そしてあの時、少子化を避ける最後の道をなくした――「武器としての世論調査」番外編③

1990年代は、投票率が急落し、無党派層が急増していった特異な時期でした(番外編②参照)。

この時期にはまた別の、とても重要な出来事が起きています。それは、この時期にこそ少子化が決定的になったという事です。そしてその背景にあるものは、投票率の急落や無党派層の急増とも無関係ではないはずなのです。

上に日本の人口ピラミッドを示しました。これには2つの人口のピークが見られます。第1次ベビーブームの世代と、その子供にあたる第2次ベビーブームの世代です。

第1次ベビーブームは1947年~1949年に生まれた人たちにあたります。つまりこれは終戦の後、兵隊にとられていた男子が戻ってきて、生活のめどもつき始めてきた頃に子供が多く生まれたことを意味しているわけです。

第2次ベビーブームは、第1次ベビーブームの世代の子供にあたります。これは一般的に、1971~1974年に生まれた世代とされています。親世代の人口が多ければ、それに応じて子供も多く生まれるというのは自然なことのはずです。

しかしこの「自然なこと」は一度きりで、第3次ベビーブームは起こりませんでした。

その原因として、第2次ベビーブームの世代に非婚化や晩婚化が起きたことがよく挙げられているようです。しかしこれは根本的なことを説明していません。なぜ当時の若者は多くが結婚しないことを選んだのでしょうか? あるいはなぜ結婚を遅らせることを選んだのでしょうか? それをもたらした社会的な背景があるはずです。

1971~1974年に生まれた第2次ベビーブームの世代は、20年たって有権者になったのが1991~1994年の頃でした。そして初めての選挙を経験してきました。

まさにこの時期に起きていたのがソ連の崩壊(1991年)であり、バブルの崩壊(1991~1993年)だったのです。

ソ連の崩壊は左派の弱体化をもたらしました。また、左派と右派の対立軸を突き崩してきました。長年、対決してきた社会党と自民党が、ソ連崩壊からわずか2年半で自社さ連立政権をつくったのはそのことのあらわれで、このわずかな期間に2党の距離感は一変したわけです。

そして、社会党は思想的な基盤もゆらぎ、やがて解体へ向かいました。社会党の後を担う勢力として、自民党という従来の保守と、新しい保守(新進党など)のせめぎあいがおこりました。社会党がゆらいでいったことは、保守二大政党制を目指した小選挙区比例代表並立制の導入とも無縁ではありません。

そして、左派の衰退はまた、労働者の権利の後退を結果しました。そういう状況の下で日本の経済を直撃していたのがバブルの崩壊です。アジア通貨危機もまた、続いて起こりました。

そうした状況の中で社会に出て行ったのが、第2次ベビーブームの世代だったのです。

当時、若者の生活は急速に不安定になりました。未来が見通せなくなっていきました。そして、多くの若者が子供を育てないという選択をすることを選ばざるを得ない状況になりました。前回このように書いたのは、そういうことです。

終身雇用が崩壊し、労働者の権利が後退し、非正規化が進み、ブラック企業が野放しにされ、多くの人たちが、安定した雇用の中で結婚して子供を育てるという従来の生活スタイルを作ることができなくなっていったのです。社会に出ていく時にいつもそういう展望を描けない道へ進まざるを得なかった人たちがいました。政治はそれに対して無力であり、政治に距離を置く層や、政治に失望した層が多く生まれました。

一つの側面から言うならば、今の無党派層の多さや投票率の低さは、それが降り積もった結果にほかならないのです。バブル崩壊以降の日本の30年の停滞が、日本の社会の中にそういう一つの集団を作ったともいえます。そういう人たちを社会の中に取り戻すという事をできなければ、日本の社会が再び元気を取り戻すことはあり得ません。政治的な停滞や経済的な停滞を破ることはありえません。

政治はこの無党派層にたいして光を与える必要があります。政治が無党派層に光を与え、無党派層がそのような政治家に力を与えることで、未来は大きく変わりうるはずです。

第2次ベビーブームの世代が少なからず子供を作らないという選択をしたことは、少子高齢化を決定的なものにしてしまいました。第2次ベビーブームの世代が親となりえた1990年代からしばらくの時期こそ、人口回復の最後の機会だったからです。

現在は、新たに子供を作る若者そのものが少ないため、ベビーブームはもう二度と起きることがありません。このことは、途方もなく大きな損失です。

非正規化雇用を進め、労働者の解雇をしやすくし、ブラック企業やサービス残業を野放しにしてきたのは政治の選択です。前回の記事では「政治はそれに対して無力であり」と書きましたが、本当にはっきり書くならばそれは政治が行ったことです。

そういう政治のあり方にたいして、当時の若者は、そして非正規雇用がさらに拡大している今の若者はどう思っているでしょうか。投票率や無党派層を考える時、第2次ベビーブームから下の世代で投票率が特に低く、無党派層が圧倒的に多いことは、とても示唆的です。

未来が見通せず、疲れ切った体で家に帰ってきてろくに睡眠もとれないでまた働きに行かなければならないような状況があるなかで、子育てしようと考える若者が増えるはずもありません。

政治が考えるべき問題はそこなのです。それなのに「子供産まない方が問題」などとふざけたことをいう政治家がいるのはどういうわけでしょうか。様々な経済的な波乱がある中で、子供を産み、育てることができるようにバランスをとり、支援するのが政治の役割なのではありませんか。

子供を産み、育てるということは社会の基盤です。それはあまりに根本的な産業以前の問題です。この大きな負の状況の中で、いま改めて状況を立て直すことが必要となっています。


🔹P.S.🔹 武器としての世論調査といいながら、世論調査のことをぜんぜん話してないと言われるかもしれません。でも、世論調査だけで見えるものは決して多くはないんです。

支持率を見る、選挙のデータを見る、そういうこともいっぱいやってます。でも、票とか支持率とかのことだけを考えているわけではありません。票や支持率の向こうには、この社会で生活している人がいて、直面している問題があり、思い悩んでいることがあります。それに迫るためには、あらゆる知識や学問、データを総動員する必要があります。

分析にできるのは、今の社会の姿をどのように見ていけるか、それを力にしてどのような未来を描けるかという一点です。「武器としての世論調査――社会をとらえ、未来を変える (ちくま新書) 」はそういうような視点や問題意識のもとに、世論調査を活用しながら書いています。社会を変えるこころみです。


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80~90年代の分析がちょっと大雑把すぎるのではないでしょうか。社会党や労働組合に関しては自民党が「国労つぶし」を行なったと中曽根が明言しています。また日本は欧米と異なり産業別労組ではなく企業別労組であったことが、非正規雇用の増加により労働交渉力の低下を招いています。さらにソ連崩壊後は日本では(誤った)「ポストモダン思想」の蔓延により、倫理の相対化、政治参加への忌避がキャンペーン化されました。これらが現在の状況に直結しています。
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