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【ポートフォリオ】うちの隣のわふわふさん

私はずっと団地住まいだったんだけど、当時お向かいのお家にゴールデンレトリバーをなんと三頭飼っておられるお家があった。私が団地の駐車場に車を留めると、運が良ければ三頭がお出掛けする所を見られたのでした。

するとお向かいの家のドアが開いて出て来る三頭にはリードも首輪も着いていないのだ。「なんてことだ、けしからん!」と怒る向きもあるでしょうが、私が運転席から見ていると、彼ら、もしくは彼女らは絶対に自宅の敷地内から出ない。おのおの敷地内をうろちょろしながら、飼い主さんが施錠してワンボックスカーのトランクが開くのをじっと待っているのですね。そしてトランクが開くや否や我先にと乗り込んで、車は出発していくのでした。

運よく帰って来るタイミングにも出会えたことがありました。車がお家の駐車場に到着し、トランクが開くと一頭づつ降りて来て飼い主さんがドアを開けるのをじっと待っている。そしてドアが開くと我先にと家に入って行くのでした。

学生時代から交際している恋人が、昔ゴールデンレトリバーを二頭室内飼いしていて、二頭ともとてもやんちゃでいつも飛びかかられて大変だったのを見ていたので、その平和な光景は衝撃的でした。あのやんちゃで人間が大好きで、お利口だけどしつけが難しいゴールデンが、ここまでちゃんと出来るものなのか?!

そんなことを思っていると、偶然飼い主さんと三頭のうち一頭のゴールデンレトリバーに話せるチャンスが巡って来ました。
私「こんにちは。かわいいですね」
飼い主さん「あ、犬大丈夫ですか?」
私「大丈夫です。昔友人が飼ってたので」
この会話をしている間、一頭は絶対に私に飛びかかる事無く、私と飼い主さんの間を往復していた。まるで「ねえ、ねえ、この人に遊んでもらってもいいのかな?どう?」と言いたげに。

「じゃあ触って良いですよ、どうぞ」そう飼い主さんが言うと、一頭が大人しく私の前に座って、自由に撫でさせてくれました。撫でながら話を聞くと、「犬三頭猫二匹、更にうさぎ一羽」というお家だということがわかって、大層驚きました。

更に、犬は多くが触っているうちに段々興奮してきて、しまいには顔を舐めたり飛びかかったりしてくるものだが、その子は一切そんな事もなく黙って触られるがままだったことだった。一体どんなしつけをしているのだろう、この人はブリーダーさんかドックトレーナーさんなんだろうか?そんな事を考えながらお別れして、今度はいつ会えるかな、と楽しみにしていました。

そんなある日、数日旅行で家を空けて帰ってきたらその家には「入居者募集」との張り紙が張られていました。——ああ、引っ越されてしまったのか。私の住む地区は過疎化と高齢化が進んでいて、空き家が多くなっていました。なので三頭の犬がいても そもそも人があまり歩いていないので平気だったのですが、どうやらそのライフスタイルを送るのにこの地区はふさわしくなかったのかも.......。近くに大きな芝生のある公 園もあったのですが、もっといい物件があったのだろうか。古い借家だったので、新築なさってお引越しだったのでしょうか。事実はわからないままですがどこかもやっとした気持ちが残ったのでした。

今、私は一人暮らしで猫を飼い始めて、丸くなってすやすやと寝息を立てています。念願かなって同居できたら、彼の弟としてゴールデンレトリバーを飼って、あみちゃんと一緒に仲良く暮らせたらいいな。彼も、看取った二頭のゴールデンレトリバーを「わふわふさん」と呼んで可愛がっていたから、家中に飛び散る毛だって平気。あのふかふかさと人なつっこさ、犬の胸毛に顔を埋めて眠る彼の幸せそうな顔は何にも代えがたい宝物だから。