神様になって、世界各国から届く手紙を読み、並べ替えて事実を変える。他人の手紙の文章を入れ替えて運命を変える。

左は学校でリレーに選ばれた高校生。右は新人ギャングが強盗に挑戦。
「手の中のものを手渡した。」の一文を左右どちらに移動するかで、銃かバトンを渡したことになる。「銃声」もどちらの文中の、どのタイミングで鳴るかで何を意味するかが変わる。並べたかによってその後の展開が変わる。

この発想は素晴らしい。受け身で読むだけじゃなくて、ゲームならではのアプローチで、どう小説で遊ぶかを考えている。サウンドノベルの精神を継承している!

用語解説に中国らしさを取り入れたのもいい。死ぬ直前に見るという「走馬燈」は、本来中国のこういうものだ、という解説を日本人は書けない。この設計ができた時点で、ストーリーは0点でもオーケー。そう思ったさ。

そしたらストーリーでマイナス150点ぐらい叩きつけられた。

納得いかなければ生徒の絵も平然と破り捨てる神経質な美術教師と、テニス部の女生徒の許されざる恋。
デスゲーム的な挑戦を受け取るオタク青年や、先輩におさえつけられる新米の熱血刑事。

手紙形式で、少人数で書く制約があったとしても、「ベタ」を越えた、全てがどっかで見たことあるような話ばかり。
世界からの言葉なのに読めるのは「神だから」とかゲーム内で説明がある。
吹っ飛んだり捕まったり、自分が殺されたことをどうやって手紙で報告しているのかは、よくわからない。

最初は感激した話の分岐にしたって、
正解が「生き延びた」
あとは似たような死に方が4通り、みたいな感じでほぼ分岐になってない。1番面白いところが死んでいる。

多くの人が不満にあげる暴力描写。
不快に思った人も多いようだが、暴力自体は大丈夫だった。
不快ではないというか、文章を変えるたびに誰か死ぬから、ショックを与える効果すらない。
「女の子が悪党につかまってしまった」で終わってもいいところを、「その後に四肢を切断されました」までちょっと書いてから終わらせる。

安心してください。怖くない。というより「なんで?」って思う。読者に衝撃を与える文章力がない(翻訳の問題もあるかもしれない)のに、そういうことを書こうとすることが不愉快になる。

神様視点の設定だから、国籍の違うカラフルな登場人物たちが出せたのに、だんだん同じような暗いトーンに落ちていく。
「428」のオマージュ入ってるようなネコまで、自分が事故死したことをネコ語で手紙にしたためる。シリアスな格闘シーンでも、うなじにトン!と手刀をあてて失神させる技が出てくる。
それと同時進行で子供の虐待とか、書くんなら真剣に書かないといけない題材にうかつに手を出す。多彩なシナリオとは言えない。無神経だ。

「街」だって話の畳み方グシャグシャなんだけど、デカイふろしきは広げるから「どう畳むんだろう!?」って先が知りたくはなった。
サービス精神がありすぎたゆえの失敗だから許せた。キュートだった。でも、このゲームのいびつさは愛せないよ。絵はきれい。一言でも各国のボイスを用意してる。すごい。けど。

作者は日本のゲームもアニメも愛してる。スタッフロールによるとたくさんの支援者が集まって完成にこぎつけたようで、嬉しい。応援したい。途中がアレでも、最後にはひっくり返してくるんじゃないかと期待して進めた。
実際、部分的にはサウンドノベルのマネに終わらない独自の仕掛けがある。

アイデアを生かせる脚本、それなりの予算を用意できれば愛がちゃんと形になった。
うまくいけば大化けして、この作品がまた次につながるようなポテンシャルを持っている。なのに、最後に残るのは、とにかくいびつな失敗作という印象だけだった。

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。