チョ・ハムン「マグマ」(1987年、韓国)


チョ・ハムンは80年代に主に活躍した韓国の歌手である。アルバムタイトルの「マグマ」とは、彼がソロ活動を始める前に所属していたロックバンドの名前である。
韓国ではバンド活動からソロ活動へ移行する際に、アルバムに自身が所属していたバンド名を記載することが多い。例えばキム・スチョルだったら「チャックンコイン(小さな巨人)」、チョン・イングォンだったら「トゥルグッカ(野菊)」…というように。
チョ・ハムンの魅力はチョ・ヨンピルのような演歌(トロット)風のこぶしを効かせるようなヴォーカルスタイルではなく、ロングトーンの効いた叫ぶようなそれであり、歌唱力は卓越している。これはハード・ロックを得意としたマグマ時代に培われたものだろう。実際マグマの唯一のアルバム(1980年)に収録されたA面の三曲目「アルンダウン ゴッ(美しい場所)」の冒頭ではサイレンの音か?と錯覚してしまうような力強いシャウトをしている。
このソロ1stアルバムではマグマのようなハードロックは影を潜め(A面3曲目でマグマの代表曲「ヘヤ(太陽よ)」をセルフカバーしているが)、今流行のシティ・ポップスに近い良質な韓国歌謡を歌っている。2ndアルバム(1989年)はキリスト教音楽(現在チョ・ハムンは牧師としても活動を行っている)やメタル、ブルース・ロックなどと1stよりも曲調のヴァラエティに富んでいるが、どんなジャンルの歌を歌わせても彼の素晴らしい声が前面に出ている。
また、彼は優れたメロディ・メイカーでもあり、彼が作詞曲した歌には何度聴いても飽きない不思議な中毒性がある。1stアルバムはフォーク・シンガーであるイ・ジョンソンによるA面の4曲目を除いてはすべてチョ・ハムンの作詞・作曲である。
韓国では比較的リーズナブルな値段でLPレコードが発売されているので(マグマのアルバムはかなりレアで高額)、オーディオがある方は是非とも購入して聴いてみるといいだろう。


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