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小説の書き方 覚書

何回か過去に書いた小説のあらすじを供養として載せてきた。

今では長編小説は書かない(書けない)が、昔はそれなりに長編を書いていた。

自由に書いてきたので、上手な方の足元にも及ばないが、そんな私でもそれなりに小説の形を成した物を書いてきたので、今回は小説を形にする為に工夫してきた書き方を覚書として記そうと思う。

この間呟いたが、私の過去作の中で1番思い入れがある「overwrite ~身代わり彼氏~」という恋愛小説のシリーズを例にとって説明していく。


「overwrite ~身代わり彼氏~」あらすじ

神流 詩織(かんなしおり)は、オンラインゲームで負った失恋の傷を癒す為に、酒を呑んだり、小説を書いたりしていた。

ある夜、詩織が泥酔して泣いていると、慰める為に来たという男がいきなり現れた。非常に背が高く、サラサラした黒髪で濃いブルーの鎧を着た、まるで、乙女ゲームから抜け出したような超イケメン男。彼の名をヴァルフレードといった。

彼はフラれた男のオンラインゲームキャラをモチーフにして創ったファンタジー小説の登場人物だった。

プロローグの作り方

プロローグ(序章)というのは物語の取っ掛りの部分で、個人的には小説で1番大事な部分だと思っている。何故なら、プロローグで読者の興味を引けなければ、その後はどんなに素晴らしい文章を続けた所で読んでもらえないから。

この「身代わり彼氏」という小説は、タイトルで推測される通り、恋愛小説なのだがプロローグだけ読むと、ゲーム風のファンタジー小説が始まるのではないかと錯覚する。

ひとまず、プロローグの一部を抜粋する。

禍々しい邪気に満ち溢れた魔城。

薄暗い城内を勇者PTパーティーが進んでいく。ローランが朽ちた壁を手で触れながら、疲れの色が見える仲間達に力強く呼びかける。

「あと、少しだ。恐らくデスグラシアはこの奥の部屋にいる。溢れんばかり邪気が伝わってくる」

(中略)

 魔王が鎌を頭上に放つと、鎌に禍々しい紫色の邪気が集まって巨大な玉状に膨れ上がった。その邪気の塊が、ローランに直撃したが、ヴァルフレードがその邪気の塊の前に立ち、槍で薙ぎ払う。ヴァルフレードの身体を塊が飲み込むと思われたが、しぼんで消えた……。

 その隙に、ローランが勇者の剣を力を込めて握ると、悪を滅する為に光を放った。デスグラシアの胸をその剣で突き刺した。

「ぐっ……おのれ……」

 魔王は呻きながら、勇者PTを睨み付けたが、大きな音を立てて倒れこんだ。

「……やったか……?」

 ローランが、魔王の生死を確認する為に近づいた。あれだけ邪気を放っていた身体が段々と崩れ落ちて、最後には邪気そのものとなって霧散した……。

「魔王デスグラシアをようやく倒したんだな。これで世界から大いなる脅威が消えた……良かった」

 ローランは、勇者の剣を空高く掲げて、勝どきを上げた。勇者PTの仲間もそれに呼応するように、武器を掲げる。

 彼らの長い討伐の旅は、これにて終わりを告げたのだった。

《END》

―――― 
 勇者PTが、魔王デスグラシアを討伐した直後、平和になったはずの世界は、光が差すどころか、空には暗雲が立ち込めて、ポツポツと雨雫が落ちた。やがて、雷も鳴り出す。 

