可能性に光を当てていく【第3回定例会:soar工藤さん】

NPO未来ラボ」の第3回定例会は、人の持つ可能性が広がる瞬間を捉え、伝えていくメディア『soar』編集長の工藤瑞穂さんを招いて行われました。
soar立ち上げの経緯、きっかけとなった「べてるの家」、soarが光を当てる人たちについて、お話を聞きました。

工藤瑞穂
NPO法人soar代表理事・ウェブメディア「soar」編集長
1984年青森県生まれ。宮城教育大学卒、青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了。仙台の日本赤十字社で勤務中、東日本大震災を経験。震災後、「小さくても、わたしはわたしにできることを」をコンセプトに、仙台で音楽・ダンス・アート・フードと社会課題についての学びと対話の場を融合したチャリティーイベントを多数開催。地域の課題に楽しく取り組みながらコミュニティ形成していくため、お寺、神社、幼稚園など街にある資源を生かしながら様々なフェスティバルを地域住民とともにつくる。2015年12月より、社会的マイノリティの人々の可能性を広げる活動に焦点を当てたメディア「soar」をオープン。2017年1月に「NPO法人soar」を設立。イベント開催、リサーチプロジェクトなど様々なアプローチで、全ての人が自分の持つ可能性を発揮して生きていける未来づくりを目指している。

今井:
それでは皆様、お疲れ様です。乾杯!今日はNPO未来ラボでは初の、お酒を飲みながらの定例会です。 それでは瑞穂さん、soarについて教えてください。

工藤:
Webメディアの soarを運営している代表理事の、工藤瑞穂です。よろしくお願いします。

soarは、「人の可能性が広がる瞬間を捉える」というコンセプトで、情報発信をしている Web メディアです。

元々は、私の身内が統合失調症(幻覚や幻聴などがある症状の重い精神疾患)になってしまった時、情報がなくて家族も打つ手がないまま、どんどんひどくなってしまったんです。一生病院から出ることは難しいんじゃないか、と言われています。

助ける手段が何かしらあったんじゃないかと思って、自分で調べたところ、べてるの家という場所に出会いました。『べてるの家』は、統合失調症等の方が共に働きながら暮らしているところです。NPO や福祉の関係者なら絶対に知っておいてほしい、素晴らしい場所です。

『べてるの家』の理念には素晴らしいものが多く、「弱さの情報公開」というものがあります。これは、強みだけではなく、弱さを共有することで人と繋がれるということなんですね。

もうひとつ、「苦労を取り戻す」という理念があります。人間は生きていれば誰にでも苦労があるはずなのに、病気になると周りから、「休んでていいよ」とか「病気治ったらやりたいことをやろうね」と言われてしまいます。でも、べてるでは「病気があったとしても、自分たちのところに苦労を取り戻そう」という考えで、苦労をしてもいいから自分たちでビジネスに挑戦しているんです。soar も8月に取材に行くので、楽しみにしていてください。

こんなに素晴らしい場所なのに、インターネットには『べてるの家』の情報がほとんどないんですよね。もっと早くにこういう場所があると知っていたら、身内を助けることができたかもしれないなとすごく後悔しました。

そのとき気づいたのは、「情報を知らないということは、人生の明暗を大きく分けてしまうことなんだな」ということです。必要な情報を手に入れることができるだけで、世の中のいろんなことが解決するんじゃないかなと思いました。

困難をたくさん抱えている人がいる一方で、素晴らしいサポートを提供している 人たちがたくさんいます。でも現場が忙しく、情報発信にまで手が回らないことが多いのです。また、社会課題に無関心な人に対して、どのように情報発信していけばいいのかわからない、という悩みを抱えていることもあります。

その困難を抱えている人と、サポートをうまく結びつけるような媒介者としての役割が今、必要なんじゃないかと思いました。そこで今ある素晴らしい可能性に光を当てて可視化し、情報を届けていくことで社会を変えていこうと思い、soarを始めました。

今井:
soarはまだ、公開して間もないメディアですよね?

