20190909タイトル

世代を切り裂いた都市と地方の偏り

 前回の「自民党は地方に何をしたか」は、やや批判的に書いた箇所が多かったものの、今の日本の問題を象徴的に描き出しているとして、地方の自民党の人たちからも少なからず好意的な評価をもらえました。

 都市と地方のアンバランスは、日本が直面している様々な問題と密接な関係を持っています。しかしこのアンバランスが日本にとってどれほど大きなマイナスをもたらしているかということは、まだ十分に研究されてきていません。そこで今回はもう一度、都市と地方の問題をとりあげることにしました。以下に示す人口増加率(図1)と合計特殊出生率(図2)を念頭において見てください。

■図1.人口増加率(2010~2015年/国勢調査による):黄色から赤で塗られた地域で人口が増加し、水色から青で塗られた地域で人口が減少しています。地方の多くの自治体が人口減少に直面している一方、都市部の人口は増加しています。

■図2.合計特殊出生率(2010年/国勢調査による):合計特殊出生率が意味するのは、一人の女性が生涯に生む子供の数の平均です。札幌や仙台、関東一帯や京都、大阪などの都市部で特に低い傾向が読み取れます。


⭐都市と地方のアンバランスとは?

 日本には、かつて都市と地方がともに発展を続けていた時代がありました。しかし平成になると、地方の衰退が目立つようになってきます。多くの人が都市部に移動するなかで、地方の自治体は次々と、かつての人口を維持することができなくなったのです。(平成の大合併が行われた背景の一つにも少子高齢化の問題がありました)

 人口の減少によって交通機関や商店などの採算がとれなくなっていけば、それらはやがて撤退に向かいます。また、税収が減れば行政サービスも劣化していきます。極端な話、災害があったときに復旧もできない、橋も直せないし道路も直せないというような状況におちいって、壊れたものがそのまま放置される日が来ないとも限りません。

 その一方、都市部は過密状態で、子育てをしようにも保育園に入るのが困難な有様です。小学校は満員で、校庭を潰してプレハブの教室で授業をやっているような現状もあるわけです。

 しかしながら、都市と地方の問題はこの程度のことにとどまりはしません。図2で出生率の低い都市部が図1で人口増加となっているのは、地方から都市部へ人の移動があるからにほかならないのですが、その移動の中心となっているのは若者です。すなわち都市と地方のアンバランスは、就職の時に都市へと向かう若者の移動よって引き起こされています。これは、都市と地方のそれぞれに生きる世代を切り離すことを結果し、次の2つの問題を引き起こしている疑いがあります。


⭐加速する少子化

 図2を見ると、沖縄や九州地方、中国地方を中心として、地方はまだ出生率が1.5から2.0に迫るような高い自治体が広がっています。けれど関東や大阪などの、都市化されたところでは1.1から1.3ほどになっています。

 つまり若者が地方から都市部に移動するということは、出生率の高い地域から低い地域へと移動することになっているわけです。これにともなって、地方にいれば生まれるはずだった子供が、一体どれほどの数、生まれないままになってしまったのでしょうか。

 もっとも、地方の出生率が高く、都市部の出生率が低いという事実だけからは、都市部の環境が出生率を下げているのか、あるいは子育てをしないという選択をしがちな若者が都市部に移動する傾向があるのかは判然としません。これはここ数年間で研究されつつある問題で、まだはっきりとデータで示すことが難しい段階にあります。

 しかしながら、人口密度と出生率の低さが関係しているのではないかという研究はなされており、都市部の待機児童問題や、小学校の過密化、子供の遊び場が失われている現状などを見る限り、都市部の環境が子育てする上で不利に働いているというのは妥当な推論であるように思えます。

 けれどもう一点、ここで指摘したいのは、若者が都市部へ移動することにより、都市と地方で世代が切り離されてしまう問題です。

 もし地方の若者が都市部に行くのではなく、地元で働いて生活していくことができるのなら、やがて結婚して子供を育てていくときに、必要とあれば実家を頼ることができるでしょう。

 母親が働きに出かけるとなったときにも、地方ならお爺ちゃんやお婆ちゃんに子供を預けられるような環境があるはずで、世代をこえた助け合いのなかで子育てをしていけます。しかし若者だけが都市部に移動してしまえば、そうした環境はなくなります。

 平成の30年間はまた、労働者の非正規化が進み、安定した雇用の中で結婚して子供を育てるという従来の生活スタイルを作ることが難しくなっていった時代でした。都市に出てきた若者の多くが置かれるのはそうした状況です。このとき、子育てに協力してくれる世代がいたらどれほど助かるかわからないのに、都市に出てきた若者にとって、地方の実家は正月とお盆に帰るだけのものになってしまうのです。

 ですからいま日本で起きている少子化は、単なる少子化ではありません。都市と地方の偏りが極端化していったがゆえに、人口の減り方もまた加速的に起きたものなのだという恐ろしい現実が見落とされています。

 本来、人と人はばらばらに生きるものではなく、お互いに関係し、支えあって生きていくものです。子育てもまたそうした中で行われることであるはずです。しかしあるべき人間関係が都市と地方でばらばらにされ、世代が切り離されてしまった――そのことが人口減少にどれほどのインパクトを与えたのかということは、検討されるべき重要な問題であるはずです。


