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第三回「アトムの足音に出会う」

2014年11月22日の土曜日、京都に行ってきた。

秋の三連休の初日で、行楽客で京都の街はごった返している。別に観光をするために京都へ行った訳ではなく、ある人物に会うために出かけた。

大野松雄さん。

この人物を、あなたは知っているだろうか?

アトムの足音

この音を、あなたは覚えているだろうか?

ピョコピョコ…と歩く、鉄腕アトムの足音。この世に存在しないあの不思議な音を生み出したのが、音響デザイナーの大野松雄さん。

大野さんは1930年生まれの84歳。世界初のTVシリーズアニメ「鉄腕アトム」や、SF映画「惑星大戦争」の音響デザイナーとして有名な方である。あのSFにおける「宇宙の音」のイメージを生み出した人でもある。
短編アニメーション作品では、真鍋博「潜水艦カシオペア」の音響も担当されている。
最近では、大野さんを追ったドキュメンタリー映画「アトムの足音が聞こえる」(冨永昌敬監督)が話題になった。ピンクフロイドの音楽にも影響を与えているらしい。

その大野松雄さんに京都でお会いしてきた。

話を遡ると元々のきっかけは、四月に自身の映画「ワンダー・フル‼︎」の上映で、舞台挨拶のために京都シネマへ行ったときだった。
そのときに、京都シネマの支配人・横地さんと、映像作家で大阪成蹊大の由良先生が飲みに連れて行って下さり、6月1日に大野松雄さんの講演とライブ「大野松雄 音の世界」が京都であることをお聞きした。

講演日の前日まで、京都精華大の授業で京都に滞在しているので、一泊延ばして講演に伺うことにした。

その講演の中で印象に残った大野さんの言葉がいくつもある。

「どうなるか分からないところから、何かを作りたい」

「この世ならざる音」

「アニメーションは人工物だから、そこで鳴る音が自然音ではおかしい」

「なにか新しいものを作るのは楽しい」

「ぐちゃぐちゃのめちゃくちゃの中から、何か一つを見出せたら」

大変恐れ多いのだが、自分のアニメーション創作のときに思考することと同じだと感じてしまった。

講演後に由良先生が大野さんを紹介して下さり、短く挨拶をさせて頂いた。そのときに自分の作品が収録されたDVDをお渡しした。

大野さんがDVDを観て、僕のアニメーションを気に入って下されば良いなぁ。そして一緒に作品を作れたら、どんなに良いだろうか。

それから5ヶ月後

由良先生からメールを頂いた。
「大野さんがDVDを観てくれました。作品を面白がっていて、是非一緒に作りましょうと!」

飛び上がるような思いだった。夢に思っていたことが実現する。

そして、京都の烏丸にある喫茶店で、由良先生、大野さんとお会いした。

大野さんは、少年のような方だった。
草月会館のアニメーション3人の会の話や、手塚治虫の話もして下さった。
僕のアニメーションは、久里洋二や田名網敬一を観ていたときを思い出して、懐かしく感じたそうだ。
アニメーションは効率の表現でつまらないと、現代のテレビアニメについて批判もされていた。
お会いしたのは一時間半くらいの時間だったが、いろんな話を聞かせてもらい貴重な時間だった。

どうやって二人で作品を作っていくか、これに関しては、あっという間に決まった。

「先にあなたがアニメーションを作って下さい。そのあと、私がそれをぶっ壊すので」

僕が作ったアニメーションに、大野さんが音を考える。音が先ではなく、この順番でやるのが一番良いと思った。

こうして、大野松雄×水江未来という世代を超えたコラボレーションが動き出すことになった。

まず第一弾として、2010年に制作した「MODERN」の音楽を、大野松雄バージョンでリメイクする。
アニメーション本編はそのままだが、タイトル表示やエンドクレジット部分のアニメーションは新たに作り直す。
タイトルも「FIRST FUTUER」(仮)に変える。

そして第二弾は、僕がアニメーションを描き、大野さんが音を作る、完全新作として発表する予定。
タイトルは「SECOND FUTUER」(仮)
「MODERN」シリーズと同じく、幾何学アニメーションになるが、「MODERN」シリーズから派生した別シリーズになっていく予定。

もし第三弾が出来るなら、「THIRD FUTUER」は長編にしたいと考えている。
大野さんに、こういう幾何学図形が動くだけで長編は成立するでしょうか?と尋ねたら、「メッセージがあれば大丈夫」とおっしゃっていた。
これまで、いろんなアニメーション関係者に、抽象で長編を作りたいと話すと、驚きの表情を浮かべる人ばかりだった。
しかし、大野さんは全く驚いていなかった。
そりゃそうだ。音楽の在り方をぶっ壊してきた人だ。驚くわけがない。

大野さんは、続けてこうおっしゃった。
「メッセージを鑑賞者にぶつけ続ければ良いんです。鑑賞者はそのメッセージを交わしたり除けたりするかもしれないが、それでもメッセージをぶつけ続ける。」

やはり長編の企画は、大野さんと共に実現させたいと強く思った。壮大な実験であり、壮大な遊びだ。常識として認知して固まってしまった様々なイメージを、大野さんと一緒にぶっ壊していきたい。

こうなったら、のんびりやっている訳にはいかない。
「WONDER」完成後に、燃え尽き症候群なところが少しあったが、完全に復活した。

2015年は忙しくなる

大野さんとの「FIRST FUTUER」「SECOND FUTUER」

フランス製作で「MODERN No.3」

これらの制作、幾何学アニメーションの一年間になるだろう。
まあ、他にもいろいろ企画をしかけていくので、このへんの話も後々していきたいと思う。


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