工藤:
2年半ぐらいですね。
法人を設立したのは去年の1月なので、まだ1年半も経っていないですね。

今井:
今日、瑞穂さんをお呼びしたのは、「NPOは情報がクローズしすぎており、それを変えるために、経営のノウハウとか寄付の集め方とか色々話した方がいいんじゃないか」という課題意識について共感したことがきっかけでした。

困った時に検索して、同じ立場の人の生き方を探ることができるメディア

今井: 

soarは柔らかく、それでいて拡散力もあり、多くの人に届く形の発信をしています。記事の数も多いですよね。

工藤:
今、250本くらいの記事を公開しています。週2回のペースで、記事を配信しています。

今井:
例えば、何か障害で困った時に、検索をすると soarの記事がで出てくる。これって重要ですよね。

工藤:
最近だと、「会食恐怖症」でgoogle検索してもらうと、1番目に表示されると思います。

工藤:
あと、「アルビノ」で検索すると2番目に出てきますね。

今井:
「アルビノ」というのは、生まれつき肌や髪の色素が薄いという症状です。薮本舞ちゃんという、すごく仲がいい友達が記事に出ています。とても人数の少ない症状なんだけど、検索で記事が出てくるのが素晴らしい。

今井:
このように、soarは障害などの困難を持っている人、生きづらさを持っている人たちの情報を蓄積している。しかも、その人たちが困った時に検索ができて、自分と同じ立場の人の生き方を探ることができる

ただ発信するだけではなく、人の一つの生き方を見ることができる、というのがすごい。このような価値のある記事が積みあがっているのが、soarの優れたところであり、面白さであると思う。


今日、寄付サポーターになったんだけど、そのぐらい、いいなって思っています。

感性とロジックが出会い、soarが始まった

今井:
NPO未来ラボには、起業したいメンバーが結構いる。また、NPOに関心のある人や、NPOの運営について知りたいメンバーもいる。
そこで、瑞穂さんがsoarを立ち上げた理由や、立ち上げの時にどういう大変さがあったかを教えてください。

工藤:
soarは夫婦で立ち上げました。珍しいですよね?
私が世界観担当で、パートナーのモリジュンヤが、Webメディアの知識やロジック面を担当しています。


私は「人の可能性が広がるような社会がいいな」とか、「こういう観点で情報を届けていけばいいんじゃないか」みたいな、世界観やメディアを作る際のポリシーが自分のなかにありました。モリは今の社会の流れに照らし合わせて、「今の社会は多様性が鍵になっているから、soarみたいなダイバーシティを横断するメディアが必要」という考えがあったんですね。soarはその感性とロジックが合致したのがよかったと思っています。

soarの特徴は、初期メンバーも今のメンバーも、医療や福祉領域の専門家がほぼいないことです。モリは編集プロダクションをやっている社長です。他にも Web マーケティングの会社を経営していたり、様々な分野で活躍しているデザイナーといった方たちです。


私は、”資本主義の領域”で活躍している人の力を借りることが、とても大事だと思っています。きちんと人の心を捉えるサービスをつくって、お金を回すことができている人たちのスキルや感性を活かしてもらうということです。私たちは、ソーシャルや福祉の領域は初心者なんですよね。でも、たくさんの協力してくださる方がいて、そういった方から知識を教えてもらいつつ、素人だからこそできたという面もありますね。素人だから好奇心を持って怖がらずに色々なことができた。そのうえで、メンバーが何かしらの領域のプロフェッショナルであるというのは強みかなと思います。

最初は友達同士で始めましたね。私の家で会議をしていたし、資金も私の貯金から出しました。100万円ぐらい使ってサイトを構築したりして。

今井:
それでも100万円くらいなんだね。

工藤:
皆さんに頼み込んで、少ない謝礼で作っていただいたんです。記事も、最初は全部、自分で書いていました。

soarには Twitterで数千人数万人とフォロワーがいるメンバーが多かったので、オープンした瞬間から結構反響がありました。メディアの立ち上げって、作ったのは良いけど、読まれなくて終わる、というのが多いんですけど、soarの場合はメンバーの情報発信の影響力が大きかったと思います。

