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赤ちゃんレベルの「免疫の話」その3

 簡単に免疫システムを解説してみようという企画の第三回です。

前二回はこちら

 ▶ 赤ちゃんレベルの「免疫の話」 その1 
 ▶ 赤ちゃんレベルの「免疫の話」 その2


振り返り

 さて、前二回は獲得免疫の話をしてきました。といってもすごくざっくりで、王道のみを行きました。

 簡単にまとめなおすと、獲得免疫= adaptive immune system はリンパ球であるB細胞とT細胞によって担われていたのでした。

 B細胞は液性免疫担当で、抗体をつくる。T細胞はヘルパーと細胞障害性にわかれ、細胞性免疫(CTL)と調整役をになっている。

 B細胞もT細胞もペプチド特異的に反応を起こし、そのペプチドが病原体由来であるから、敵を認識できる。そういうことでした。


はしょったけれども

 さて、まだまだまだまだたくさん獲得免疫には仕組みや論点があります。例えば、抗体というのは一種類ではなくて、クラスと呼ばれるいくつかのグループがあります。IgGとかIgMとかきいたことがあるかと思います。

 また、T細胞も単純にヘルパーとCTLだけではなくて、全体をよく調整する制御性T細胞 (Treg) などの違う亜集団がいます。

 さらに、実はリンパ球はB細胞とT細胞だけではなくて、NK細胞、NKT細胞などのちょっとちがう種類の登場人物もいるのです…。

 そして、どうやって最適化しているかリンパ球を教育しているか、などや、他の主人公たちの役割と連携、そういったこともまだまだまだまだたくさんストーリーがあるのです。

 しかし、これらは二巡目で話す話。まずはこれまではなした部分がエッセンシャルかな、と思います。


自然免疫系

 さて、そこで、今回のは自然免疫にうつっていきたいと思います。

 自然免疫 = innate immune system とはなにか。定義するのは厳密には難しいですが、獲得免疫以外の方法で病原体を除去する仕組み、とまずは考えてよいのかなと思います。

 獲得免疫というのは実は、原始的な生物にはありません。あまり好きな言葉ではありませんが下等生物では発達していないんですね。哺乳類では非常に発達していますが、昆虫や魚などでは発達していません。

 そうすると、そういった生物では感染症の病原体はやりたい放題なのか?そうではないですね、実際には免疫システムを持っています

 その主体が自然免疫系なのですが、自然免疫系とは簡単に言うと、「病原体」を「食べて」、「炎症を起こし」「排除する」という仕組みになっています。

 獲得免疫は「病原体」を「認識」して「排除し」、「記憶する」のでした。食べてはいないですね。しかし、違いはそこだけではありません。

自然免疫と獲得免疫の大きな違いはいくつもあります。

まず、

  ① 登場人物が違う、

  ② 病原体の認識方法や認識の考え方が違う、

  ③ 排除の方法が違う、④記憶の在り方がちがう、

  ⑤ もっている生物が違う

といったことがあげられます。

順番にみていきます。


自然免疫系の登場人物たち

 まず、獲得免疫では登場人物の主体はリンパ球と抗原提示細胞でした。抗原提示細胞は病原体を食べますが、リンパ球は基本的には食べません。基本的には。

 一方、自然免疫を担う細胞は主に好中球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞、好塩基球・好酸球、肥満細胞などです。うわーいっぱい出てきた。


 しかし簡単にいうと、リンパ球以外の白血球と樹状細胞あたりなんです。

 そして実は、こういった細胞によるものだけでなく、補体と呼ばれるタンパク質やサイトカインやエイコサノイドというタンパク質や脂質によっても自然免疫は担われています。しかし、細胞でないこれらはまずは割愛して進みます。


自然免疫における病原体認識の仕方

 さて②の病原体の認識方法や考え方についてですが、獲得免疫系はペプチドを認識するのでした。ペプチドはアミノ酸の鎖で、タンパク質の一部です。そう、タンパク質を認識するとも言えますね。特異的な配列を読めるので、非常に特異的です。これを「抗原特異性」とも言います。

 しかし冷静に考えると、獲得免疫系はタンパク質しか認識できない。そして、いちいち配列をよんで、特異的なものにしか反応しないんですね。これがちょっと問題になったりもします。かつ、抗原提示をうけてから活性化し、そして動き出すので、速度がのろい。初速がないんですね。反応し始めるのに時間がかかります。

 さて、じゃぁ自然免疫系はどうなのかといいますと、実は非常に速い反応をします。目の前に病原体が現れたら、ほぼ即座にたべます。そして食べると、炎症を起こす指令をだします。

 これはなぜかというと、病原体の認識方法と考え方が全く違うからです。

 自然免疫系における、病原体の認識は「特異的な配列をよむ」方法ではなくて、「パターンを認識する」という方法をとっているのです。

 パターン?

