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逞しくも可愛い男

40 代前半の管理職といったところか。

横長なスクエアタイプの黒緑メガネをかけた男は、理知的でありながらワイルドな雰囲気を醸していた。
肩甲骨の隆起した筋肉質な肉体を、生地をつなぎ合わせたスプリットヨークの青いストライプシャツが品よく魅せている。オーダーメイドと思われるが、その袖口は乱雑に捲り上げられ、浅黒く逞しい上腕二頭筋が露出していた。

左手首に巻かれた腕時計はよく知られるブランド物だが、パン粉が付着していた。鍼えられた大腿ではちきれそうなスラックスにも、磨かれて黒光りする革靴にもパン粉が飛んでいる。パンが好きなのだろうか。

彼はクリップ留めされた書類に目を通しながら、片手でバンズを掴んでかぶりつく。

手も口も大きい。
雄として何を掴み、何を食らってきたのだろう。
その指にリングはない。
彼の妻の座にはどんな女がおさまるのだろう。
不躾に眺める視線に気づかず、彼はすぐに食べ終えてアイスコーヒーをがぶりと飲んだ。
ストローをまどろこしいとでも思っているのだろうか。

彼の容姿も身に着けている物も一級品なのに、その扱いが粗雑に過ぎる。だが、不快ではなかった。邪推してしまうほどに惹かれる豪快さと見栄えに、可愛らしささえ感じてしまう。

まさに眼福だった。

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