今井:
そういう意味で言うとsoarは珍しいかもね。

工藤:
珍しいですね。 様々な専門領域の人が参加していたことがよかったと思います。自分のスキルを、社会にいいことに役立てたいと思っているけど、きっかけがない人がたくさんいます。なので、事業をつくりたいけれどスキルが足りないという人は、声を掛けて協力してくれる方を募ってみたらいいかなと。

今井:
NPOにとって、 協力してもらうためのデザインがすごく重要だと思う。
DxPの場合、「コンポーザー」という、授業に参加するボランティアが250人くらいいる。他にも、社会人のインターンメンバーが増えてきている。スタッフも28人いる。寄付としての関わり方もある。そういった多様な関係性を築いていくのが、とても大切だと思う。


250人のボランティアが月単位の時間動いてくれたら、ものすごい価値になる。ボランティアの関わりかたをどうやってうまくデザインしていくのかが、NPOに求められるところだと感じるね。

soarの立ち上げの時は、やっぱり大変だった?

工藤:
友達同士で始めたからか、あまり苦労はなかったですね。今は違いますが、最初はみんな収入源が別にあって、soarからの報酬に頼っている人がいなかった。

今井:
瑞穂さんは別収入があるの?

工藤:
soarからの収入以外に、他のメディアの監修などでも収入を得ています。

今井:
自分は NPO から報酬をもらわず、スタッフの給料に当ててるんですね。

工藤:
そうですね。今はいくらか給料を発生させていますが、軌道に乗るまでは、soarから一切報酬を貰わず、自分の仕事で稼いでいましたね。

今井:
今はsoar全体でどれくらいの収入があるの?

工藤:
今の収入は1か月あたりで、寄付が40万円ぐらい、その他のイベントなどの事業収入が30万円ぐらいです。

今井:
soarは月当りで70万~80万円ぐらいの小規模な予算で、大きな影響力がある。これは驚くほどのインパクトだと思う。とはいえ、給与はあげた方がいいとは思うけどね。

工藤:
それはプロのライターさんやカメラマンさんがライフワークとして、特別な値段でsoarの仕事をしてくださっているからです。障害のある人や病気のある人の力になりたいという人はたくさんいるけど、他に記事を書ける場所がないから、うちに来てくれている。


スタッフの給料ももちろん、上げていきたいです。そのために寄付をもっと増やして、収入をもっと得られるようになりたいと思っています。

今井:
ところで、なんで株式会社にせず、NPOにしたの?

工藤:
私たちのメディアはとてもデリケートなテーマを扱っているので、NPOだからこそ中立的に当事者のお話を聞かせていただけると思ったんですよね。

それと、非営利型のメディアを作りたいと思っていたんですよね。メディアの運営方法はいくつかあります。広告記事として、企業からお金をもらってサービスの記事を書く場合が多いですが、いいと思わないものでもPVのために書かなければならなくなることも多いと思います。でも私たちの場合は、私たちが本当に良いと思うものだけを発信したいので、広告記事はやらないという決断をしました。

バナー広告もやりません。インタビューイから素敵な話をお聞かせいただいたので、この世界観に没入して読んでいただく体験を大事にしたいのです。有料会員にならないと続きが読めない、ということもやりません。今困っている方が、無料ですぐに記事を読めることにこだわっているからです。このようにこだわっていると、一般的なメディアのマネタイズはほぼ無理です。

だから、非営利型のメディアにしました。私たちの価値観に共感する寄付者の数が増えていったときにものすごいインパクトになると思うんですよね。「小さな応援を集めて見えるようにしていきたい、それが社会の変化につながる」と考えたので、寄付型NPOとしてメディアをやって行くことにした。

今井:
DxPでは「不登校になったとしても高校中退になったとしても、大丈夫だよ」と社会が受け入れていく価値観をつくっているんだよね。そういった僕たちの価値観が拡がっていくことが、若者が希望を持てる社会につながっていくと思う。

soarはメディアとして、価値観や文化を創って、広げている。それも2年ぐらいでここまで広がってきているというのがすごく面白い。すごいなと思う。

工藤:
ありがとうございます。

soarの目指す世界:困った人のための情報インフラ

今井:
瑞穂さんはやっぱり、やりたいこと多いでしょう?

