本物

ギリシャラブと2017年3月

 スタジオでレコーディングされ、ミックス、マスタリングを経たうえで聴かれるCDなどの音源には音源特有の良さがあって、ライブにはまたライブの良さがあって……、というようなことを書こうかとおもったけれどやっぱりつまらないのでやめる。それにぼくがそれを書くとそれは嘘でしかありえないだろうから。

 つい二年前まで住んでいた兵庫県の三田市はフラワータウンという町には、誰もライブなんかしに来なかった。外気から遮断された魔法びんのような町でぼくらにできることといえば、音源を聴くことだった。

 毎日飽かずに聴き続けた。それによって、ぼくが作られていった、というよりもむしろ、ぼくが壊されていった。ブラーでもニュートラル・ミルク・ホテルでもいいのだけれど、はじめて音源を聴いたときに、ぼくがそれ以前に苦心して自分のなかに作り上げていた秩序が壊されたという気がした。

 京都に来て、本日休演のライブを観た。不思議なことに、三田の自室でブラーを聴いたときとおなじ現象が自分のなかで起こった。

 つまるところ、ライブだって、レコーディングだって、自分がやるときも、他人のを聴くときも、自分のなかにある秩序を破壊するためにやっている、とぼくはおもう。だからライブにばっかりいって音源をまるで聴かなくたって一向に構わないし、その逆ももちろんいい。好きな女の子が部屋に来たときにすぐターンテーブルを回しはじめる男のことを、素敵だとおもう女の子が世界中にひとりでもいるのかどうか、ぼくにはまったくわからないしわかろうともおもわないけれど、それだって別に構わない。音楽なんか聴かないひとがいてもいいし、死ぬひとがいてもいいとおもう、生きているひとがいて、死んでいるひとがいる、というのがいい。

 ぼくは今日、三月二二日にタワーレコードのインストアライブに出演する、といっても、じっさいにはこの文章を書いているのは三月十九日で、昨日、三月十八日には、京都二条のnanoというライブハウスで自分たちのアルバムのレコ発ライブをやった。一週間前には東京で今回公開された動画のライブに出演していた。今日は十四時に目を覚ました。ひとまず米をといで、食器を洗い、洗濯機をまわした。できれば、今日は一日じゅう家にいたい。いろいろやらなければいけないことはあるのだけれど(この文章を書くのもそのうちのひとつだ)、〆切がなかったりまだ先のものはとりあえずうっちゃっておいて、家でできることばかりを選ってこなしていけば、ずっと家にいられるとおもう。

 だれがなにをいってきたって関係ない。ひとは自分で自分の生き方を決めることができる。それがブラー、ニュートラル・ミルク・ホテル、そして本日休演から教わったほとんど唯一の教えだ。

二〇一七年 三月十九日

ギリシャラブ 天川悠雅

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そんな天川くんが作詞作曲ボーカルをつとめるギリシャラブ。当日のライブ映像はこちら!
珍曲にして名曲、「パリ、兵庫」。



そして、本邦初公開!新曲にして名曲、「ブラスバンド」。
歌詞も付いていますよ。


  

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