薄ら寒さを感じた

近藤聡乃の漫画『A子さんの恋人』を読んだ話。

A子さんには2人の恋人がいる。
ひとりは大学時代から付き合っているA太郎。
いつの間にか人のフトコロに入ってしまう人懐っこさと、自分の外見をよく理解した手抜き感。そして性格の悪さの3つが彼の構成要素。
もうひとりは留学先で出会ったA君。
多国語を操るインテリ眼鏡。基本的に人に関心を持たないが、A子には絶妙な飴と鞭(甘やかしといびり)を発揮する。
そんなアクの強い2人にA子さんは翻弄される、という話だ。

登場人物は上の3人に加えてA子の大学時代からの悪友U子とK子、そしてA太郎にずっと片思いをしているI子。
「人タラシの男いるよね〜」
「自分は登場人物のなかだったら誰タイプだろう」
「結局A子さんはどっちを選ぶんだろう」
なんてことを思いながら読んでたんだけど、巻を追うごとにゾッとするような怖さを感じるようになった。

A子の画風をそっくり真似できるA太郎。※A子の職業は漫画家
先生に高評価をもらった作品をそのへんに転がしておくA子。

なんでもない描写なんだけどなんとなく不穏なコマが散りばめられているのだ。
1番わかりやすい、かつ直接的な表現をしてたシーンがこれ。
10年越しでA太郎に告白して見事フラれたI子はA子に喧嘩をふっかける。
「いつでも消える準備をしているように見えた。どちらの前からも消えても大丈夫なように、身軽でいようとしている。ズルい」
I子の言葉にうろたえるA子同様、私もうろたえた。
けどその理由はA子と私では違う。
A子の場合は全然身に覚えのないもの、または自分の無意識を暴かれたような気持ちからくるうろたえだったと思う。
けど、私は読者としてずーっとモヤモヤしていたA子に対する不信感をズバッと言い当てられたからうろたえたんだと思った。

そして、多くのフィクションの場合、「いつでも消える準備ができている人」って男性のことが多い気がする。
「女は待つもの」そんな作品に見慣れてた私は、どちらの思いもかわして最悪両方の前から消えればいいと思っているA子に薄ら寒さを感じたのだった。

このゾワっと感、やめられない。
https://twitter.com/akinokondoh/status/941318323568107522


小沢健二のアルバム『LIFE』を聞いた話。

Apple Musicに「Tokyo Music & Us」という番組が公開された。
あの小沢健二が、毎回ゲストを迎えてトークとセッションを行うというもの。
初回ゲストは満島ひかりだった。
アルバム『LIFE』について、ニューヨークの暮らしについて語り、最後に『ラブリー』をデュエットしていた。
日本の音楽レベルに関するオザケン節も、チャーミングとしか言いようがない満島ひかりという存在も、本当に最高だった。

初めてあのアルバムを聴いたのは高校生の時だったと思う。
「僕は君がいて幸せだーわーい」みたいな曲ばっかりなのに、なぜか薄ら寒さを感じたのを覚えてる。
そのちょっとした不快感を、あまりにハッピーな歌詞とオザケン独特の無駄に丁寧な歌い方のせいだと思っていた。
こんなハッピーな歌をずっと歌ってて正気なのか?みたいな。

けどこの間番組を見てたら、あの「薄ら寒さ」の正体をオザケン自身が教えてくれた。
彼曰く、「LIFE」の収録曲にはわざと低音を入れたらしい。
ズーーーーーーっていうものすごい低い音。
マスタリングの際、技術者に「こんな音を入れていたら絶対ヒットしない」と言われたけど、オザケンは譲らなかった。
「微笑ましく馬鹿でありたいけど、根底には怖いこと、恐ろしいことがある。それをなくしたらただの微笑ましい馬鹿になってしまう」そうだ。
ヒトは低い音に恐怖を抱く生き物らしい。
高校生の私は無意識のうちにその恐怖を感じていたんだろう。

oh baby lovely lovely こんなすてきなデイズ いつか誰かと完全な恋におちる oh baby lovely lovely 甘くすてきなデイズ

久しぶりに聞いた「LIFE」に、私はやっぱり薄ら寒さを覚えたのだった。

アルバムを聞くこと、漫画を読むこと。
まったく違う行動ではあるのだけど、私は「薄ら寒い思いをした」という共通項を見つけた、ただそれだけ。
これはその体験を記したメモであって、それ以上でも以下でもない。

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羽原

自覚的自虐的サブカル
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