工藤:
はい。まず、年内にサイトリニューアルを考えています。今はあまりサイト内での検索が強くないんですよ。「情報のインフラになるにはどうしたらいいだろう」ということ、つまり、「困ったら検索サイトに聞くのではなくて、soarに聞く」という状況をどうやったら作れるかを考えています。

今って、病名で検索をすると無機質な医療系サイト、もしくは当事者の方のブログが出てくるんですよね。だからsoarは、データベースっぽいメディアにしたいと思います。サポートにつながるための情報も、同じ立場の人たちのストーリーも、分かる状況にしたい。そんなインフラとなるデータベース型のメディアに向けて、リニューアルしたいなと考えています。

それと、もっと生活と結びついていくといいなと思っています。「soar的な体験」とか「soar的なライフスタイル」みたいなものをつくれないかなあと。

今、福祉系のプロダクトをいっぱい紹介しています。それをsoarプロデュースでブランドをつくりたいなんて夢もあります! 障害のある人が作っているものや、ユニバーサルデザインのものなどが、皆さんのライフスタイルにおしゃれなものとして、自然に溶け込む、そんなブランドをつくってみたい。そのためにホテルやカフェも作りたいんですよ。

工藤:
世界観を体感できるものが大事だと思うんです。

人は五感で体感するまでは、なかなか価値を信じられないと思うんですよね。だから、soarでは記事だけでなく、イベントもたくさんやっています。イベントは五感で感じられるので、「ああ、こういう未来っていいな」と実感できると思うんですよね。そういった体験を作っていきたいなと思います。カフェなどのリアルな場や、映像や写真展、様々なアプローチでやりたい。

「Think the Earth」という団体はわかりますか?以前はTOYOTAの小型ハイブリッドカー「AQUA」のプロモーションで、全国を回って「AQUA SOCIAL FES!!」という環境のキャンペーンをやったりしていました。クリエイティブの力や、「体験=エクスペリエンス」の力で人を動かしていく、ということをやっている一般社団法人です。

以前は、「100万人のキャンドルナイト」とか、「打ち水大作戦」とか、ムーブメントになっていたものが多かったんですよね。最近はこういったムーブメントがすごく少なくなってきていると思います。そこで、みんなが楽しく気軽に参加できて、新しい感覚や価値観が全国に広がっていくムーブメントを、soarで起こせないかなと思っています。

他にも、グレーゾーン(発達障害の特徴を持つが、医学的な診断基準を満たさない人)の方の働く場づくりなどもしたいですね。まさに DxPがやろうとしていることと近いと思います。なんとなく生きづらい人が働く場所ってすごく少ないんですよね。

今井:
自分たちが作る価値観や世界観で構成する経済圏と、NPOという形態って、すごく合うと感じている。


DxPでは、卒業生のコミュニティや、コンポーザーのコミュニティをつくっている。コミュニティの中では、困難を抱えている子から、活躍している子まで混ざっている。このコミュニティの中で物やスキルを交換して助け合う動きが進んだら、僕はすごく面白いなと思う。


そういったコミュニティをDxPは作っていきたいと感じている。彼らが自発的に「一人一人が希望を持てる社会」というビジョンを形作る存在になっていく。そうなったら、とても強い力になる。

今のNPOは、国への提言だけではなく、国ができないことを自分たちで作っていく必要性があると思う。僕はこれからそこに力を入れていきたい。soarの価値観とDxPの価値観はすごく近いと、話を聞いていて思った。

工藤:
私がsoarをつくる際に参考にしたものがいくつかあります。単純に私が好きなものなんですけど 。「ほぼ日」や「暮らしの手帖」、「ミナ ペルホネン」というブランドと「スープストックトーキョー」を運営している「スマイルズ」です。

こういったブランドに共通するのは、価値観に賛同するファンが集まっており、メディアや企業に対してすごく信頼があるんですよね。だから、彼らがいいとおすすめしたものを、ファンの人たちは信頼して購入することができる。 しっかりとした世界観があるからこそ、これができていますよね。

soarもそういう風になりたいなと思っている。soarの価値観に共感する人たちが、soarが作ったものを買ってくれる。それによってマイノリティの立場にある人たちの雇用も生み出せるし、力にもなれる。そうやってお金が回る状況を作っていきたい。soarが作ったものがライフスタイルに組み込まれれば、社会の変化を起こしていけるのかなと思います。

