「トミタユズルの ”80's Back To The Future!”」【4】オケヒが牽引したサンプラーの普及 その1
80'sの特徴的な音はたくさんあるのですが、その筆頭「オケヒ」について考えてみたいと思います。
オケヒのキーマンと言えばトレヴァーホーン。彼は「ラジオスターの悲劇」(79') で有名なバグルスのリーダーでありながらプロデューサー指向、裏方指向でもありました。音楽的素養やセンス、レコーディング、ミキシングエンジニアとしての力量もありつつ、新しい機材や手法にも常に明るかったので、楽曲に対してのアプローチが多方位からできる多才で、さらにそれをヒットに活かす事が出来る数少ない仕掛人の一人だったと言えます。
当時バグルスが所属したプロダクションにプログレバンドのイエスも在籍していた事からトレヴァーは一時期イエスのボーカルを担当する事にもなり、その後プロデューサーとしてイエスに関わる様になります。この時点でも彼は必ずしもフロントマンとしての欲求は薄かったようです。
そのほぼ’同時期にトレヴァーはZTTレコーズを設立、ジ・アート・オブ・ノイズ、プロパガンダ、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドなどのプロダクションに着手、そこで当時の先鋭的だった機材を多用します。それがフェアライトCMIです。
フェアライトはいわゆるデジタルワークステーションの原型とも言えるもので、サンプラー、波形合成のできるシンセサイザー、簡単なシーケンサーも備えていました。1200万円もしたためにプロのスタジオでもあこがれの機材だったわけですが、そのタイミングでトレヴァーはフェアライトを使って世間を驚かされる音色を使いました。それが「オケヒ」です。
ジ・アート・オブ・ノイズは当時のエレクトロミュージックの最先端であり実験音楽的要素も強く、ほとんどフェアライトだけで作られていました。様々な音をサンプリングしてコラージュのようにしてアレンジしつつ非常にポップでもありました。その音色の中でも特に印象的だったのは、オーケストラの演奏の「ジャンッ」と強調されて演奏されている部分をフェアライトにサンプリングし、それを音階をつけて鳴らしたりしたもの。「オーケストラヒット」=「オケヒ」です。
ジ・アート・オブ・ノイズのCloseの映像はこちら、当時このPVにはもの凄い衝撃を覚えたのをよく覚えています。
さらにトレヴァーがプロデュースをしたイエスのアルバム「90125」でオケヒを効果的に使った「ロンリーハート」が大ヒット。この曲はミドルテンポのハードなギターリフの分かりやすい曲の随所にオケヒやその他サンプリング素材をうまく配置して印象づけています。オケヒがなかったらあまり印象の無い曲になっていたであろうと容易に想像がつきます。
Yes Owner Of A Lonely Heart、オケヒ満載です。
当時は「明るくキラキラした音」を求められつつも、まだサンプラーの技術は発展途上、フェアライトは8ビット30.2kHzだったのでサンプリングした音はざらついた荒々しい音になってしまっていたのですが、逆にそれが明るいオケの中では独特な雰囲気を醸し出していたのです。それを狙ったとも思えませんが。
Ultimate Sound Bank社のDarkLight IIxはフェアライトCMI IIxのソフト音源。トレヴァーホーンが多用した印象的な音がライブラリーとして収録されつつ、現代的な機能も随所に盛り込まれた興味深い音源ソフトです。GUIも当時フェアライトに憧れたユーザーをワクワクさせる様な画面になっています。
2011年にはフェアライトCMIの30周年ということで、CMIの設計を手がけたピーターヴォーゲルが復刻版のCMIをFairlight CMI-30A を発売しました。わざわざそのために会社を設立して。見た目はほとんどオリジナルと同じ、中身は現在の技術で。でも値段は160円万超え。当時の1200万円からすれば格安なのですが、それでも今これを欲しいと思う人はマニアックな趣味の人でしょう。
NAMMショーでの発表時のデモンストレーションの映像があります。
で、さらにピーターヴォーゲルはiPhoneアプリでもフェアライトを用意していて、こちらは1000円。フェアライトCMIでの音色ライブラリやあの独特な波形表示をされたりするのでなんとなく雰囲気を味わえたりします。
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