子供の頃から大好きな商店街をみんなのちからで元気にしたい。 小原あさこさんの挑戦ー今熊野まちライブラリーづくり
みなさんには、小さい頃のまちの思い出はあるだろうか。
小原あさこさんは、幼稚園の帰りに並んで買ってもらったお肉屋さんのコロッケのホクホクとした味が忘れられないという。
そのお肉屋さんは、京都市東山区にある今熊野商店街にある。新熊野神社や泉涌寺の門前にある古くからの商店街だが、最近は人通りもめっきり減ってしまった。
商店街に再び賑わいが戻るにはどうしたらいいだろうと考えて、あさこさんが思いついたのが「まちライブラリー」という手法である。
まちライブラリーとは、店舗や事務所、個人が自分のお気に入りの本を貸し出し、まち全体で共有しようというもの。「商店街のお店をそれぞれ小さな図書館にしたい」というあさこさんの夢について話を聞いた。
わくわくすることを仕事にするとみんなが幸せになる
現在、あさこさんは「KUMIKI PROJECT」の一員として活動している。KUMIK PROJECTのコンセプトは「Do It Together—ともにつくるを楽しもう(DIT)」。社員食堂やシェアハウス、カフェなど人を集う場所の空間づくりをプロデュースしている。
「お店をはじめたい人にヒアリングし、お店づくりのためのワークショップを企画して参加者を募集し、床貼りや壁塗り、家具づくりなどをみんなで一緒に行っています」
あさこさんがKUMIKI PROJECTに出会ったのは、2018年10月ごろ。DITの知識も全くないまま友人から誘われて、子連れで参加したあさこさん。すっかりDITに魅了され、生き方まで大きく変わったという。
「それまでは、しんどいことも割り切って仕事をして。とくに子供を産んでからは絶対辞められないって責任の塊みたいになっていたけれど、それって誰かの幸せ。私は全然幸せではない。自分も楽しめて、人も幸せにできる仕事って無いのかなと思っていた時に、KUMIKI PROJECTに出会ったのです」
ちょうどスタッフを募集しており、気がついたら前職を退職して自ら飛び込んでいたという。
「人の役に立てたら私の心は平和だし、価値観が変わることで解き放されました。やりたいことをやる、楽しいことをやるみたいな」
楽しいだけでは生きていけないけれど、価値観を変えるだけで幸せな生活は実現する。仕事と子育ての両立に、体と精神をすり減らしつつ働いていたあさこさんも、持っているものを手放すことで新しいものを得ることができた。そして、このわくわくを自身だけでなく、まち全体にも伝えていきたいと考えている。
ひととの繋がりが人生を決断するときのちからになるーあさこさんの活動の原点
あさこさんの憧れは、元厚生労働省事務次官の村木厚子さん。「逆境の時も自分を見失わない」ところに共感する。それは自身のお母さんの存在にも繋がる。
「私の母親は、仕事が大好きな人で、働いている姿を見せてくれました。そんな母を尊敬していたからこそ、今の自分がある。」と話すあさこさん。
「若い頃に比べたら、どう生きていくかという選択をする力が身についていることに気づきました。その力は親が小さい頃に育ててくれていたのだと思う」と話す。
現代社会では、幸せは与えられるものではなく、「自分で見つけなくてはならない」時代になった。だからこそ、選択する力が必要で、その支えが親や仲間の存在であり、人とのつながりである。
あさこさんの活動の原点は、人と人がつながることで、自分らしく生きる社会をつくりたいという思い。温かい人間性と何事にもめげない精神力が、たくさんの人の共感を生み、今熊野商店街が、みんなのちからで活性化し、まちの人たちの居場所になる。あさこさんだからこそ、できる活動である。
絵本のちからが商店街に笑顔を取りもどす
商店街のお店がそれぞれ小さな図書館になったら、と想像してみてほしい。本を借りたり返したりすることで、お店の人と会話が生まれて「ついでに商品も買っちゃおかな!」みたいな交流も生まれるような、賑やかな商店街に戻るに違いない。あさこさんはそんな夢を実現しようと考えている。
きっかけは、子育てで社会から孤立していた時期に、絵本を通して交流が始まった自宅の向かいに住む絵本収集家のおばさんとの出会い。
「絵本って何度も読み聞かせるから思い出がいっぱい詰まっている。おばさんの懐かしい思い出と、子育ての真っ最中の私と、それから幼い頃のわたし…昔の活気溢れる今熊野商店街がうまく繋がったらいいなあと思って」
まずは自宅を開放して小さな図書館を作ることから始め、徐々に賛同者を広げていく。いずれは商店街の活性化を視野に入れている。
「イケてるカフェをつくるとか、訪問者の若返りを図るとかではなくて、あらゆる世代が行き交う商店街にしたい。お店だけでなく、多様な集まりの場をつくっていきたい」と目を輝かせる。
「みんなの力を借りて一つの空間を作るというのは、幸せのモデルだと思うのです。空間づくりは老若男女関係なく、誰でも参加できる。参加した人たちはその場のファンになる」
「いつのまにかみんな仲良くなっていて、きっと完成後はそこが居場所になるし、お店だったらコアなお客さんになるし、『この店俺が作ったんだぜ』みたいな人も出てくるでしょう。きっと大切な思い出にもなる。ものづくりはそこに関わった人たちみんなが幸せになる、って気づいたのです。」
あさこさんの挑戦は、これから始まる。
(文・写真/北川美里)