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観劇感想:イキウメ「図書館的人生Vol.4 襲ってくるもの」@東京芸術劇場

図書館的人生、第四巻は意識の中の魔物、「感情、衝動、思い出」についての短篇集。
誰かの何気ない一言で湧き上がってきた感情。
突然、心の中に火花のように現れては消えていく衝動。
見知らぬ人の芳香や懐かしい音楽が、否応なしに引きずり出す思い出。
それらはふとしたきっかけで襲ってくる。意志とは無関係に。
無視することはできても、無かったことにはできない。
私達の日常は平穏に見えて、心の中は様々なものに襲われている。
感情、衝動、思い出。襲ってくるもの。
自由意志なんて本当にあるのか、不安になってくる___。
図書館的人生、第四巻は意識の中の魔物、「感情、衝動、思い出」についての短篇集です。
(引用)

10年来通い詰めてる劇団「イキウメ」の最新作。
今回は2時間チョイで3本の短編集が上演されました。

ネタバレ満載の感想です。

#1 箱詰め男(2036年)

「思い出」に関するお話。

父親がアルツハイマーになった、という連絡を受け数年ぶりにアメリカ出張から日本に帰国した主人公(男)。
ところが帰国した家には、母親以外にもう一人父の研究助手も住み込んでおり、『父の世話をしている』ということ。

それほどまで症状が進行してしまったのか…と父親の心配をする主人公に対し、母親と助手はどうも様子がおかしい。

そして助手は主人公の目の前に組木細工の六角中の箱を差し出してこう言った。

「この箱がお前の父だ。君の父は世界で初めて人格をクラウドアップロードすることに成功したんだ」

えーーーーーーーーーーーー
(ちなみに主人公も父親も脳に関する研究をしています。)

そしていきなりロボット風にしゃべりだす箱。
声は父親のままでした。

このあたりはイキウメならではのコミカルなやりとりで、軽快にみていられるのですが、そんなほのぼの話では終わりません。

機械的な話し方にどうにも「人らしさ」が物足りない。
この物足りなさを補うためにはどうしたらいいか…と主人公と母親が会話をして、主人公が思いついたのは「感覚の入力デバイス」を箱に接続すること。

特に効果的なのは「匂い=嗅覚」
(このアイディアの伏線として、主人公が空港に帰ってきたときに醤油の匂いがして懐かしかった、と言う会話が冒頭にあるんです)

そして助手に協力してもらって、嗅覚デバイスを取り付けた箱=父。

はじめは嗅覚を感じることができて、「記録」ではなく「思い立ち上がってくる記憶すなわち、「思い出」という感覚を得ることでどんどん人間らしくなり喜ばしい限りでした。

ですが「思い出」は喜ばしいことばかりではなく、苦々しいものもあるのが当然。

人間と違ってあいまいにすることも「忘れる」こともできず、箱という身動きがとれない状態で強制的に思い起される苦々しい鮮明な「記録」という「思い出」。

その「思い出」は、父親の弟と、弟の想い人との三角関係の末に起きた悲劇。

結局、思い出に耐えられない父親は最後に主人公に懇願します。

「(嗅覚デバイスを)切ってくれ」



#2 ミッション(2006年)

「衝動」についての話。

ミッションは以前長編でやっていたのですが、今回は短編に編集されておりました。

自分の中にある、意思とは無関係な「衝動」に悩まされている主人公。

この主人公、実は先ほどのAIになった父親の弟です。

つまり弟視点の昔話、ということになりますね。


弟は、自分の中の「衝動」に従ううちに些細な自動車事故を起こしてしまいます。

頭では倫理的な善悪はわかっているものの、仮釈放後の生活でも衝動が抑えられない主人公。

勤務先の工場で、所長が話している間に机の上の書類をわざと落としたり、仕事で使う商品を放り投げたり、道端で気になる女性におもわず話しかけてしまったり・・・(その女性は兄の想いでの三角関係の相手です)

最後に主人公は同僚に「衝動とかそういう言葉でごまかしているけど、単純にお前はその女が好きなだけだ。衝動とか言ってごまかすなよ」と言う感じのことを言われて終わりました。


これ、長編の時はもっと違う話だったんだけどなー?

なんか消化不良で終わった話です。

もともと、些細な思いがバタフライ効果で広がって
多きな影響を持つので、意思の力は大事、っていう話だったんだと思うんですけど。。。


#3  あやつり人間(2001年)

就職活動中の女子大学生であるゆかりが、母親の癌の再発をきっかけに
自分の中にある感情の塊に気が付いていく、という話です。

これまでどんな女の子だったのかはわからないのですが
母の病気をきっかけに、
・大学を辞めようかと考えだし
・ソリの合わなかった恋人と別れようとし
・職人への就職を選んだ高校の同級生に再開し
・母の闘病に疑問を持ち始める(ほんとに治療をしたいのかどうか、母自身の意思を問う)

※ちなみにこの高校の同級生が、寄木細工の職人っていう設定!(1話目とつながったー!)

「大学に行かないと苦労する」「お前のためになにかしたい」とか
恋人や兄(男性陣)はゆかりの行動にあれこれ口を挟んだり、「あなたのためを思って」を笠に着せて強引だったり。

そんな男性陣に対して、ゆかりは叫びます。
「不安なのはわかるけど、何もしなくていい。だまって見てて!」

もちろん男性陣は納得しないわけですが(笑)


不安とか感情とか、扱いきれないものとの「共存」について、書きたかったんだと思います。

まぁ、愚痴と解決って男性と女性でよくある話ですよね。


でも個人的には結構刺さりました。。。

まさにこの1年ぐらい前に母ががんになり、家族で全く同じ状態になりました。「家に帰りたい」と言った母の顔がちらついて、正直苦しかった。。。

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そんなこんなで、意識の中の魔物、「感情、衝動、思い出」についての短篇集。でした。


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