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VS タバコを持ち去った人。

 前回、駅売店で働いていた時の事を少し書いたので、思い出したある出来事について。

 私が働いていた駅は関西の某私鉄の中規模ターミナル駅で、売店は上下線のホームに各一つずつ、駅改札内のメイン広場に本部的な店が一つ、改札外に一つの計4つの店舗がありました。昔はもっとあったらしいのですが、私が入った15年前はだいぶ縮小されていました。

 駅の売店というのは、もともと新聞をメインに売るために、新聞販売店が権利を持っていたのが、だんだん新聞が売れなくなり、鉄道会社がその権利を買い取りながら縮小体制に入っていった頃だったみたいです。
 今や駅売店はコンビニに全て変わってしまいましたね。本当に昔話みたいです。

 さて、私はその頃、改札外の売店に先輩女性と二人で固定シフトで働いていました。朝6時半開店から夜9時半閉店までを、朝番と夜番と分けて受け持ち、どちらかが休みの日は本部店から応援が入るといった感じです。

 小さい売店なので、仕事は基本的に一人で全部やります。開店準備のお釣の準備、新聞をラックにセットして開店。販売しつつ、物品の納品もあるので、それをチェックしつつ、お客さんのピークが過ぎたらレジの売上金額を数えて記録。駅通路にある店なので、お客さんはランダムに来ますから売りながら仕事しないといけなくて、結構大変でした。

 お菓子やタバコの発注なども、夜番の時にやりました。やはり朝の方が忙しいので、昼からの方が少しのんびりできました。とはいえ、新聞の売上管理や返品処理、雑誌の返本などもあったので、売りながらバタバタしていました。

 そんな夜番に入っていたある日の事。何かの用事で後ろを向いた時に、カチッと音がしました。店のカウンター横に斜めにタバコケースが設置されていたのですが、そこから男の人がタバコを抜いてそのまま立ち去ったのです。
 あっ、と思いましたが、私は一人なので店から離れるわけにいきません。
 そこから改札まで20メートルくらいでしょうか、とっさに私はカウンターから身を乗り出して叫びました。

「お金、はらって!!」

 そうしたら、その人、改札前で立ち止まったんです。で、驚くなかれ、こっちに戻ってきたんです。
 そうして、私の前のカウンターまで来たその人に、私がもう一度「お金払って」と言いますと、少し苦笑いして、何も言わずにタバコをカウンターの上に置きました。
 ゲームに失敗した、みたいな感じでしたね。そして、その人はそのまま立ち去りました。

 その店の、客の手に届くところにタバコケースがある構造が、今からしたら取って下さいといわんばかりの緩さではあるし、こちらの会社の甘さにつけこまれたんですね。
 その後、私が入っていない日に同じ事して、つかまった人もいました。その時は通りがかった人がみつけてつかまえたと言ってました。
 一人で店番していたら、怖くてそういう事はできません。そこも、つけこみポイントだったと思います。
 
 でも、私がその時思ったことは、「とっさのひとこと、って威力あるんやなあ」でした。
 何を言うか考える余裕ないですから、地がためされるといいますか。一つ間違えば危険です。
 忙しい売店業務は常に臨戦態勢みたいな所もあったので、(まごまごしてると、お客さんにナメられたりする)そういう部分は鍛えられていたのかもしれません。

 昔の話なので、そんな事もあったのか、くらいに思って下さい。別にいいことでは決してありませんが、監視カメラだらけで、全部システム化された今では、多分、起こらない事ですから。
 マンガみたいな釣り銭詐欺師とか、本当にいたんですよ。人間観察にはやはり駅、でしょうかね… 私もよくやってたなあと思います。
 
 

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