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新解釈:四十九日…二七日

初七日編はこちら

『六文銭はリュックに入ってたかな?』
「はい!火葬だと六文銭は紙だと聞いていたのに、きちんと貨幣が入ってました!」
お坊さんは笑いながら説明を続ける。
『ではそれを用意していただきまして、右側の扉を通っていただきます。そのまま道なりに進むと船着き場ですので、そこにいる人に六文銭渡してくださいね。初七日は以上です。おつかれ様でした。四十九日にまた会いましょう。』

六文銭を握りしめて船着き場まで歩く。
六文銭を渡すということは…三途の川じゃん!
何か、怖い川なんだよね。六文銭持ってなかったら泳がないといけないけど基本溺れるとか……。
待って待って、ちゃんと6枚ある?
焦っていると、声をかけられた。
『船着き場、こちらです〜!』

『六文銭頂戴しますね。』
黙って渡す。
『ん!?5枚しかないよ!?』
「え!!ちゃんと6枚数えて渡しませんでした?」『冗談ですよ。ビビってたから、からかいました。 あっ、怒ってるね。』
ひどいよ!死ぬかと思ったわ!あっ、死んでるんだった。

『そんなに緊張しないで!気楽にすれば大丈夫!船旅は2日ほどかかるので、アルバム見ながら生きてた時を楽しく思い出して。川も穏やかだから、たまに外に出て深呼吸するといいよ。』
「はーい。」
からかわれたせいで、素直に返事できない。

『着いたら、担当の弁護人さんが待ってます。“ゆみさん”か。きっといいパートナーになれますね。担当の弁護人さんはその人にあった人が選ばれるから 心配しなくていいよ。』
どうしてこの人は初対面の私にフランクに話しかけるのだろう?舐められてるんだろうか。

『本日はこちらで全員です。出発してくださ〜い』
おそらく“三途の川”を渡る船は出発した。
正直まだ気持ちの整理はついていない。
つい1週間前まで生きていたのに、今三途の川を渡っているのだ。
特に病気してなかったのに、くも膜下出血って…。

『もしかして、物思いにふけってるの?』
乗船客の1人に声をかけられた。80代の女性かな?
『お若そうだものね。いくつだったの?』
「34歳です。悲しいとかじゃなくて、よくわかってない感じです。」
『私はガンだったから覚悟していたけど、急にだと準備もできないものね。』
「……しっかり準備できた人っているんですかね。」
『きっとほとんどいないわ。だから何とかなるわよ!裁判あるらしいけど、弁護人さんとがんばりましょう!』
私は黙って頷いた。

うとうと眠ったり、景色を眺めたり、アルバムを見返したりしていると2日なんてあっという間で、
ついに“あの世”に到着した。

船を降り、少し歩くと、
“ようこそ、田中さやさん!”
というボードを持っている人を見つけた。
ボードに私の顔写真が貼られている。
『あっ!さやさーん!こっちです!』
何か天然そうな人が手を振ってる…!
あの人が“ゆみさん”なのか?

「えと、“ゆみさん”……ですか?」
『そうです!初めまして!船旅おつかれ様です!』
「あの、ボードに顔写真って指名手配みたいだからやめていただけるとうれしいのですが……。」
『こうすれば間違いないかと思いまして!』
あー、絶対天然弁護人だ。

その後、ホテルのような施設に案内された。
ス◯バのようなオシャレなカフェもある。
『明日ここで待ち合わせしましょう。今日はゆっくり寝てください!』
1週間ぶりのベッドだ。
私はじっくり眠ることにした。

次の日、カフェでゆみさんと待ち合わせ。
ゆみさんにアルバムを持ってくるように言われたので持ってきた。
ゆみさんはアイスティー、私はカフェラテを頼み、持ち込んだりんごでアップルパイを作ってもらった。(りんごはリュックに入っていた分だ)

『さて…と!二七日では人生のよかったことを述べる場です。三七日、四七日、五七日は悪かったことを聞かれるから、二七日でよかったことをたくさん言えるかどうかがポイントなの!』
「なるほど。ちなみに、五七日は閻魔大王さんがいるってのは、本当?」
『本当だよ。何か怖がってる?五七日はまだ先だから、とりあえず二七日対策しますよ!』
ゆみさんはノートを広げた。
既に私の情報が書かれているようだ。
『そしたら、人生でよかったこと、挙げれるだけ挙げてみて。』

私はいろいろ思い出して答えた。
中学生の定期テストで数学1位を1度だけ取ったこと、大学受験で第2志望に合格したことや、店長として目標達成したこと……
しかし、ゆみさんは急に不敵な笑みを浮かべた。
「え、何?変なこと言ってますか?」
と思わず聞いてしまった。

ゆみさんはふぅ、とひと息つきながら言った。
『二七日は“就職活動”じゃないの。ここでの裁判官はご老人が多いの。自己PRとかエピソードとかをアピールしても、裁判官の心がトキめかないのよ!聞き飽きちゃってるの。』

『人生ツライこともたくさんあったと思うわ。でも無条件にテンションが上がることもたくさんあったと思うの。その“小さな幸せ”を一緒に思い出しましょう!ここでたくさん言えれば言えるほど、あとの裁判で少し不利になってもカバーできるから!』

それなら…と私はアルバムを開いた。
人に見せるのは少し恥ずかしい内容もあるけど、小さな幸せがそこには詰まっていた。
小さなことを先生に褒められたこと、イケメンに告白されたこと、推しと誕生日が同じ理由で限定ファンミーティングに行けたこと、友達との海外旅行、ガチャガチャを回して1度もかぶらずにコンプリートできたこと…
本当に小さいことだけど、こっちの方が熱量を持って伝えられる。もっとこういう幸せを自慢していいんだ、声を大にしていいんだと感じた。

そして二七日の裁判の日がやって来た。
会場はやはり裁判所のような所。
裁判員裁判みたいに裁判員が6人ほど座っていた。
裁判員も傍聴席に座る人もご老人が多かった。
なぜかペンライトを持っている人もいた。
ゆみさんは『この場でテンションを上げさせれば、こっちのもの。あなたは今日は舞台の主人公って気分でいてね!』とアドバイスされた。

『はい、それでは始めます。まずはお名前をどうぞ。』
「はい、田中さやです。よろしくお願いいたします。」
『ではさやさん。証言台に置いている宣誓書を読み上げてください。』
裁判員の方々、ゆみさん、傍聴席の人も全員が起立した。
「私、田中さやは、良心に従って真実を述べ、嘘偽りなく、楽しく証言することを誓います!」

続く

【二七日】
三途の川を渡りきると、川岸に奪衣婆(だつえば)という老婆の鬼がいて、衣服を剥ぎ取られます。そして、剥ぎ取られた衣服は懸衣翁(けんえおう)という老人に手渡され、衣服は生前犯した罪の重さを計れる衣領樹(えりょうじゅ)という木にかけられます。
その後、初江王(釈迦如来)が登場して、生前犯した盗みの罪について調べられます。

参考資料


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