 そうパターンです。例えば、ヒトを構成する成分はタンパク質や脂質、糖質などいろいろあります。もちろん病原体も成分を持っています。しかし、細菌や真菌(カビの仲間)、ウイルスなどは時に、ヒトがもっていない成分を持っています。

 しかも、それらはタンパク質だけでなく様々な分子、ときに糖、時に核酸(DNAやRNA)などです。それらの成分や化学式がすこし違う。ヒトのそれとは少しちがう

 たとえば、リポポリサッカロイド(LPS)というお砂糖のなかまの糖がつらなった成分は、細菌の細胞の外側を構成していますが、哺乳類には非常に似たものはありません。例えば、ウイルスが自分のゲノムを複製するときにつかうRNAの頭の部分には、ヒトの仕組みとは違うキャップという防護構造がついています。

 そう、そういう、病原体にはあってヒトにはない、分子のパターンを認識する分子があるんです。パターンというのは、決して多糖類の配列を読んでいるのでも、RNAの配列をよんでいるのでもなく、そういうパターンで現れる構造に反応するようにできているんです。特異度は低いけれども、ヒトにはないものを一緒くたにみることができるんですね。

 こういう、ヒトになくて、病原体 (pathogen) にみられる分子(molecular) のパターン(pattern)のことを、病原体特異的分子パターン(Pathogen-associated molecular pattern, PAMP)と言います。ヒトにはなくて、病原体にある分子の一群。

 これは、免疫の有名で私もすきな教科書を書いている Janeway がなずけたものです。

 さて、これらPAMPを認識するような分子のことを、パターン認識受容体(pattern-recognition receptors, PRRs)と言っています。受容体(receptor)というのは受け手の分子のこと。TCRやBCRのRですね。

 これらの受容体は、例えば病原体だけにあるLPS、病原体由来だけのRNAやDNAに反応して、形を変え、ほかの分子に情報を伝達します。この受容体は血球細胞である好中球やマクロファージ、樹状細胞などにあって、それらのシグナルで貪食がおこったり炎症を起こしたりするんですね。

 PRRs の代表的なものが、Toll様受容体(Toll-like receptor、TLR)という分子なんです。大阪大学の審良静男先生ががんがんみつけられたんですね。Toll受容体とはハエでみつかった分子で、ドイツ語由来です。それに似ているタンパクとしてあとから見つかったんですね。

 このTLRが見つかったことで、自然免疫の研究が一気に爆発しました。

 それまでは自然免疫というのおは獲得免疫とは違い、非常に原始的で、大した仕組みじゃないぐらいに思っていた人もいたような感じだったんですね。つまりちゃんと認識しないで手当たり次第に食べて処理していた、と思っていたんですね。

 それが、TLRがみつかり、自然免疫系も実は PAMP を認識してしっかり選別していることが分かってきたわけです。

 TLRs にはいくつも種類があります。TLR1とかTLR9とか。現在11種類ほどが見つかっています。具体的にはTLR1や2はリポタンパク質、TLR2はまたペプチドグリカンなど、TLR3は二本鎖RNA、TLR4はLPS、TLR5は病原体の鞭毛、TLR5はリポタンパク質、TLR7・87は一本鎖RNA、TLR9はDNAのGCの多い配列…という感じです。

 このように、自然免疫は、配列をよむのではなく、ヒトにない分子を見つけると刺激されます。そうすると、好中球やマクロファージは病原体を食べて消化し、樹状細胞は食べたのちに抗原提示をして獲得免疫への橋渡しをします。

 さらになんと、TLR以外のパターン認識をする分子も見つかってきています。例えば、RLRs (RIG-I、MDL5、LGP1)などやNLRs (NOD1, NOD2, NALP3)と呼ばれる分子で、これらは受容体というより引っ付く分子なので、PRMs (pattern-recognition molecules)などと呼ばれたりもします。

 いずれにせよ、これらの分子はいずれも「パターンを認識」して自然免疫系の主人公たちが頑張り始める、ということになります。


自然免疫系における病原体排除の方法

 さて、では戻りに戻って、自然免疫の③病原体排除の方法ですが、これはまずは食べることです。細菌などのものを好中球やマクロファージが食べる。そして消化します。これは自然な流れで、食べたあとに酵素をつかって細胞内で処理します。

 じつはここからがすごいのですが、ウイルスなどに感染された細胞は、自爆することもあります。先述べたPRMs やTLRの一部は、自分の中にウイルス由来でヒトとは違う構造をもったRNAやDNAがいることに気づきます。すると、ほかの分子を活性化させて、細胞に自爆を促すことがあるのです。

 具体的にはインフラマゾームと呼ばれる酵素の一群がカスパーゼという自爆酵素を活性化させ、細胞が自分自身をずたぼろにするんですね。そうして、感染したウイルスごと消えます。こういう仕組みもあるんですね。

 そして自然免疫系の重要なことは、炎症を誘導すること。まわりに TNF や IFN と呼ばれる分子をばらまいて、ほかの免疫細胞を呼び寄せたり、暴れさせたりします。

 さらには、獲得免疫を活性化して橋渡しをするのも自然免疫の仕事なんですね。

 先にのべた樹状細胞は抗原提示能があります。そしてT細胞やB細胞を活性化するわけです。


自然免疫系のざっくりまとめ

 さて、これが概要に自然免疫のざっくり概要ですが、実はどうも④記憶もあるようなのです。ここは最先端で難しい話もあるのですが、エピジェネティクスといって、DNAに修飾が加わって、遺伝子の発現パターンを変えることで一部の細胞が経験値をためている可能性があるのです。ここら辺は最先端でまだまだですけどね。

 そして、⑤持っている生物、これはかなり原始的な生物から持っているんです。というのは、自然免疫の主たる排除方法の貪食というパクパク食べる機能は、イリヤ・メチニコフというロシア人の科学者がミジンコでみつけたんですね。そのぐらいいろいろな生物にあるんです。

 さて、ざっくりと、「細胞によって行われる」、自然免疫についても駆け足で見ました。ラフに王道を、がモットーでしたので、まずはこんな感じで一度締めたいと思います。免疫はまだまだまだまだ奥深く全くこれでは軽いレベルですが、ざっと獲得と自然の両方を眺めたかなという感じでしょうか

 次回以降は、もう一度獲得免疫に入っていきたいと思います。復習しながら今度は細かく見て行く予定です。

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