ガトーン "Masterpiece Collection"(202?年、タイ)


まずはとあるワールド・ミュージックを扱っている某都内のCDショップで以前筆者が経験した出来事からこの記事を始めたい。
筆者:「タイのガトーンはありますか?」
店主の方:「1、2枚ならあるよ」
筆者:「じゃあ、ガトーンに似た音楽性のバンドはありますか?」
店主の方:「それはないな。ガトーンというバンド自体がタイの音楽界では誰も真似できないバンドだから」
そう、ガトーンに似たバンドというのは存在しない。同じプレーン・プア・チーウィット(タイの社会派フォーク・ロック)でもカラワンだったら後進のカラバオ(特に初期)に通じるものがある、とは言えるものの、ガトーンは先述のバンドと比べてもタイの伝統音楽・伝統歌謡をロック化している、という意味でも同じ音楽性のバンドというものはない。模倣を嫌う、真にオリジナルなバンドなのだ。
前置きが長くなってしまったが、これは筆者がこの間タイに旅行に出かけた際に地元のCDショップで見つけたコンピレーション・アルバムである。1st~3rdアルバムの曲が収録されているようだ。タイ人が好むような「サヌック(タイ語で「楽しい」)」なポップ・ロック調の曲もあれば、呪術的で妖しい曲もある。人に聞いた話だと昔はガトーンのアルバムをタイで見つけるのは至難の業だったらしいが、このようなアルバムが最近リリースされたということはタイでは近年再評価されているということなのだろう。
筆者がこのバンドの存在を知ったのは小学生の頃で、図書室にアジアについてのとある本が置いてあり、タイの社会について扱われている章でガトーンの曲「イープン・ユンピー」が紹介されていた。「イープン」とはタイ語で「日本」という意味、「ユンピー」とは「イープン」を逆さまに読んだ日本のタイでの蔑称である。日本企業のタイ進出を批判した歌で、イントロで琴を模したフレーズが聞かれる。「日本のサムライの刀に、タイの伝統的な剣は太刀打ちできるか?」とタイ国民に呼びかけるメッセージソングだ。
そのような曲をリリースしたバンドであるから日本でも有名なのだろう、と思い(もっとも昔ワールド・ミュージックが日本で流行った際にこのバンドに思い入れのある音楽ファンは多かったようだ)、タイでこのCDを買った際にCDショップのお姉さんがこのバンドを知っているのか、と筆者に聞いた時に筆者は"They are famous in Japan"と答えたのだが、痛烈な日本批判を音楽化したこのバンドが日本で有名だということにお姉さんは内心複雑な気持ちだったに違いない。とはいえ、タイはさすがは微笑みの国、筆者がそう答えた際にお姉さんはただ微笑んでいた。

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