深読みで楽しむDetroit:Become Human (28) 3章だけ待ってやる

はじめに
 本記事はDetroit: Become Humanを最低でも1度はクリアした人向けの、本編ネタバレ満載の内容となっています。さらには本編の内容を直接解説した部分が3割くらい、残りの7割が深読みと邪推とこじつけで構成されています。以上の点をご了承の上、お読みください。

『最後の切り札』シノプシス
 FBIが変異体事件の捜査を引き継ぐことになり、ハンクとコナーは任務を解かれる。このままサイバーライフに返却されればお役御免となってしまうコナーは、これまでにあつめた手がかりを元にジェリコの場所を突き止めようと考える。

リアル「デトロイトの戦い」
 ジョー・バイデン前副大統領の次期大統領選出、おめでとうございます。
 バイデン・ハリス陣営の勝利はDBHマニアからしてもかなり熱い展開でした。DBH視点で印象に残るのは「デトロイトの都市票がミシガン州の選挙の行方を決め、ひいてはバイデン陣営の勝利へと全体の流れを印象付けたこと」、そして「ペンシルバニア州でもフィラデルフィアのリベラル票が、州のみならず全国レベルでも勝者を決定づけたこと」、この2点です。
 ここまでゲームをプレイしてきていると、そろそろ「世論の支持」というパラメータが気になってくるところなのですが、デトロイトの票とフィラデルフィアの票で青(民主党)の支持率がグングン上がっていくところは、おおっ選択肢正しい時のマーカスの抗議活動!みたいな勢いがありました。
 なお、フィラデルフィアは以前お話しした「クエーカー」の本拠地です。フィラデルフィアを州都とするペンシルバニア州の名前は、英国から移住してきたクエーカーの一人、ウィリアム・ペンに由来します。ペンは父が国王に貸していた借金のカタとして北海道の1.4倍ほどの土地をもらい受け、ここをシルバニア(森の地)と名付けました。実際、森が豊かだったからね。のちのち、他の人たちが「ペンさんの森だからペンシルバニアにしよう」といい出して今に至ります。つまりクエーカーは概ね「シルバニアファミリー・地下鉄道のレジスタンス編」です。
 フィラデルフィア(兄弟愛の地)という名前をつけたのも、このペンさんです。実は、フィラデルフィアは独立直後にはアメリカ合衆国最大の都市であり、一時(10年間)は首都でもあったんですよね。

 ところで、またタイトルの訳なんですけど、「Last Chance, Connor」はここでアマンダが告げる「コナー、これがあなたにとって最後の(挽回の)機会よ」という言葉を引っ張ってきているのであって、最後の切り札という「決定的な力を持つ何か」というよりはもう後が無いというネガティブな「背水の陣」なんですよね。かっこいい言葉ばっかり使おうとしてニュアンス無視するの、ほんとやめていただきたい。
 それはそれとして、この章ではいよいよコナーが親離れならぬアマンダ&ハンク離れを求められます。それまでは「アマンダの言う通り」もしくは「ハンクのお手伝い」と言う形で、誰かの指示通りに動いてきたコナーが、いよいよ自分の意思で捜査を始めることになるわけです。
 とはいえ、アマンダにカムスキー邸の写真などを見て感じた違和感について尋ねると「お前の仕事は捜査だから詮索するな」とあしらわれますし、ずっとおとなしくしていれば捜査失敗で廃棄されてしまう。ていうか、サイバーライフ的にはここで悪あがきせず廃棄されるのが良いアンドロイドなんですかね。だとすれば、彼らの求める人工知能というのは自己補正能力のない、文字通りロボットということになります。おそらく、それがサイバーライフの目指す「製品としてのアンドロイド」の姿なのでしょう。

ジェリコさんはどこからきたの
 さて、ここで一度、証拠保管室に集まっている(可能性のある)ジェリコの手がかりをまとめてみましょう。
 
【ダニエル関連】
ダニエル(8/15)の躯体(ヒントなし、パーツ取り用)

【カルロスのアンドロイド関連】
カルロスのアンドロイド(10月中旬)の躯体(死亡している場合、ヒントなし)
カルロスのアンドロイドのメモリー情報
謎の像(壊すと地図が入っている)

【ルパート関連】
ルパート(10/11)の躯体(確保→自殺している場合、再起動で日記の解読ヒントを入手可能)
ルパートの日記(解読でジェリコの情報を入手可能)

【エデンクラブ関連】
赤トレーシーの躯体(射殺した場合)
青トレーシー(11/6以前)の躯体(自殺している場合、赤トレーシーの首を使ってジェリコの情報を入手可能)

【ストラトフォードタワー関連】
テレビ局スタッフ(11/8かそれ以前)の躯体(射殺した場合)
サイモン(2/16)の躯体(タワー屋上で確保していた場合)
マーカスの演説の録音(スタッフもしくはサイモンを騙すのに使用)

変異のタイミング順に直すと
2/16 サイモン
8/15 ダニエル
10/4 ノース
10/11 ★ルパート
10/中 ★カルロスのアンドロイド
(11/2かそれ以前 ラルフ:2階の死体の腐敗状況から)
(11/5 マーカス)
11/6かそれ以前 ★トレーシー
11/7かそれ以前 ジェリー
11/6以前のどこか ズラトコの怪物、ルーサー