⭐お金を使えない高齢者たち

 消費税の必要性について、財務省は次のような説明をしています。

「今後、少子高齢化により、現役世代が急なスピードで減っていく一方で、高齢者は増えていきます。社会保険料など、現役世代の負担が既に年々高まりつつある中で、社会保障財源のために所得税や法人税の引上げを行えば、一層現役世代に負担が集中することとなります。特定の者に負担が集中せず、高齢者を含めて国民全体で広く負担する消費税が、高齢化社会における社会保障の財源にふさわしいと考えられます」(財務省・消費税引き上げの理由)

 消費税の逆累進性について触れられていないのが不満ですが、財務省の説明を言い換えるなら、「働いている人が減り、年金を受け取る人が増えていく中で、後者からも税金をとるようにしていきたい。所得税や法人税ではそれが有効にできないため、消費税が必要なのだ」ということになるでしょうか。

 日本の年代別平均貯蓄金額のデータからは、今の若者はお金がなく、高齢者はより多くのお金を持っていることが示されます(※この点はあくまで「平均」で言えることで、高齢者は貧富の差が大きいことには注意が必要です)。

 しかし高齢者がお金を使い、それが社会を巡るといった状況は、実現しているとはいいがたい状況です。例えば60歳以上を対象にして行われた調査では、貯蓄の目的を「万一の備えのため」とした割合が47.5%でした。これにたいして「普段の生活を維持するため」は17.8%、「子供や家族に残すため」は2.6%、「旅行や大きな買い物をするため」は2.0%にとどまります。(平成30年版高齢社会白書)

 ここで、高齢者がお金を使いたがらないということからもう一歩踏み込んで、高齢者はお金を使えない状況に置かれているのではないかと考えていくと、都市と地方で世代が切り離されているということが浮上します。

 もし、子供の世代が近くにいて、そこで孫が生まれ育つというふうであれば、お爺ちゃんお婆ちゃんはその孫のためにお金を使うでしょう。服を買い、ランドセルを買い、時にはおもちゃを買ったりもするはずです。

 しかしながら、地方の高齢者は少なからず、世代から切り離されて孤立して生きています。育てた子供が地元を離れて都市部へ行ってしまい、遠く離れたところで生活していくというふうになれば、地方に取り残された親がお爺ちゃんお婆ちゃんになったとき、頼れるのは自分が持っているお金だけという状況を強いられます。そうなれば、たとえいくらお金を持っていたとしても、節約し、もしものときの病気や介護に備えなければいけなくなってしまうでしょう。

高齢者は単にお金を使わないのではなく、世代から切り離されているがゆえに、使いたくても使えない状況におかれているという面があるのではないでしょうか。


⭐バランスを取り戻す政治を

 ここで取り上げたことは、いずれも都市と地方のアンバランスが世代を切り裂いたことによる問題です。都市と地方というのは、ただ単に一方が過密に、他方が過疎になることで生産力が偏ってしまうということを意味するのではありません。そのアンバランスの中で、人と人の関係が破壊され、一人一人が力を発揮して生きていくことができない環境が押し付けられてしまうのです。

 もちろん都市に出てきたい若者が、都市に出てきて活躍するのはよいことです。しかし、いま都市部へと流れている若者は誰もがそうなわけではありません。地元にとどまりたいと考える若者が、職がないがゆえに都市部へ行かなければならないという状況もまた少なくはないのです。

 若者は仕事があるところへ向かいます。投資が行われるところへと動いていくわけです。だから例えば図1の人口増加率は、どこで投資が行われているかを間接的に可視化しているということもできます。

 ある場所に投資することによってそこに人が集まってくるというのは、その地域に限ってみれば良いのでしょう。けれどその背後では、常に別の何かが損なわれているのです。

 東京でオリンピックをやるという投資も、横浜でカジノをやるという投資も、大阪で万博をやるという投資も、都市と地方のアンバランスを加速していきます。日本の未来をいっそう暗いものにしていくということです。

 そうした経済政策により、何を得て、引き換えに何を損なっているのか――そうしたことに、学者も、評論家も、与党も野党も、日本列島を俯瞰して気づくべきでした。

 今の日本はバランスを欠いています。その中で高齢者も若者も、多くの人が力を十分に発揮できない状況におかれ、生産も、消費も、子育ても歪められてしまい、それらが絡み合って日本の成長を阻害し、衰退させています。だから今、これまでの経済政策を転換し、都市と地方のバランスを少しでも回復することが求められるのです。


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三春充希(はる) ⭐みらい選挙プロジェクト

社会を変革する手段としての正確な政治情勢分析を、誰からも独立して探求しています。著書に『武器としての世論調査――社会をとらえ、未来を変える』(ちくま新書)。自由にフォローしてください。Twitter: https://twitter.com/miraisyakai

情況への発言

コメント1件

東京に代表される大都市への投資を控えたら格差が縮まるというように読めるのですが、多分それをやったら日本語が通用する東京の代わりを日本語の通じない北京・京城・台北・香港・上海と言った都市がするだけだと思います。例えば韓国では職の見つからない若い大卒者が日本をはじめとする海外へ流出していますし、出生率も日本の2/3くらいの0.98でここ3年で出生数は3/4に激減しました。
http://blog.livedoor.jp/brothertom/archives/80028432.html
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