今井:
ここは共通した思いがありますね。今までお会いしたことがなかったから、今日話を聞いてめっちゃ面白いなと感じた。

工藤:
対人支援をしているNPOの皆さんは、目の前の助けたい人に集中できる状況が一番いいと思います。私たちはメディアとして、困っている人と社会をつなげていくことが役割かなと思います。色々な NPOと協働して、プロジェクトやプロダクト作るといったことも、できたらいいですね。

DxPとも是非一緒に活動しましょう!

「苦労できるのがいい」当事者が作るコミュニティの可能性

今井:
DxPでもTシャツなど、生徒やうちの関係者がデザインしたものを売るというような、世界観を売ることをやりたい。それで生徒も雇用できたらいいよね。

工藤:
高校生達がブランドを作り始めたら、すごい素敵ですよね。

今井:
コワーキングに通っている子の一人が、「自分たちのファンクラブを作ろう」という話をしていた。その子たちはイベントを企画してWeb配信し、「高校生コワーキングの子たちを支えよう!」というキャンペーンをやろうとしている。そういう活動が仕事づくりにつながって、色々なことをどんどんやってくれるんじゃないかと期待してる。お金を回す仕組みづくりの練習にもなる。

工藤:
社会的に弱い立場とされているひとたちが、自分たちでビジネスを生み出していくのはすごくいいですよね。soarの取材先でも、おばあちゃんのクリエイティビティを活かしてプロダクトを作る「BABAラボ」があります。

今井:
めっちゃ楽しいね。

工藤:
めっちゃ面白いですよ。
『べてるの家』も、統合失調症の人たちだけで昆布を販売する会社を作っています。しょっちゅうトラブルがあるそうですが、「苦労できるのがいい」と話しているのを聞きました。

今井:
「苦労できるのがいい」って、 めっちゃいい言葉だね。

工藤:
『べてるの家』があるのは、北海道の浦河町という過疎地域です。
彼らは「この町で一番苦労できることってなんだろう」と考えたらしいんですよ。「こんな過疎地域だから、ビジネスをするのが一番苦労するよね」って話になって、昆布の販売を始めたそうなんです。

今井:
めっちゃ面白い。

工藤:
「ビジネスを始めたら、起こる苦労って何だろう」って、思いつく苦労を全部書き出したらしいんですよ。だからトラブルが起こっても、「順調に今日も苦労してる」「知ってた知ってた。起こるよね」っていう感じで、苦労を受け入れられんですよね。

今井:
それ、めっちゃいいね。めっちゃ勉強になる。

工藤:
向谷地さんに以前お会いしたとき、「支援者が何かを作るんじゃなくて、当事者が何かを作らなきゃいけない」ということを話してました。統合失調症の人たちが自分たちで考えて話し合って、仕事をつくることに意味がある。

今井:
苦労をすること前提で仕事を作っているという価値観が、新しくて面白いよね。「苦労すら成果だよね」って言えるのがいいね。

工藤:
「苦労の中に何かがある」っていう考えで向谷地さんは生きてると言ってました。だから皆さん、ぜひ苦労ができる道を選んでほしいです(笑)。

リーダーこそ注意!「強い個性」の落とし穴

今井:
『べてるの家』の話はやばいぐらい面白い。
瑞穂さんはこういったものを拾い上げてくる感性や力がすごい。どうやってそんな感性を身に着けることができたの?

