Serge Gainsbourg 「セルジュ・ゲンスブールとの一時間」(1998年、フランス)


これは立川直樹氏が監修・選曲したゲンスブールのロック調の歌を収録した日本限定のCDである。主にナチスやヒトラーを皮肉った(ゲンスブールはユダヤ系フランス人で、幼い頃はダビデの星を付けさせられていたらしい)1975年のアルバム"Rock Around the Bunker"からの曲が中心なのだが、今聴き直してもそのいい意味でのダサさに爆笑を禁じ得ないのだ。1971年のデカダンスの匂いのする名盤"Histoire de Melody Nelson”の洒落っ気はなく、大の大人がふざけたような50年代のロックンロールのオンパレードだ。しかし、このふざけた感じはゲンスブールが意図して生み出したものだろうか。
筆者はこの野暮ったさがどこか70~80年代の韓国を中心としたアジアのロックに通じると思っている。韓国ロックを論じる際に、意識したわけではないのだけれどもどこかアジア的な「土臭さ」や「マヌケ美」が反意図的にその音楽性に出てしまうことを指す際に「無意識(ないしは『無意識過剰』)」という用語がしばしば使われる(意味をはき違えていたらごめんなさい)。フランスという国はあまり世界的に名声を得たロック・アルバムが少ない印象があるが、このゲンスブールのような反・ヨーロッパ的でどちらかというとアジアの音楽に近い「無意識」が邪魔をしているのではないか。概してフランスの文化は一見華やかで「おフランス」などと言われているが、フランスのロックの性質はその真逆なのではないか。そう考えてみるとゲンスブール流ロックは洋楽ファンというよりもひと昔前のワールドミュージックファンに訴えかけるものがあるように思う。
なお"Rock Around the Bunker"の国内盤は漫画家(特殊漫画家)で韓国のロックやポンチャックを日本に紹介した功績の大きい根本敬氏が文章を寄稿したとのことだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?