見出し画像

禅の「精進」を深掘りしてきました

先日、禅と食 ~「精進」について深掘りする~ というイベントに参加しました。

曹洞宗が運営する都内のホテルで開催されたこちらのイベントは、山形県 地福寺 副住職の宇野全智師の進行で進められ、以下のような内容で充実の3時間でした。

  1. 修行僧の生活や禅の作法、禅における食の考え方についての講義

  2. 「五観の偈(ごかんのげ」という食への向き合い方が書かれた短いお経についての説明

  3. 精進料理をいただく

  4. 「五観の偈」を写経

  5. 「五観の偈」を読経

3回の食事は大事な修行

禅の修行では、朝起きてから寝るまで、生活の全てが修行です。宇野全智師は永平寺で修行をされたそうで、朝、3:30に起床する(季節によって変わるそうです)修行僧の1日について軽く説明してくださいました。

特に1日に3回ある食事の時間は大事な修行だそうです。残念ながらメモをしてなかったので、印象に残ったことを思い出しながら書いてみます。

「精進」とは

こつこつと励むこと、修行に専念することで、本当の幸福を得るための6つの修行「六波羅蜜」の4番目とされているそうです。六波羅蜜とは、「布施(ふせ)」、「持戒(じかい)」、「忍辱(にんにく)」、「精進(しょうじん)」、「禅定(ぜんじょう)」、「智慧(ちえ)」の6つです。

ちなみにウィキショナリーでは以下のように書かれています。

1.(仏教)仏道の修行にひたすら励むこと。
2. 心身を清め、身を慎むこと。
3. 肉食を絶つこと。
4. 目標達成などのために何かに打ち込むこと。

動物性は使わず、旬の食材を余すところなく

精進料理は主に旬の食材や大豆を用いて作られます。食材も調味料も肉、魚、卵といった動物性のものは一切使用しません。

今回使われた食材は以下です。

・指宿のそら豆
・2年かけて育てた京都の堀川牛蒡
・茨城の金時人参
・岩手のフキノトウ
・レンコン
・菜の花

精進料理では基本的に、ニンニクや玉ねぎ、らっきょう、ニラなどは、精力がつき修行の妨げになるので使いません。

六味

禅の味付けは、陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)で言われている、「苦い」、「酸っぱい」、「甘い」、「辛い」、「塩っぱい」の五味に「淡い」を加えたもの。「淡い」は食材の持ち味を生かすように薄味にすることです。

禅の器

禅の修行僧は食事の時と托鉢の時、「応量器」という入れ子の漆器を使います。大小数枚の器、箸、刷毛、ヘラ、漆で塗られたマットのセットです。入れ子の器は大きな器の中に残りの器が収まり、マットも6つ折りになるので、脇に抱えることができるくらいコンパクトになります。

食事の後は湯呑み半分以下のお湯の量でヘラを使って綺麗に洗うこともできるそうです。しっかり洗うのは、週に一回だそうです。

五観の偈(ごかんのげ)

食事をいただく側の心構えを説いた短い経文。禅の修行では、食事の前にこの「五観の偈」を唱えるそうです。

イベントでは、食事の前に皆で唱え、食事の後に写経をして、最後にまた皆で唱えました。

「観る」と「見る」

「五観の偈」の観は、「観る」の意。「(手に持ったコピー用紙を指しながら)こちらの紙は、ただ目で"見る"と何も書いてない白い紙ですが、本質をよく"観る"と世界中の全てが見えてきます」と宇野全智師。

紙の原料はパルプで、パルプは木材から作られていて、世界のどこかにその木材を育てた人がいて、パルプに加工した人がいて、その他いくつにも及ぶ工程があり、そこに何千人もの人が関わっているというところまで、真実を理解することが禅でいう"観る"ことなのだそう。

講義では、食事を始める前に、ご飯に添えられている空豆をしっかりと観ました。空豆が農家さんに育てられて、収穫されて、市場で売られてシェフの手に渡るまでに直接的に、また間接的に関わった人たちに思いを馳せて感謝の気持ちを持ち、全てがつながっていることに改めて意識を向けてみました。

食事の作法

精進料理は音を立てずにゆっくりと食べるのが基本です。その他以下のような作法があります。

・姿勢を正して食べる
・器は両手で丁寧に持つ
・食べ物を口に入れたら、一度お箸を置く。食べている間は他の食べ物に目をやらずに、食べているものに向き合う

食べ終えた感想

全体的にとても薄い味付けでした。しかし、素材が持つ味をしっかり味わうことができたので、全く物足りなく感じませんでした。

そして、ゆっくりと五感を使って味わうことで、一つ一つの自分と食材との深い関わりを感じることができました。お米一粒一粒でさえ、愛おしく感じられました。

フキノトウを食べるのは今年初めてで、ほろ苦くてとても美味しかったのですが、春を待ってようやく蕾になったのに、ここで私が食べてしまって申し訳ないという気持ちに…。

最後に、シェフが私たちを喜ばせようと心を込めて作ったのだなと、お料理全体を通して感じました。

参考文献として曹洞宗の開祖、道元禅師が食の理論を説いた「典座教訓・赴粥飯法」を紹介してくださいました。ちょっと難しそうだなと思っていたら、アマゾンでビギナー向けを発見したので、機会があれば読んでみようと思います。