工藤:
“光”に近づく習性
があるのだと思います(笑)。

30代に入ってから、自分の使命や役割はなんなのか、というのを意識するようになって。今の私の価値は、「素晴らしいものを見つけて、広く世の中に届けること」と、「同じ思いを持った人が集まる場をつくること」の2つだと思います。

今井:
俺は”光”に近づくということとは逆。世の中から全く相手にされていない子供たちと出会う活動をしている。

工藤:
私はそれはむしろ”光”だと思いますよ。D×Pは、今は世の中から注目されていない子供たちが、本当はいいものを持っているということにちゃんと気づいている。誰も見つけていない”光”を見つけて届けるというのは、NPOの役割のひとつだと思う。

今井:
俺ら若者支援の現場では、エメラルドみたいな原石を探しているイメージ。
まだ輝いていないけど、そのままでも芸術的かもしれない。でも磨いたらもっと光るかもしれない。どっちもありなんだと思う。

現場のマネジメントなどの、ほとんどの仕事はスタッフに任せているけど、それでも俺が現場を離れずに高校生と関わる理由は、「そういう原石のようなものに触れていないと、なんか汚れそう」と感じているから。

僕の元々の性格は激烈で、あまり周りの人のことを考える前に動いてしまう。人を勝手に巻き込んでしまうタイプ。だからこそ現場で、生徒たちからの学びを吸収したい。生徒たちと学ぶコミュニティが面白くて、DxPをやってるんだよね。

工藤:
私、以前soarでのりさんのインタビュー記事を書いたじゃないですか。あの時のインタビューをはっきり覚えています。

のりさんが世間からバッシングを受けたとき、自分の元に届いた批判のコメントをすべて書き出したことや、批判した人に会いに行ったことは、私にとってsoarの取材で聞いたエピソードの中でも最も好きなものです。そこまでとことん人に向き合うことは、大抵の人にはできない。だって人と向き合いつつ、自分ともすごく向き合わなきゃいけない。そのしんどさを率先してやる胆力がある人はなかなかいないですよね。

今井:
そういう激しい面があるから、NPOをやっているのかもね。他人の苦しさや状況について、背景を知り、のイメージを持つことをなぜやっているかというと、実はそこに対して何か力があるんじゃないかと思っているから。

例えば、批判をする人も色々な過去があって苦しんできたと思うんだよね。だから逆に、そういう人の力を借りたい

工藤:
葛藤とか怒りにこそ、可能性があると私は思っています。「その人のことをよく知りたければその人が何に怒るかを知るのがいい」と、『NVC(非暴力コミュニケーション)』に詳しい人から聞いたことがあって。その人が怒っている時や、爆発しそうな感情の中にその人の大切にしているものを知る鍵がある。そう考えると、NPOがこの社会の葛藤に目を向けて取り組んでいくその中に、新しい未来への兆しやイノベーションがあると思うんですよね。

今井:
瑞穂さんってどんな本を読んでるの?

工藤:
私は本をたくさん読みます。マンガの『ワンピース』も読むし、ビジネス書や起業家本も読むし、コミュニケーションや自己理解にまつわる本も読みます。私がおすすめなのは『自分の小さな「箱」から脱出する方法』という本です。

これは、「相手を変えようとするのではなく自分を変えよう」という話ですね。相手が自分に対して怒ったりひどいことを言う時って、大抵、自分の方が「箱」に入っている。だから誰かとの衝突は、まず自分の問題だと考えてみようという。リーダーをやっている人はぜひ読んでほしいです 。私は以前、違う団体でリーダーをしていて、大きな失敗しそうになった時に読みました。

やりたいことがすごくある人って、メンバーが本当にやりたくて協力してくれているのか、自分が強制的にやらせているのかの判断ができなくなるときがあると思います。自分の思いが強いばかりに、無意識のうちに相手を利用しようとしてしまうこともあったりして。だから自分の影響力に敏感じゃなきゃいけないと思うんですね。

今井:
俺も最近、自覚的であろうと思うわ。

工藤:
私ものりさんも、確かに言葉が強いのですごく意識しないといけないですよね(笑)

メンバーが「言えない」と思っていることに気づかないときがあるんですよね。『自分の小さな「箱」から脱出する方法』は、「なんでみんなちゃんとやってくれないの?」と思っている時は、自分の態度のせいでみんなを恐縮させてしまっているということに、気づかせてくれる。

今井:
リーダーはそういうのに対して自覚的じゃないといけないよね。俺もDxPの組織内ですごい気をつけてる。みんなが本音を言えるような環境をどうやって作っていくか、結構難しいんだよね。特にキャラが濃いリーダーにとっては苦手。

