深読みで楽しむDetroit: Become Human (14) 残念の会へようこそ

はじめに
 本記事はDetroit: Become Humanを最低でも1度はクリアした人向けの、本編ネタバレ満載の内容となっています。さらには本編の内容を直接解説した部分が3割くらい、残りの7割が深読みと邪推とこじつけで構成されています。以上の点をご了承の上、お読みください。

【「鳥の巣」シノプシス】
 ハンクは昼食のため、行きつけの屋台に寄る。コナーはハンクとの関係を改善しようと会話を試みるが、その最中に近くで変異体を発見したとの報告が入り、二人で捜査に赴く。

金魚のフン=プードル?
 冒頭のシーン、前回(「逃亡者」で)死んでいない場合は、車を降りてついていくと、ハンクから「金魚のフンみたいについてくるな」的なことを言われますが、これは英語ではPoodleとなっています。フランス語でも同じくプードルを指すCanicheです。
 プードルはもともと猟犬(Canicheは「カモ猟の犬」という意味)で、のちに宮廷でも愛玩されるようになりました。大人しく賢いので(ボーダーコリーの次に賢い、つまり命令を覚えたり忠実であったりという飼い犬としての適性が高い)、昔も今も人気のある犬種です。飼い主にしっかり付いて回ることから、「言われるがまま命令に従う人」というスラングにもなっています。コナーは犬系。ちぃ覚えた。ちなみに、プードルに特徴的な「関節だけに毛を残したカット」は、主に水鳥猟に使われるプードルが、水中を泳ぐ際に泳ぎやすく、でも関節は冷えないようにという目的で考案されたのだそうです。
 違法賭博に誘う青年や、不健康そうな昼食メニューなど、ツッコミどころのたくさんあるハンクに一つ一つツッコミを入れると、むしろ好感度が上がるのがハンクのチョロ、もとい面白いところです。また、ここで「なぜ高速で追跡を止めたのか」を聞くと、「お前が死んだら困るだろ……し、心配なんてしてないんだからね!俺が始末書書かされるのが嫌だっただけなんだから!」とわかりやすいツンデレをかましてくれます。
 逆にコナーが前の場面で死んでいる場合、「お前は高速でs……トラックに轢かれてただろ!」と、やはりアンドロイドの破壊を人間の生死と同一視していることを匂わせます。それに対して、コナーの「壊れた機械を交換しただけですが、何か問題でも?」という態度は正反対のものです。

 ハンクのアンドロイド嫌いの理由は後々(ルート次第で)明らかになりますが、それはそれとしてハンクの感情的には、アンドロイドとは深い友情を築けない(社交性はもちろん、すぐ破壊・交換されてしまう=死んでしまう、という側面も含めて)からこそ、距離を取っているのかもしれないと感じるやりとりです。
 また、ここでハンクがコナーに「どうせ俺のことも調べあげてるんだろ?」と尋ねる下りも、ラスト近くの展開への伏線となっていますね。どんだけツンデレだよこのおっさん。
 

鳩の名は
 通報を受けてルパートが潜む部屋を調査するハンクとコナー。ここでも、ハンクはノックをコナーにさせるにも関わらず、突入するときには自分が先に入ろうとします。やはり、ハンク目線ではアンドロイドでも相方は消耗品ではなくパートナーなわけですね。
 部屋の中にはさまざまな手がかりが残されていますが、ちょっと面白いのが、ジャケットにハンクが先に気付いた時のやりとりです。「イニシャルが入っている」ということはコナーでもハンクでも見つけた人がいうのですが、ハンクが見つけた場合、コナーが「変異体は自分の名前を所有物に書きたがる傾向がある」とコメントします。この情報は他では出てこないような気がするのですが、「マーカスが廃棄場を脱出して名乗りを上げたこと」や、この後カーラが記憶を消されたときにも「名前を思い出す=自我を取り戻す」であることなどからも、固有名を持つ、オンリーワンであることの変異体にとっての重要性が伺い知れます。

 それにしても、ルパートの部屋、ハンクが(ルパートを見つけられなかった場合)「喘息発作でも起こす前に帰ろう」というくらいで、ずいぶんと鳥の羽や糞、それに群がるダニ(およびその臭い)だらけで大変なことになっていそうです。こういうときに、呼吸しない、かつ臭いを検知できても「臭くて耐えられない」ということがなく、感染症にもかからないアンドロイドは便利だろうなと思います。ちょうど今、コンゴ民主共和国で深刻なエボラ出血熱の蔓延が起きていますが、高機能なアンドロイドがいれば患者さんたちの対応をリスクなしでできるんですよね(ただ、その後、安全のために廃棄する、とかいうことになりそうですが、この世界)。
 他にも、なんで鳩が好きになったのかとか、鳩の餌はどこで仕入れてきたのかとか、そもそもあんなに鳩が群がってたらもっと早くご近所さんに目をつけられなかったのかとか、ツッコミどころは割といろいろありますが、その辺は気にしないことにしましょう。暗号でポエムを書くとか、ルパートはなかなかのロマンチストと見えます。でもここだけしか出てこないんだよね。
 
残念の会へようこそ
 ルパートを見つけた場合は、ルパートの元の職場でもあり、チラシやらポスターやら雑誌やらに登場する「デトロイト都市農場」を舞台としたチェイスが始まります。しかしこの都市農場、最近日本で増えてきている野菜工場とは違って、ただのハウスとか屋上緑地とか水耕栽培レベルのような……多分TOKIOのほうがうまいやt
 チェイスに成功すると、最後に「ハンクを助けるか、ルパートを追い詰めるか」の選択肢がありますが、チェイス中にルパートを見失った場合はハンクに慰められることになります。そのときにハンクが告げるのが「Welcome to the club」という表現、「これでお前もお仲間だな」というニュアンスで、みんな失敗してるから気にするな、くらいの意味でしょうか。やはりハンクは、アンドロイドも人間と同様のお仲間だという認識のようです。

 ストーリー上「アンドロイド憎悪派」が強調されていますが、GBH世界では必ずしも全ての人がアンドロイド嫌いなわけではないようです。実際にギャラリーを見ると、「子どもたちの世代は、小さい頃からアンドロイドが周りにいたので、そこまでアンドロイドを毛嫌いしていない。しかし、彼らが成長して労働市場に出るときも、同じように思えるだろうか」のようなことが書いてあります。
 ただ、技術革新によって人がそれまでの仕事を失ったり、労働市場が変化するというのは、これまで幾度となく起きてきたことなのですよね。カムスキーも「蒸気エンジンが発明されたときも似たようなことを言われたが、結局進歩を受け入れない人はいない」と言っていますが、まさに蒸気機関が発明されたことで第一次産業革命が起こり、ヨーロッパの労働力は農業(第一次産業)から工業(第二次産業)へとシフトするわけです。それを考えると、ゲーム中におけるアンドロイド産業と失業者の対立も、いずれは市場の変化に織り込まれていく一時的な軋轢に過ぎないのでしょう。と言われても、実際に割を食う人びとにとっては、たまったものではありませんが。

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