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フェルメールの真珠の首飾りの女性は何を訴えていますか? 水を飲む羊の姿にあなたは何を思いますか? ・・・そんな課題で運命決まる? 医学部二次試験の闇。

日曜の朝テレビをつけたらコメンテイターの弁護士が「今回の事件で唯一希望なのは、東京医大が内部調査で膿を出し切ろうとしていること」と言っていて、驚いた。「疑う」ことを知らない弁護士って・・・ダメでしょ。

そもそも12年以上に亘る不正を誰も告発できなかった組織による内部調査よ? そもそも東医大が顧問契約している法律事務所による調査よ? そんな調査では不十分で、一刻も早く第三者委員会や文科省による徹底調査で完全事実解明と、責任の所在を明確にするべきなのに。先週、東京医大が公開した調査報告書を読めば読むほど、これが「膿を出そうとしている報告書」だとは、私には思えない。

特に曖昧にされていると感じたのは、入試委員会についてのこと。

入試委員会とは、入試の基本方針や、合否判定基準などの重要事項をとりまとめて扱う委員会。ここで1次、2次合格者を選出し、さらに教授会が承認して入学者が決まるというのが一般的。つまり入試委員会がどのようなメンバーでどのように選出されどのように入れ替わっていくかというのは、入試試験の透明性を担保する上でとても重要なのだけど、今回の報告書ではそこには触れていない。ただ臼井前理事長が入試委員になった2006年から不正があったらしいです・・・とだけ。

友人の大学教授によれば、入試委員会は基本は教授がもちまわりで担当し、任期もある、と。であれば、入試委員会の構成メンバーやその時期について明確にすれば分かること多いはず。本当に、臼井前理事だけの責任なの? 本当に誰も知らなかったの? 記者会見では東医の教授が「知らなかった、びっくりした」って言ってたけど、本当なの? やる気あるの?!

他にもいくつも疑問が残る。例えば、センター試験利用受験者の点数は操作してないと言い切ってるけど、今の段階で言い切れることだろうか? 国語でのセンター利用ができる東京医大は女性のセンター利用受験者が多い。去年は男性533人/女性384人が受験し、1次合格者男性109人/女性69人。二次合格者男性39人/女性4人だ。二次の合格率のこの差異、不自然でしょ。

東京地検が入試資料を持っていっているので、被害者救済にも、事実究明にも時間がかかると記しているのも、悪質な言い訳に読める。念のために佐藤優さんに聞いたら、押収資料など検察に返せと言えば返してくれる、と。佐藤さんの事件の時も、外務省に検察からすぐに押収資料の原本が戻ってきたのだそう。だいたい検察にはコピーがあればいいのだ。入試試験資料などすぐに返してもらえばいい。さっさとそう頼めばいい。事実を明かにするための簡単な手続きすら怠って、入試の肝である入試委員会についても曖昧にしたままの報告書では、膿など出るはずもない。

一次試験でどんなに頑張っても、二次の面接や小論文であっけなく落とされてしまうのが医学部の受験だ。だから、落ちた人は、自分の一次の点数が足りなかったのだろう、面接でうまく答えられなかったからダメだったのだろう、と納得するしかない。医学部の入試は特殊で、一次試験を落ちた人には点数開示する大学もあるけれど、二次試験にいった人には一切点数は開示されない。つまり、二次試験で不合格になっても、一次試験が何点なのか、二次試験が何点なのかを受験者自身が知る術がないのだ。

そういう中で、女性たちは切り捨てられてきた。

医学部受験について調べていく中で最も意外だったことは、東京医大は不正が行われてきたこの12年間、決して女性が少ない大学ではなかったということだった。医大生の女性率がだいたい30%ー40%の間にあって、東京医大は30%半ば〜後半を維持してきた(2017年にいたっては45%である)。だから女性の受験者にとって東京医大は「女性が入りやすい大学」と考えられてきたという。今回の事件が発覚した後、「え? 東京医大が? ○○大学(←想像して下さい)でなくて?」と驚いたという学生がいたけれど、それは本当に率直な感想だったのだろう。

この事実は、女性が男性の数を越えないように必死に小細工してもなお、「女性が比較的入りやすい大学」として受けとられる医学部全体の異常さを浮き彫りにしている。そして、本来ならば「明かに医師に向いていない者」を不合格にするための二次試験が、女性や多浪を排除するための格好の機会になってしまっているということを明かにした。誰もが言うように、これは「東京医大だけの問題じゃない」のだろう。

医学部は、一旦入ってしまえば他につぶしの効かない職業訓練校のような大学だ。未来の職場と直結するかもしれない入り口でもある。だからこそ面接で女子に「結婚したらどうする?」「子どもを産んだらどうする?」などという質問をおかしいと思わない教授がいて、「働き方」などについて圧迫的な面接をする教授が少なくない。そもそも多浪の女性の面接で「寝ていた」教授もいたという。また小論文の点数採点も曖昧だ。フツーに教養・知性が問う課題を出す大学もあるけれど、中には「フェルメールの真珠の首飾りの少女は何を訴えているか?」とか牧場の羊が水飲んでいる写真をぺらりと見せられて「感想を」といったものだったりする。慶応大学などは「医学部の入試制度をどう考えるか?」といった内容の小論文が出ている。結局、こういう二次試験が、差別の温床であり、差別隠しのためのシステムになっている。

     (うそでしょ!)

今回の事件が発覚してから「東京医大だけじゃない」という医学関係者は多い。であれば、今回を機に、きっちり調査していかねばいけない。とはいえ、文科省による調査票があまりにも緩く、やる気が全く感じられないことに正直危機感がある。先日の院内集会に出席した文科省の役人は、「まずこれは、受験要項に正確な情報を記さなかったことが問題」というようなことを言っていた。差別の前に不正が問題だ! と率先して言えちゃう人が、教育の機会平等を尊ぶ文科省にいちゃダメだよ・・・。(改めて文科省の調査票の問題についてすぐに触れます)


追記:あるいは例えばこんな感じで。


8月9日に東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会を立ち上げました。サポートいただいた場合は当事者支援のための活動と弁護士費用に全てあてます。よろしくお願いします。