工藤:
そうなんです。そのために定期的にあの本を読まないと、私はダメなんです。

ドラマに学ぶ、マジョリティの「課題にされない生きづらさ」

工藤:
読書以外にも、ドラマを週に5,6本、見ています。

今のドラマって、社会課題がたくさん内包されてて面白いんです。すごく自然に、「課題にもされていないような人間の悩み」が表現されています

今井:
世の中のマジョリティの人たちが抱えている、「語られる課題」って少ないなって感じている。でも彼らも本当は何か課題を持っている。そういうのが語られない社会になってきた。マジョリティの方こそ、生きづらい。

工藤:
本当にそうだと思います。

「課題にもされていない悩み」がすごく多いことが、soarをやって分かりました。例えば「お母さんのことが好きじゃない」とか、「兄弟の関係がうまくいっていない」とか、「自分のことが好きじゃない」とか、「人を好きになれない」とか、「ずっと人と自分を比べていて苦しい」とかの悩みが、SNSを通して見えてきます。

そういった「課題にもされていない悩み」は、話題にされる社会課題よりも、その人の人生に強く影を落としている。課題として認識されていないので、NPOの支援もないし、公的な助成金ももらえない。

なのでけっこうsoarも助成金申請はほぼ通らないです。 個人の寄付者のみなさんは、こういった「なんとなく生きづらい」という感覚にこそ共感してくれます。「課題にもされていない悩み」に目が向けられてないって、つらいですよね。

DxP も同じですよね。高校生が「夢を持てない」という悩みに対して、「だから?」と切り捨てられちゃったら、それまでですよね。

今井:
分かりづらいからね。

質疑応答

Q:
soar の初期メンバーで、メディアに強いかたが一緒に来てくれたという話がありました。お金のインセンティブがないのに、スキルの高いかたがジョインしてくれた理由は何でしょうか?

工藤:
なんらかの領域のプロフェッショナルで、ご自身の収入がちゃんとある方は、自分のスキルを活かしてソーシャルな活動に協力する方法を探している方が多いです。なのできちんと、「こういった社会をつくるために、あなたのこういったスキルが必要だから協力してほしい」とお願いするのがいいと思います。

Q:
soar のメンバーは、各分野のスターチームだと、聞いていて思いました。
そういったスペシャリスト達とどうやって出会ったのですか?

工藤:
私の場合は、友達からのつながりと、Twitter からのつながりです。

どの領域であろうと、エネルギー値が高い人同士は繋がると思います。今井さんも色々な領域のエネルギー値が高い人とつながっていますよね。だからお互いに惹かれあうということだと思います。それと、結構ソーシャル領域じゃない友達が多いですね。

今井:
俺もそうだね。NPOの業界で学ぶことも多いんだけど、俺らはあまりそこだけに交友を絞ってないよね。他のNPOや、新公益連盟などの業界団体から学ぶこともいっぱいある。でも、常時そこにいると、業界の中の持つ幅でしか考えられなくなってしまう。こだわり感が強すぎてがんじがらめになってしまう。ノリで動いてない。

工藤:
グルーヴ感は大事にしないと、ですね!。
あと私は、流行りのものは何でも試します。流行しているサービスやアプリはとりあえず試します。

あと、話題になってるカフェや、新しいデザイナーズホテルができたら速攻で行きます。人の心を捉えているものを見て、何が捉えどころなのか、いっぱい学んだ方がいい

今井:
瑞穂さんはやっぱりアーティストだね。

工藤:
そういえば元ダンサーです(笑)
毎週末クラブに通うような、ストリートダンサーでした。

でもやっぱり、経営とかビジネスのことは知識が足りないなあと思います。その分、経営メンバーが、「いかに私の感性が死なないようにするか」をすごく意識してくれているので、世界観をつくることに集中できています。基本的に私が「やりたい」と言ったことは、やれる方向で協力してくれて、助かっています。

Q:
子供たちを見ていると、やりたいことを「やりたい」と言えない子たちがすごい多いなと感じています。それを打破する方法はありますか?

