ありえないくらい良い一日

今朝は、7時45分に起き、歯磨き着替え化粧を済ましてすぐに家を出た。朝食はとらなかった。水も飲まなかった。健康診断を受けに行くからだ。

胸部X線?か、心電図か、まあ何かの検査項目が、胃を空っぽにして受けるのが好ましいものであるらしい。

したがって私は、前日の晩から何も飲み食いせずに朝を迎え、病院に向かった。


病院までは、電車とバスと自転車で向かった。最寄駅までは自転車に乗って行った。朝の風は気持ちよかった。

駅に着いて10分くらい待つと、電車がやってきた。電車の中には学生がたくさんいた。「混んでるな〜嫌だな〜」と思っていると、学生たちはわらわらと電車を降りて行った。駅の近くに学校があるからだ。きっと彼らはそこの生徒だった。

20分ほど電車に揺られたのち、バスに乗り換えて10分ほどで病院に着いた。私は病院が嫌いだ。なぜか医者も看護師も私に冷たく振る舞っているように思えて、行くたびに嫌な気持ちになってしまうからだ。

しかし今回は違った。看護師さんが異常に優しい。採血も上手いし、雑談も上手い。私が触れてほしくない話題には一切触れずに、むしろ私のことを褒めてくれたり、励ましてくれたりした。病院というものへのイメージが変わった。

無事健康診断を済ませ、直近のバスの時刻を見ると、40分くらい待たないといけなかった。時間潰しにカフェにでも入ろうと思い、携帯で付近のカフェを調べると、徒歩2分くらいの場所にカフェがあった。そこに向かった。


入り口をくぐると、カウンターの奥にマスターがひとり、テーブル席がカウンターを囲むように5つ、そのうちの一番左側におばちゃんが、居たり在ったりした。

「お好きな席におかけください」と言われ、私は入り口に一番近い席に座った。モーニングセットと本日のコーヒーを頼んだ。

マスターはひとりで調理を始めた。おもむろにテーブル席のおばちゃんがマスターに話しかけた。地元のサッカーチームの話題だった。マスターはそのチームのファンであるようだった。私は、このように客とスタッフの距離感が近いお店をあまり好まない。

私がカフェに行くのは、ひとりで食事を味わったり、本を読んだりして楽しむためであるので、話しかけられたり騒がしかったりするのは苦手であるのだ。

しかし、今回は違った。私もそのサッカーチームを応援している。私が好きな選手の名前も話題に上がった。もうマスターとおばちゃんの会話が気になって仕方ない。ソワソワしてしまう。乱された私は、自分のペースを取り戻すべくとりあえず本棚に向かった。大抵こういうところの本棚には地域情報誌とか、ちょっと渋めの漫画とかが置かれていて、それらは私の興味をあまりひかない、と思っていた。


しかし、今回は違った。本棚にあったのは、江戸川乱歩と星新一の文庫本だった。その下に、サッカーの雑誌や選手名鑑などが置かれてあった。

私の好みドンピシャのラインナップだった。マスターは私なのか?とすら思えた。

自分のペースを取り戻すために赴いたはずの本棚の前で私は更にかき乱された。私の考えや偏見は、いい意味で全部ぶち壊された。とりあえず選手名鑑を手に取り、席に着くとまもなく料理が運ばれてきた。

トースト1枚と茹で卵ひとつ、サラダ一皿とホットコーヒーをテーブルに並べると、マスターは「サッカーお好きなんですか?」と言って、カウンターに戻っていった。「はい」と私が答えるとマスターは「そうなんですね」とだけ言い、仕込みだか片付けだかを始めた。

引き際を分かっている。このマスターは引き際を分かっている。私が客とスタッフの距離感が近い店をあまり好いていないことを見抜いている。またいい意味で期待を裏切られた。

マスターが作業している音を聞きながらモーニングを食べ終え、コーヒーを飲み干し、お会計をしてもらった。昨夜から何も食べていなかったのもあり、非常に美味しく感じた。

店を出ると、太陽が高くていい気分だった。 

今日はそんな1日だった。

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