午後7時からの中学生談義 27

narrator 市川世織
私が1人でフランスに降り立って3日目。私はエッフェル塔近くにある、小さなカフェでお父さんと待ち合わせした。
久しぶりに会ったお父さん…、なんだか、だいぶ老けてしまったように見えたのは気のせいだろうか。
【お待たせ。何か頼んでよかったのに】
久しぶりのフランス語をスケッチブックに綴った。
【ううん、今来たよ】
伝わるかどうか、ほんの少し不安だったけど大丈夫だったみたい。
お父さんは優しく微笑んで、私と向かい合うように、椅子に腰掛けた。
お父さんの優しいブルーの瞳が、まっすぐに私を見据える。
お父さんから見れば、私もブルーの瞳でお父さんのことを見ているんだろう。
【元気にしてたかい?】
【うん、お父さんは?】
【父さんも元気にしてたよ】
沈黙が生まれた。
【…何か頼もう】
そう言って、私はチーズケーキを、お父さんはコーヒーを頼んだ。程なくして、頼んだ品物が運ばれてくる。
別に私もお父さんも、何か食べたり飲んだりしたいわけではなかった。ただ、気まずいだけ。
【…】
お父さんは優しい。こういう時は、私が話を切り出さなければ、何も始まらない。
私は、ペンを動かそうとした。
【ずっと心配していたんだ】
だから、お父さんの声が聞こえた瞬間びっくりしすぎて、声が出ないことを忘れた。
えっ?
そう言ったつもりだった。けど、空気が喉を通った感覚が残るだけで、声にはならない。
【けど、なかなかお前を迎えに行けなかった父さんを許してくれ。それから、母さんのことも。今後のことを考え合わなくちゃいけなかったんだが…】
【…お父さん。お願いがあるの】
【なんだい?】
【私は日本に残りたい。大事な友達が、私の居場所が日本にはある。お父さんと暮らしたくないわけじゃない。ただ、私の居場所が日本にあるだけ…】
私はようやく決意を言葉にすることができた。
怒る…かな。
そう思って恐る恐るお父さんを見た。
【…そうか】
お父さんは、優しい微笑み浮かべて、でも寂しそうな表情で頷く。
【セオリが決めたことなら、父さんは賛成するよ】
【ありがとう…】
そのあと、お母さんについては、お父さんがフランスへ連れて帰ることになった。
2人で向き合って、もう一度やり直してみる。
そう言っていた。
〈これから帰るね〉
私は貴之たちに、フランスの空港でメールをした。
…帰るか。
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