 既に勇者PTが立ち去った後の魔城の入り口で、ぼんやりと光が生まれて、それは少年のような形を成した。

『全く、ハッピーエンドで終わらせた癖に、その世界を自ら滅しようとするなんて……世話が焼けるな』

 その近くには、騎士の男が立っていたが、その身体は透けていて実態がない。まるで亡霊のようだった。ただ、言葉は発する事は出来た。

「何故、実体がなく生まれたんだ? このままでは、彼女の願いを叶えられないじゃないか……」

 少年は騎士の亡霊に改めて向き返った。

『悪いけれど、今は君に実体を与える事は出来ないんだ』

 すると、騎士は少年の方を睨み付けた。

「ふん……なら、貴様の身体をもらうまでだ」

 騎士は少年に襲いかかったが、少年はするりと抜けて、浮かび上がった。

『おっと、まだ君に身体は渡せないよ。ボクは神としてこれからやる事がたくさんあるからね~』

「ちっ……」

 騎士の悔しそうな舌打ちに余裕の笑みを浮かべながら、神と自称する少年はそのまま雨が降りしきる空へと飛び立った

『さて……と。生まれてしまったからには、ボクの役割を果たさなきゃね。遠回りで面倒くさい策だが仕方ない……』

 それまで少年を模していた姿は、大きな白い羽根を生やした神々しい女神の姿へと変化した。

overwrite ~身代わり彼氏~」プロローグ

この小説の軸は、主人公の詩織が書いた「ブレイブテイル」というゲーム風ファンタジー小説である。

プロローグとして劇中劇ともいえる小説「ブレイブテイル」のエンディングを持って来ている。

いきなり劇中劇のエンディングを迎えるという展開から、メタ発言をする神と名乗る少年と、明確な目的を持った謎の騎士の登場。

一体これから何が始まるんだろう?という謎を投げ掛けたプロローグという訳である。

世界観の作り方

私の場合、荒唐無稽な事を現代の日常風の舞台に持ち込むのが好き。

この「身代わり彼氏」は主人公の詩織が書いた「ブレイブテイル」という小説の世界が実体化して、現代の日常と小説内の世界を行き来する物語である。

ゲーム風ファンタジー世界の登場人物が、現代の車の高速移動を怖がったり、コンビニで買い物するのに電子マネーが使えなかったり。そういうカルチャーショックを楽しむ側面もある。

異世界に入り込む登場人物は、知識不足の為にハプニングが起きやすい。だからきっと「異世界転生物」は制作側としては作りやすく、いつまでも小説の世界から廃れないのだと思う。

主軸を定める

前記した通り、小説世界と現代世界を行ったり来たりするのがこの「身代わり彼氏」の醍醐味だが、あくまでもそれは「舞台設定」であり、主軸は主人公の詩織とヴァルブレードの恋愛である。

この2人の恋愛の焦点は、ヴァルフレードというキャラクターが小説内のキャラクターであり、しかも詩織が恋焦がれて振られた男を似せて作ったという点。

失恋に絶望して心の慰めにする為に、振られた彼に良く似た「ヴァルフレード」というキャラクターを作った詩織(実体化するとはもちろん思っていなかった)と、その詩織と惹かれ合って後に結ばれるが、よりによって詩織が過去に惚れた男に似せられて作られたという事を一生背負いながら生きていくヴァルフレード。

タイトル通り、詩織は恋焦がれて振られた彼への深い想いを忘れる為に、身代わり彼氏としてヴァルフレード作った。しかし、ヴァルフレードが実体化してしまい、振られた彼の面影を感じて苦しみながらも、身代わりとしてではなくヴァルフレード自身と向き合い愛する事で、振られた彼を忘れて想いを上書き(overwrite)していき、ヴァルフレードと少しづつ本当の愛情関係を築いていくという話。

しかし、これはあくまでも詩織視点であり、身代わりにされたヴァルフレードの葛藤も描く為に、この小説は一人称視点変更方式を取っている。視点を変える事で、2人の心理状況の変化を描写して書いている。

小説的には、視点変更方式は邪道に近い書き方だとは思うが、その辺は素人の小説という事で……。

キャラクターに息を吹き込む

漫画ならキャラクターを分かりやすく視覚で区別させる事が出来るが、小説は文章でキャラ分けをしなくてはならない。

私がキャラ分けする方法としていくつかやっている事があるので記してみる。

一人称を変える

「私」「あたし」「俺」「オレ」「僕」など、一人称をなるべくキャラ間で被らないようにする。

「俺」と「オレ」は声に出して読むと同じだが、文字にすると印象が変わる。

ちなみにヴァルフレードは「俺」で、ヴァルブレードの仲間のグラードは「オレ」である。私個人のイメージでは「オレ」は「俺」よりも若干軽めであり、そこで差別化している。

 口調の癖を与える

詩織なら「~しないもの」とか「もう!」とか少し子供っぽい感じ。
ヴァルフレードなら「貴様、愚弄する気か?」など軽さをゼロにして不遜な感じ。
蓮なら逆に「~っす!」とか今どきの軽い感じに。
結香なら「もちろんですっ!」とか語尾に小さい「っ」を付ける事で元気っぽく見せる。
神様は『ボクは神だから何でも出来るって言っただろ~』(普通の人間ではないから敢えて2重カッコ)