 このうち、ジェリコの存在を「知って(教えられて)」いたのはルパート、カルロスのアンドロイド、トレーシーです。一方、ダニエルのように、RA9やジェリコについて全く言及のないアンドロイドもいれば、ラルフやジェリーのようにRA9を認知しているがジェリコについてはおそらく知らないと思われる者もいます。ルーサーが(ズラトコの怪物たちの話をヒントに)ジェリコに直行するのではなく、ローズの助けを求めていることから、ズラトコの怪物たちやルーサーも、ジェリコについての具体的な情報を持っていなかったと考えられます。
 これからわかることは、「RA9(への信仰)は自然発生的に生まれる」が、「ジェリコの情報は誰かから受け取る必要がある」ということです。となると、変異体の目的地としてのジェリコがいつ成立したのか、というのが問題になります。

 サイモンはジェリコ勢の最古参の一人とされていますが、彼が変異してジェリコに来たときより前にジェリコの概念があったのかどうかは定かではありません。ただ、少なくとも彼が変異した2月ごろにジェリコが発生していた(既にあった、もしくはサイモンと仲間たちが集まった場所がジェリコになった)と考えられます。

犯人はお前だ
 ヒントとなるかもしれないのは、なぜかカムスキーがジェリコの「玄関」(ファーンデール駅)の場所から暗号まで全てを把握していることと、マーカスにジェリコのヒントを教えた廃棄アンドロイドの存在です。

 ちなみにこの廃棄アンドロイド、ちゃんとギャラリーにモデルが存在していて、名前を「フィリアス(日本語訳ではフィリーズ)」くんといいますが、このフィリアスという名前、あまりポピュラーなものではありません。語源はおそらくギリシア語のphile、つまり「好む、愛する」なのでしょうが、実際にこの名前をつけている有名人を探すと、実在・架空合わせてたった一人、80日間世界一周の主人公フィリアス・フォグ氏しか見つからないのです。
 同作品の作者ジュール・ヴェルヌはフランスが世界に誇るSFの父ですから、そこからのリスペクトでつけられた名前なのかもしれません。それにしても、19世紀の冒険活劇って、なぜか虐げられたアジア人美女を救出して、その女性に献身的に愛される話が多いよな、これといい、モンテ・クリスト伯といい。異世界転生でモテモテになりがちなネット小説みたいだな。まあいいや。

 さて、フィリアスくんの説明文には、「捨てられて長年たったので元の用途もわからなくなっている」「彼自身が明らかに変異体になっており、マーカスが変異体であったことに気づいてジェリコに行けと教えた」と書かれています。そんなことを言うフィリアスくんはアンドロイドの死体の山に埋まってるわけですが、埋まっているということは、廃棄されてからハンパなく長い時間が経っているということでもあるでしょう。
 そんなフィリアスくんが、ちゃんとジェリコの情報&場所を知っているということは、「サイモンがジェリコに参加するorジェリコを作る」よりも前から、ジェリコという概念が存在した可能性があると思うのですよね。
 つまりカムスキー、てめーだろ。

 コナーがカムスキー邸を去ろうとした時、カムスキーはわざわざ「私はソフトウェアに、常に"非常口"を準備している」と教えてくれます。これは直接的には、このゲームのラストへの伏線なわけですけれども、コナーのための「非常口」がアレであったように、自我に目覚めた量産型アンドロイドたちのための「非常口」としてカムスキーが準備し、特定のアンドロイドに仕込んだのが、「ジェリコ」の概念ではなかったのかな、と思うわけです。だからこそ、カムスキーは変異体から情報を得ている様子もないのに、ジェリコのことを知っていたのではないかと。その場合、フィリアスくんはカムスキーがジェリコの概念を仕込んだアンドロイドの一体だったのかもしれませんね。

 返す返すもカムスキーの行動を見ると、わざわざカールに特殊なアンドロイドであるマーカスを預けたり、コナーを煽ったり、アンドロイドが新たな知的種族として成立するのを期待している節があるんですよね。その一方で、ここでコナーがジェリコを見つけられず、カーラとマーカスが死亡している場合に発生する、通称カムスキーEDでは、サイバーライフのCEOに復帰した上で、二度とこんなこと(変異体の発生)は起きないと明言します。
 カムスキーEDでは、カムスキーは「アンドロイドには自立した知的種族になるだけの可能性はない」と判断し、本来の目的である機械製品として完成・完結させる方向で見切りをつけたのではないでしょうか。もしかすると、カムスキーがサイバーライフを離れることになった原因も、彼が知的種族としてのアンドロイドの可能性を追求したがって、営利企業・重工業メーカーとしてのサイバーライフ経営陣と対立したことにあるのではないか、と思ったりもするのです。だからこそ、壮大な実験が失敗に終わったと認めたカムスキーは、図々しくも元の鞘に収まって平気な顔をしているのではないかと。
 ほんとめんどくせー神だな、こいつ。

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