工藤:
やっぱり子供の頃が大事だと思います。 私は親が自由にさせてくれた方だったので、やりたいことを言える性格に育った。やりたいことを一番最初に「やりたい!」と言い出すことや、恥ずかしげなく「希望」や「光」といった言葉を使うことが自分の役割だと思っています。

Q:
取材対象の方々とはどうやってつながっているのでしょうか?

工藤:
私たちはもともと、ソーシャル領域の専門家じゃないので、色々な分野の専門家の人達に協力してもらって、取材対象と繋がっています。

あとは、インターネットで常にパトロールをしています。クラウドファンディングサイトやTwitterを見て、「皆さんがどんなことを悩んでいて、どんな活動があるか」をチェックします。そこからアプローチしていくことも多いですね。

Q:
プロフェッショナルじゃない人の巻き込み方は?

工藤:
そこは今の課題ですね。大学生にはイベントボランティアをやってもらっているんですけど、それ以外はうまく巻き込めていないのが現状です。

soarに参加したいというかたはたくさんいるんですけど、同時にちゃんと事業のクオリティへのこだわりも大切にしないといけない。例えば、メディア運営経験のないボランティアのみなさんにメディア運営に入ってもらったとしても、なかなかそれでsoarのクオリティが出せるかと言うと難しいと思います。だからそこは涙を飲んでボランティアさんをお断りすることが多いです。一定のスキルを超えた人だけで作っていくからこそ、今のクオリティがあるんですよね。

今井:
確かにライティングや編集で、素人が関わるのは難しいよね。
これは NPO未来ラボをやり始めて俺もわかった。

まとめ:大事なのは”自分の観察”

今井:
今日はめっちゃ面白かったな。
『べてるの家』の「苦労を取り戻す」という話が、すごく良かった。

工藤:
「苦労を取り戻す」「弱さの情報公開」という理念が大好きなんですよね。うつ病になると社会との関わりを絶たれてしまいがちですが、「苦労があってこそ人間」ということなんだと思います。

今井:
あえてそれを言うことが、すごい素晴らしいことだと思った。
また、価値観を広げていくことに重きを置くというのが、soarの価値だと思った。それをこれから、プラットフォームみたいなコミュニティに生かしていくと思うんだけど、そういうのも素晴らしいと思う。

あと、「自分の個性を把握しているからこそ、これを読む」という読書の方法が、すごい自覚的でいいなと思った。

最後に NPO 未来ラボのメンバーに一言お願いします。

工藤:
一番大事なのは“自分の観察”
だと思うんですよ。“考える”のではなく“観察”がすごく大事。自分が何を見た時に表情が輝くかとか、気持ちが高揚するかとか、ちょっと怖いとか、ビクってするとか、そういう心の動きを観察する事が、とても大事だと思います 。それが観察できれば、何が人の心を動かすか、何が人の心を楽にするか、分かると思うんですよね。

だから、これから何かをつくっていきたい人は、自分の観察や自分の研究をするといいと思います。「自分の観察や研究=社会や世の中の人に対する研究」でもあると思います。大抵、自分にとっていいものは数千人数万人にとってのいいものなので、私は自分が欲しいなと思うものや、自分のテンションが上がることを事業にする。

『べてるの家』にも当事者研究というものがあります。病気を治療しようと言うと患者はやる気をなくすけど、「自分の病気を自分で研究しよう」と言うと、目が輝くんです。

そんな感じで、自分の研究観察を楽しむと、それが、人についての理解や、社会ついての理解につながるんじゃないかと思います。

あと、 NPOの皆さんはぜひtwitterやnoteを活用してほしいです!soarのTwitterの使い方をガンガン真似してほしいです。DxPもsoarを真似してくれています。

soarのTwitter担当者は読者が大好きで、いつもずっとTwitterを見てます(笑)。だからこそ、読者のみなさんの気持ちを理解して、一緒にいいものをつくっていけているんだと思います。NPOってたいていの人には遠い存在で、何をやっているかわからないものなので、どんどん発信して、コミュニケーションをとっていってもらえたら。

今井:
今日はありがとうございました。拍手!

(おわりです)

文章・編集:すー

監修:工藤瑞穂

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