主軸キャラの差別化

前項に付随して、ヴァルフレードは、ヴァル(ヴァルフレードを詩織が略して呼んでいた)を似せて作られたはずだが、似ている面も多々あるが、根本的な性格が違う。何故ならば、ヴァルフレードはヴァルのゲーム内での頼もしい強さ、カッコ良さを強調して、なおかつ小説内の設定に合うように補正を掛けたから。最終的にはここまで違う人間になったという例で(もちろん、差別化という面もあった)

ヴァルフレード

「おい、ヴァル……貴様、シオリの事をどう思っているんだ?」

「どうするもこうするも、アイツに想いがあるのならば排除する。それだけだ!」

「そうだ……俺はシオリの事をこの世で一番愛してる自信はあるぞ。だから、この俺からシオリを奪おうとする奴は、誰であろうと殺してやるからな!!」

「……すまなかった。レンがいてくれなかったら、俺はアイツをなぶり殺していたかもしれない」

ヴァル

「君はもしかしたら、普通の人間じゃないんじゃないか? ミユさんは確か小説を書いていたね。だったら、私に似せたキャラを創って、それが現実になったとか? いや、それはさすがに荒唐無稽過ぎてありえないか……」

「しおり? ああ、ミユさんの本名か。私の気持ち? そんな事を旦那である君が聞いてどうするんだい?」

「……信じられないなら、別に信じなくてもいいさ。それより、君みたいに熱烈に愛してくれる男と結婚出来たのなら、人一倍寂しがり屋の彼女は幸せになれるだろうね……」

普段は無愛想で口数が少ないが、頭に血が上ると粗暴で暴力的になるヴァルブレードと、物腰が柔らかく多弁だが、プライドが高く人を見下して非道な面があるヴァル。真逆にすら感じる彼らの共通点は容姿(ヴァルはあくまでもゲーム内のキャラ)と声、器用で効率主義、自慢話をするという子供っぽい面、たまに喋り方も似る。

2人のキャラの似ている面、違う面にはそれぞれ理由が複雑に絡み合っている。似ているからこそ起こる事と、違うからこそ起こる事、その点を丁寧に描く事を意識した。

物語の起伏を意識する

小説の基本は「起承転結」であり、特に長文小説では起伏がないと読んでいる方は飽きてしまう。

何か事件やハプニングが起こってそれを解決→再び起こって解決を繰り返すうちに、登場人物達は絆を深めていく。少年漫画の典型だが、実はどんな物語でもそうなのだとは思う。

伏線と回収

謎を適度に散りばめておいて、後できちんと回収されると読んでいる方に快感と安心感を与えると思う。
 
「身代わり彼氏」では、主人公の詩織がヴァルに告白メールを出したが、それをスルーされた。「何故、ヴァルは詩織の告白メールをスルーしたか?(振ったか)」は、結局本編では明かされなかったどころか、本編では重要人物のヴァル(中の人)が現れる事すらなかった(伏線未回収)

それは「スルーされた(振られた)」という事実だけが重要であり、理由はさほど重要ではないからだったが、後に私は思い直して、外伝(実質続編)でヴァルをきちんと出して、その辺の理由をハッキリ本人の口から言わせた。

ヴァルブレードとヴァルの直接対決は予定していなかったが (詩織とヴァルがあくまでもオンラインゲームでしか会っていない間柄というのを強調する為) やはり、物語の主軸に関わる事なのでやはり入れた方が良いという判断を最終的にはした。

これが良かったのか、蛇足だったかは読者の方の判断に委ねる。

エンディングをハッピーにするかバットにするか?

これは完全に作者の好みだとは思う……としか言えない。私はハッピーもバッドも両方書くが、その時の気分と構成上の結果だと思う。

ハッピーの場合、読後感を良くなり、文字通り読者をハッピーに出来るがご都合主義や安易で稚拙な文章に読めてしまう恐れもあるし、逆にバッドにすれば、インパクトを残せるが、読後感が悪くなる。

ハッピーにしろバッドにしろ、小説というのは積み重ね型のパズルのようなもので、きちんと結末に向かうまでの構成を組み立てないと、形としてガタガタになったり崩れたりする。

最後に

偉そうな事をそれっぽく書いたが、私はド素人であって、小説を勉強するスクールに通った訳でもない。

それでも、文章を書く事が大好きで試行錯誤しながら小説を書き、何とか形にしていった。

小説なんて難しそうで無理って思っている人も多いかもしれないけれど、自分で設定した世界観とキャラクターを創っていくのは物書き独特の喜びで格別なので、興味がある方は是非書いてみて欲しいと思って、参考になるかは分からないが記してみた(自分の覚書でもある)

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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