地球のなかのちいさなお家で、誰でもほっとできる体験を 〜「 feel at home 」という住み開き〜
昔は近所の縁側に座っていたおばあさんや、井戸端という場でおしゃべりして、お互いに気にかけたり助け合ったりして、小さな悩みなどを解決することが出来ていました。しかし今は、二世代、三世代が一つ屋根の下で暮らすという大家族は少なくなり、このようなご近所づきあいが減ってしまいました。
地域で気軽に立ち寄れる縁側
「feel at home」代表の上倉 妙(かみくら たえ)さんは、ご自宅の1階部分を住み開き。地域で気軽に立ち寄れる縁側のようであり、ほっとつつみこまれるような場所として運営しています。
「feel at home」が開かれるのは、左京区役所にて、毎月第3月曜日午前10時~(90分間)、2018年6月からは、自宅で夜の7時30分~(90分間)。体験から学びを得る場所として、コミュニケーション講座や料理教室などを開催しています。
「話の内容がどうのこうのというより、大切にしているのは〝誰でも自分の実家のようにくつろげる”感じ。最初は何も言わなくても、少しずつ深い話になっていく」と上倉さんは言います。
「見知らぬ人と関わらない方がよい」「地域でのつながりは面倒だ」という世間の風潮がある中で、さらに他所から引っ越してきたとなると、身近でその悩みや思いを聞いてくれる人はなかなか見つかりません。ましてや家族のこととなると、人に頼ることが難しくなっていきますよね。
上倉さん自身、他所から引っ越してきたばかりの時は、4人息子の子育ての最中でしたが相談相手になってくれる人もなく、困ることが多かったそうです。自分の経験をいかし、お孫さんの保育園のお母さん方の話を聞いてくうちに「feel at home」の活動が広がっていったそうです。
「昔の大家族だったら、お母さんが『困った、困った』と言っても、『まあしんどいのは今だけやで』と、年代の違う経験者の諸先輩と関わることができました。でも今は、核家族、生活スタイルの違い、社会情勢がずいぶん変わって子育てが孤立しがちやからねぇ」
でも普段暮らしている〝家を開く“ことで、ほっとくつろげる、話せる場所になるわけです。
「この場につどい、たまたま知り合ったお母さんたちが『こんなことあったよ』と話すことでができる。この苦しみは一生続くことではないことが分かったり、『うちもそうやで』と共通の話題ができたりします」
上倉さんは、参加者が互いに「対話」することで、問題解決や先行きの不安が少なくなることを目指しています。個人的に問題を抱えている人には、カウンセリングを行っています。
活動で最も大事にされているのは体験です。命の源である作物を畑で育てる。料理体験をする中で、対話や気づきがあるような体験。孤食ではなく、みんなで気持ちを話しながら食べることで食育や心を育てることにも繋がるからです。
「田舎だと当たり前かもしれないけれど、身体を動かして気づく、「あっ!」と思うこと。最近では参加者が『人の気持ちがわかるようになってきた』と言葉が出るようになってきました。3年間やってよかったなと思います」
地球の上でくつろげる場として
団体のコンセプトは、この地球の上でくつろぐ。これは心理学者アドラーの本に書いてあった言葉です。
「それは〝どこに行ってもありのままの自分でいる”ということ。自分が背伸びしすぎない感覚をつかんでもらうこと。そして、みんなは仲間なんだなという感覚です」
誰でも地球上でくつろげたらいいなと思うのですが、それはどうやって実現するのでしょうか?
「自分を知る、そうすると周りとの関係が変わっていくのです。〝みんな違ってみんないい“という、よく知られている言葉の本来の意味は「個がバラバラでいい。私はわたし、ほっといて」ということではなく、「できることは各々違う、得意分野は違う」
「その個性があって、協調、共働、ともに生きるということ」だと思います。意見が違っても対話する関係性を作っていくことが大切だと考えています」
大人同士が対話したり、大人と子供が対話するなど「人は人によって磨かれる」のです。「feel at home」のような、気軽に分かち合える場、「〝ほっ“とくつろげる場が、もっと地域に広がっていくと嬉しいですね。
団体について
「 feel at home 」代表・上倉 妙(かみくらたえ)さん。認定心理士(カウンセラー)。左京区北白川のご自宅でもある2世帯住宅の1階部分を住み開き。地域の多様な人々が集える居場所を運営している。
(文・写真/西森 寛)